第29話 俺、性欲の権化に襲われる
今、メイドに案内されているのは、姉ちゃんと一緒の部屋。いらん気を回したのか、部屋が一緒って色々マズイんだよな。
姉ちゃんはまさしく性欲の権化だからだ。
暴走すると止められないから俺も別室にして欲しかったのに……。
「ネオ君、やっと二人きりになれるね」
「今はやめろって姉ちゃん。メイドが側にいるから」
「気にすることないよ。だってあんなに愛し合った仲じゃない。お姉ちゃんとネオ君は」
ほら、見てみろ。
さっき会ったばかりのメイドの視線がもう冷たいものに。誤解を招く言い方をやめろって常日頃から言ってるのに、全然聞こうとしない。
父さんと母さんの前ではいい子ぶっちゃってさ。
ほんと人を騙すのが上手いよ。
「お姉ちゃんとネオ君の愛は永遠に」
「何を言ってる? わけがわからんのだが」
「種族を超えての婚姻。年の差関係なし。家族だろうとお構いなし。好きな人には大胆にアプローチを」
「えっと、マジで何言ってんの?」
「この前買った小説に書いてあったの」
「タイトルは?」
「確か【種族を超えた愛、弟を愛した私の病】だったような……」
「それ創作物だから! 真に受けちゃダメなやつ!」
「え~そうなの?」
「そうだよ! 創作物は許容範囲さえ守ってればもう何でもアリなんだよ!」
姉ちゃんはやはり天然、いや影響されやすい悪魔なのかもしれない。
「どうぞ、こちらが坊ちゃまとリリス様のお部屋となります」
「ありがとう」
「どうもね~」
部屋に入ると、宿の一室とは違いやっぱり広い。
でもここまで広かったら逆に落ち着かない。
いっそ物置とかでもよかったのに。
「見てみて~ベッドふかふか」
「そうだな、楽しそうだな姉ちゃんは」
「楽しいよ、だってネオ君のお父様からは婚姻を認めてもらえたし」
「え? いつ? どこで? 俺そんな話聞いてないぞ」
「だって『これからも息子をよろしく頼む』って言ってたよね」
「いや~そんなこと言ってたっけ? あははっ」
姉ちゃんの脳は一体どうなってるんだ?
自分にとって都合のいい解釈をしている。
父さんはこれからも俺の家族としてよろしく頼むって言ったに決まってる。それなのに、なぜ婚姻がどうとかって話になるんだ
。
こんな感じで毎度毎度心の中でツッコむのもそろそろ限界に近い。これが生涯ずっと続くと思うと、ほんと鳥肌もんだな。
ツッコミが原因で過労死なんてシャレにならん。
どこか一人になれる場所……そうだ、一人じゃないけどユリアナに匿ってもらおう。
それが俺の今には必要なことだ。
「姉ちゃん窓の外に!」
「どこどこ? ネオ君を狙う不肖な輩はお姉ちゃんが成敗しないと」
よし、よそ見してる今なら楽勝だ。
今のうちに部屋を出てユリアナの部屋に向かおう。
そっと忍び足で部屋を出た。
俺が案内されたのは二階の部屋だった。
ユリアナが案内されたのは、おそらく俺が捨てられる前にいたあの部屋、のはずだ。急いでその部屋に向かうと、中から人の気配がする。
扉をノックすると、顔を出したのはユリアナだった。なぜ、きたの?と言わんばかりの顔をしている。
だから俺は正直に話した。
「姉ちゃんから逃げてるんだ。この部屋で匿ってくれ」
「ネオそれはできない相談よ。今は大切な家族でしょ? そんな裏切り行為はよくないわ」
このクソ真面目な性格――まあ、ユリアナのいいところではあるけど、マジで妥協ってもんを知らないな。家族がどうとか、裏切り行為がどうとか言ってる場合じゃないんだよ、こっちは。
相手にしているのは、性欲の権化――所謂、悪魔の中の悪魔を相手にしてるんだ。色んな意味で《厄災》の姉ちゃんを。
これならまだ勇者を相手にした方が何倍もマシだ。
「ほんと頼むって」
「そこまで言うなら仕方ないわね」
「助かる」
俺はすぐさまユリアナの部屋に入った。
で、大きなベッドの下に隠れると、扉をノックする音が聞こえた。
とうとう気づいて探しにでもきたか。
「失礼しますわ、ユリアナ様。ネオ君――ネオちゃんはいらっしゃいますか?」
あれ、母さんの声だ?
そう思った俺はベッドの下から母さんに姿を見せた、はずだった。しかし、そこにいたのは母さんではなく、変声の魔法を使って俺を誘き寄せた姉ちゃんだったのだ。
俺を嘲笑うその視線。
姉ちゃんはざまぁと言いたげな態度で腕を組む。
「ネ・オ・く・ん、これはどういうことなのかな?」
「そ、それは単にユリアナと……」
「ユリアナちゃんと?」
「あ、ああ遊んでたんだよ! なあ、ユリアナ」
ユリアナは静かに横に首を振る。
おまけにこれから揉め事になる、と察したのか何も言わず部屋を出て行ってしまった。
「あれれ~? おかしいねネオ君。ユリアナちゃんは違うって感じだったよ」
「お、おかしいな……あはははっ」
俺は逃げようとした。
幸い扉は開けっ放しだ。
今走ったら部屋に戻って鍵をかければ姉ちゃんから逃れられる。走ろうとした、しかし足が動いても全然前には進まない。全力疾走で走ってるはずなのに、なぜだ。
振り返ると姉ちゃんが俺の服を強く引っ張っていたのだ。
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