scene3 : 待ち合わせ


「アカネ、よっ!」

「…ん、…おお」

「まだ俺達だけかー」


駅の駐輪場には茜が先に来てた。

日陰の花壇のフチに、座るようにもたれか掛かって、ペットボトルのレモネードを飲んでいる。


「あぁ、ペケは来るん初めてやから、先に案内とか紹介とかだけしとこー思て」


それで、他の人は後で来るんだと説明される。

話を聞くと、この間の三人の他にもメンバーがいるんだとか。

茜と朝園と一緒に居れるような人か………どんな人なんだろ?

楽しみなような、怖いような…



茜に連れられるまま自転車を押して歩いてる途中のこと。

さっき茜に近づいた時からひとつ気になってた事があって…ちょっと気後れしながらも聞いてみることにした。

こういう事を聞くのもどうかとは思ったんだけど、放っておくのもモヤモヤして…


「なあ…茜ってさ…」

「…? なに?」

「もしかしてタバコ吸ってる…?」

「は?? 」


こいつって思った通り結構不良っぽいし…もし吸っててもしっくりきちゃうんだよな…


「いや吸ってないわ」

「ん、そっか………」


それ聞いて安心した。

吸ってたらどうしようかと思った…ただの勘違いだったか。


「急にどうしてん?」

「え? あ〜……まぁ…吸ってないなら別に…」

「は? ……なんや歯切れ悪いな。ええから言いーや」

「そうだよね………うん…あの~……」



「さっき会ったとき…結構、だなって思ってさ…匂い消しのためなのかなって…」

「…っ!!! はっ…はあっ??! 」


しまった、と思った時にはもう遅い。

茜はみるみるうちに頭に血をのぼらせ、今にも殴りかかってきそうな勢いで声を荒らげる。

やべ……っ


「別にキツないわ!! きっっっしょ! ハーッ?? しねボケ!」

「ごめん! そんなにキモかった? わるかったって! 俺が悪かった!」


そこまでダメだったのか…デリカシー無かった…?

悪いことしたな…って…!


「あぶっ!! ちょ待った! ごめんって! 暴力は止めよ?!」

「ボケェ!! ……んのボケェ!!」

「ごめん!! マジでっ!! あ゛ぁっっい゛!!」


ダメダメダメダメ! やっばい!

この人やっぱ怖いよ! 危なすぎる…!





「………………」

「…………」


「……ちっ………………」

「……………………ぅす……」


で………オートロックのマンションに辿り着いた。


ここに着くまでになんとか…うっすら不機嫌、くらいにまで機嫌を直してくれた茜は、手慣れた感じで鍵を開ける。俺達は403号室に入っていった。


「…お邪魔します。おー…! ここって……茜さんの家?」

「いや、ウチのんじゃない。先輩のやねんけど、使わせてもらっとんねん」

「え…! いいの? 鍵とか持っちゃってるじゃん!?」

「一応言うとくけど…パクっとるとかちゃうからな? ちゃんと本人から預かっとる鍵やで?」

「マジか! 」


先輩の家か…一人暮らしだよね? いいよなぁ一人暮らし。


「え、茜さんの彼氏的な…?」

「ちゃうわっ!」

「うぉっ…? ……そっか…?」

「先輩が使家やねんけど、まー、忙しくて結構空いとんねん。やからその間は使ってもええって話」


「え……その先輩って……!」

「おお、ウチの学校の有名人の、あのパイセンや。知っとるやんな?」

「そりゃ知ってるよ! え、マジ? の家、自由に使わせてもらってんの? ヤっバ!」

「ええやろ? ウチらの秘密基地やで」

「アがり過ぎでしょそれ…!」

「やろ? まあ、適当に座りーや」


あの先輩って、あの、 ”俳優の先輩” か!

今、高三だよね! そういえば入学式の日に先輩いたなー。

あの人と、しかも結構親密な繋がりがあるって、茜さん……すっげー!



先輩の部屋は広めのワンルームで…そこに、ウッドフレームの二人掛けソファ、ゆったりした一人掛けソファ、オットマンが、それぞれ一台ずつと、

あとは人を駄目にしそうなクッションが置いてあった。


この溜まり場感、見るからにただの一人暮らしの部屋じゃない。あとベッドは無い。

そういう配置と、各々が持ってきたっぽいよく分からない雑貨?とかがもう、The 秘密基地! って感じですげえワクワクする!


「ほい」

「え? ありがと!」


茜がレモネードをコップに注いで持ってきてくれて、なんかそれも嬉しかった。


「なんやねん子供みたいやなぁ、はしゃいでもうて、かわいいなぁ〜!」

「うっせ! だって良過ぎだってこの部屋! こういうの憧れだよな〜!」


なにこれ…こんな…俺のことクラブに誘ってくれてマジで感謝だわ…!

よく分からないクラブとか思ってたこと、心の中で謝っとこ…


「ハハハ…………ふふっ……。

 ……………ペケ。……記念に写真でも撮るか?」

「え? 撮ってくれんの?! 頼む!」


どこにしよっかな…座るとこいっぱいあるのに一人だからポツンってなっちゃうよな〜!


「…………」

「え? あの、はいスマホ…茜?」

「……………………………チッ…………撮るんそこでええん」

「え? あぁ、んん…あ〜〜〜〜んじゃあここで! 頼む!!」

「サンニーイチはぁい」

「はやっ!」




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