第10話

恐怖に身を震わせながら「もうやめてお母さん!」とありったけの声で叫んだ。

ご先祖様は法師陰陽師だった。おばあちゃんの言葉を思い出した。

役人の陰陽師には頼めない後ろ暗い呪いを引き受け、呪詛を生業としていた。

深い憎しみと、決して癒えることのない悲しみ。お父さんの心を独占するあの人への烈しい嫉妬がくるみ割り人形に封印された悪いかみさまを目覚めさせたのかもしれない。

「お母さんごめんね。私が生まれてきたばかりにお母さんに悲しいおもいをさせてしまって。私は存在してはいけない子どもだったんでしょう。やっと思い出したよ」

私は心肺停止の状態で生まれてきた。

おばあちゃんはお母さんが大切にしていた二体のくるみ割り人形に、孫が生き返るよう一昼夜飲まず食わずで祈り続けた。

こうしてくるみ割り人形は依り代になり、相反する二つのかみさま。つまり、よいかみさまと、わるいかみさまの魂が宿ることになった。

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