第44話044「C級クラン『戦乙女《ヴァルキュリー》』(2)」



「そ、そんなこと言われても⋯⋯。それに私、Dストリーマーなんて、あまり好きじゃないし⋯⋯」

「好きじゃないって⋯⋯。琴乃、ちょっと視聴者からチヤホヤされているからって調子に乗ってるんじゃない?」

「そ、そんな! そんなことは⋯⋯」

「な、渚、ちょっと言い過ぎ⋯⋯」

「それにあんたダンジョン探索を優先したいっていうけど、ヒーラーのあなたがダンジョン探索を優先してどうすんのよ? それよりもそのロリ体型活かしてチャンネル登録者増やす努力でもしなよ!」

「渚、いいかげんにしなさい!」

「!⋯⋯あ、亜由美」

「亜由美⋯⋯ちゃん」


 最近、私たちクランはちょっとおかしい。


 Dストリーマーをやる以前は本当に仲が良かったのに、Dストリーマーになってからはやたらチャンネルの登録者数や視聴者の反応ばかりを気にしている。ていうか、主に有紀と渚が⋯⋯だけど。


 有紀と渚は明るい性格で話し上手、また目立ちたがりの性格もあってDストリーマー向きだった。逆に私と琴乃は話し下手だし、視聴者さんに愛想よく振る舞うのも苦手だ。


 元々、探索者シーカー活動には武器や防具、アイテムといった必要経費がどうしてもかかるため、収入源の確保という名目でDストリーマーを始めた。正直、私的には「そんな簡単にいくものじゃない」と高をくくっていたのだが、しかし気づくと、あれよあれよとチャンネル登録者数が伸びていき、気づけば『20万人』を突破する人気チャンネルとなっていた。


 そんな人気チャンネルとなったきっかけで、私たちはDストリーマーとして注目されるようになると、ネットを超えてテレビにも出るようになった。そして、気づけばDストリーマーの広告収入とテレビや雑誌といったメディア出演のギャラがダンジョン探索で得られる収入を大きく超えることとなる。


 それからというもの、特に有紀と渚は可愛い愛嬌と話し上手ということもあって、二人だけでのテレビ出演の仕事が増えた。結果、私たち『戦乙女ヴァルキュリー』のダンジョン探索⋯⋯つまりDストリーマーの活動がおろそかになることが多くなった。


 しかし「それではよくない」と私は思い、何とか私と琴乃だけでもとDストリーマーを続けた。でも二人だけでは本来の活動拠点である新宿御苑『40階層付近』での活動は難しく、下層前半となる『30〜35階層』での活動がやっとだった。


 当然、そんな『温い探索活動』では視聴者の反応は良くなく、チャット欄のコメントも「有紀と渚がいないとな〜」とか「亜由美ちゃんと琴乃ちゃんだけじゃダンジョン探索は危険だよ〜」などと心配されたりした。


「視聴者さんに心配されるなんて⋯⋯」と少し悔しい気持ちはあったけど、でもそれは事実でもある。本当は私だってもっと力をつけてダンジョン探索を進めたいと思っているのだが、でも、どうしても琴乃と二人だけでは四人の時のようなスピードで強くなるのは難しいのだ。


 とはいえ、まだこの頃はよかった。有紀と渚も頻度が減ったとはいえ、Dストリーマー活動もちゃんとこなしていたから。


 でも、最近では「有紀と渚は何やってんの?」「あいつら探索者シーカーのくせに何かアイドルみたいなことしてるけど本分忘れてね?」「Dストリーマーは実力があってなんぼだというのに⋯⋯あれは調子乗ってますわww」と視聴者さんからはかなり辛辣なコメントが寄せられていた。


 また、それと同時に「リーダーの亜由美ちゃんと琴乃は偉いよ。二人は頑張ってDストリーマーをずっとやってんだから」「でも、二人だけだとなぁ。ちょっと危なくて観ててハラハラする」と私たちのDストリーマー活動を褒めるコメントと、実力不足による心配のコメントが乱舞していた。


 それもあって、最近私たちクランはギスギスとしていた。


 そんな時だった。


「よし決めた!」


 突然、有紀がそんなことを叫ぶと皆は「え? 何が?」と顔を向ける。


「さっき、亜由美が言ってた『下層の階層ボス攻略』⋯⋯やろうっ!!!!

」「「え? ええええええっ?!」」」



********************



「ちょ、ちょっと、有紀!? あんた何言ってんのよ、正気?!」


 渚が有紀にヒステリックにツッコむ。


「もちろん! だって、最近私たちずっとテレビとかに出てばっかりして⋯⋯調子に乗ってたじゃない」

「なっ! ゆ、有紀っ?!」


 有紀のあけすけな発言に渚が固まる。私も琴乃も固まる。


「ごめん⋯⋯亜由美、琴乃。なんかチャンネルで視聴者さんにチヤホヤされて嬉しくなってさ。それに渚も私と似て目立ちたがり屋だから、つい調子に乗っちゃった! 本当ごめんなさい!」


 そう言って、有紀が亜由美と琴乃に全力で頭を下げた。


「有紀⋯⋯」

「有紀ちゃん⋯⋯」

「それと渚も! ごめんね、私がそそのかしたばっかりに!」

「ゆ、有紀⋯⋯?!」

「渚は最初『テレビはさすがに調子に乗りすぎじゃない?』って忠告してたのに、私が『大丈夫だって』って強引に引っ張り込んだんだ。⋯⋯だからごめん!」


 そう言って、有紀は今度は渚にも全力で頭を下げる。


 昔から有紀はこうだ。昔⋯⋯っていってもほんの3年前くらいだけど。


 でも、有紀のおかげでさっきまで流れていたクラン内の『嫌な空気』がすべて一掃された。


「わ、私も⋯⋯さっきはごめん」

「⋯⋯渚」

「特に琴乃にはあんなひどいこと言ってしまって⋯⋯。私、視聴者さんたちから一番と思われたくて⋯⋯。でも、そんなウチで一番人気の琴乃が『Dストリーマーなんて⋯⋯』って言うのを聞いたら思わずカッとなっちゃって⋯⋯」

「渚ちゃん⋯⋯」

「ごめんなさい、琴乃! あんなひどいこと言って!」

「ううん、いいよ⋯⋯渚ちゃん。それに渚ちゃんがチャンネル登録者数を増やすために色々勉強していたのも知ってるし⋯⋯。私の方こそごめんなさい! そんな渚ちゃんの頑張りを否定するようなこと言ってしまって⋯⋯」

「琴乃⋯⋯ごめん、本当に⋯⋯ごめん⋯⋯なさい」


 そうして、琴乃と渚はちゃんと仲直りをした。


「ふぅ〜、これで一件落着だな」

「「「どこがよっ!!!!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る