第28話028「『オメガちゃんねる』爆誕」



「チャンネル名⋯⋯どうしよ?」


 現在、俺は『Dストリーマー登録専用ボックス』で一人固まっていた。


「い、いや、チャンネル名も何ももっと肝心なことを決めてなかった⋯⋯」


 タケルはさらにチャンネル名よりももっと肝心なことを決めていなかった事実に気づく。


「へ、変装して探索者シーカー活動する俺の名前⋯⋯どうしよ?」


 そう、タケルはそのことをすっかり忘れていた。ここに来て、ノリで決めてきたツケが回ってきたわけである。


「やっべ⋯⋯どうしよ? 名前⋯⋯名前か〜。それが決まらないとチャンネル名も何もないじゃん」


 ここへきて、やっと変装して活動する自分自身の名前を決めないとチャンネル名など決められるわけもないことに気づく。


「やっぱ名前は『コードネーム』みたいなのがいいなぁ、アルファとかベータとか⋯⋯」


 そういや、ラノベとかでギリシャ文字のアルファベット表記の名前とか聞いたことがある。うむ、特によくはわからないがやっぱいいよね。


 ということで、タケルはネットでギリシャ文字のアルファベット表記をいろいろと調べた結果、


「こ、これだ! かっこいい⋯⋯これしかない!」


 タケルが興奮気味にそのギリシャ文字のアルファベット表記に目がいった。


「俺の探索者シーカー活動での名前は⋯⋯『オメガ』だ!」


 良い! 良いじゃないか! 何か謎の人物っぽい響きじゃないか!


「やっぱこういうのだよな。正体隠して暗躍するダークヒーローの名前って」


 どうやら、タケルの中では探索者シーカー活動で『チェック柄の長袖シャツとジーパンに、サングラスとマスクをかけた人物』は『ダークヒーロー』というイメージになるらしい。


「よし、それじゃあ早速『オメガ』の格好でチャンネルのアイコン用写真を撮ろう!」


 そう言って、タケルはサングラスとマスクをかけて全身鏡を見た(ちなみに、この部屋には写真を撮る人も多いので全身鏡が置いてある)。


「か、かっこ⋯⋯いい!」


 これは、予想以上じゃないか? イメージはしていたがすごくミステリアスなダークヒーローそのものじゃないか?!


 と、タケルが自分の変装した格好を見て感動する。


「よ、よし! それじゃあ、今度はチャンネル名だが⋯⋯これももう決まったようなもんだな!」


 そう言うと、タケルがYo!Tubeのチャンネル名欄に入力していく。


「オメガチャンネル⋯⋯と。あ、待てよ?『オメガ』がカタカナだから『チャンネル』はひらがなにしたほうが見やすいな」


 タケルのYo!Tubeチャンネル『オメガちゃんねる』が爆誕した瞬間であった。



********************



「とりあえず、正体を知られてはいけないので一旦元の格好に戻ろう」


 ということで、タケルはサングラスとマスクを外してバッグに入れる。


 その後、部屋を出てアプリのインストールとチャンネル登録が終わったことを受付の美人お姉さんに伝えに行く。


「終わりましたー」

「お疲れ様です。ちょうどドローンカメラも用意できてますよ」


 そう言って、お姉さんが受付ですでにドローンカメラを準備していた。仕事が早い。


「あとは、操作説明ですが⋯⋯まあ難しくないのでここでご説明しますね」


 お姉さんが説明すると、たしかにドローンカメラに関しては説明の必要はほとんどなかった。なぜなら、ドローンカメラには『録画ボタン』しかなかったからだ。


「もっと、こだわった撮り方をするならそれ用のドローンカメラもありますが、基本探索者シーカーはこの録画ボタンしかないドローンカメラを使います。あ、でも、最初だけスマホに先ほど入れてもらった『Dビジョン』とBluetooth連動する必要がありますが私の方でやりますか?」


 そう言ってきたのだが、正体を隠して探索者シーカー活動する俺としてはそれはマズイので、


「大丈夫です。自分で設定します。ありがとうございます」


 と、やんわりとお断りした。



********************



「はい、これで登録は完了です。F級探索者シーカーの基本の探索階層は9階層の『上層』までとなっています。くれぐれも無理をして、功を焦ったり金に目が眩んで『中層』へは決して行かないように。では初のダンジョン探索頑張ってください、結城様」


 そう言って、俺は美人受付お姉さんと別れてダンジョンに入っていった。


 ダンジョンは階層によって『名称』がある。例えば、さっきお姉さんが言っていた「F級探索者シーカーは最大でも9階層の『上層』までが探索階層」みたいなことを言っていたが、この『上層』というのが1〜9階層のことを差す。


 ちなみに、ダンジョンはこのような『名称』で分けられている。


——————————————————


【ダンジョンの階層ごと名称】

・1〜9階層『上層』

・10〜29階層『中層』

・30〜49階層『下層』

・50〜79階層『深層』

・80〜100階層『深奥』

・101階層以降『深淵』


——————————————————


「世界でも101階層以上の『深淵』を探索できた探索者シーカーやクランはまだ一人も存在しない⋯⋯か」


 そう、現在世界で120のダンジョンがあり、その中に101階層以上の『深淵』は数ヶ所あるが、そのどれもが未だ探索できていないというのが現状らしい。しかもその理由が、


「『深淵の魔物が強すぎるから』⋯⋯とはね」


 世界には多くの探索者シーカーや、探索者シーカー同士が結成する探索者シーカー集団『クラン』が存在するが、このどちらとも『深淵』にアタックするも101階層から下に降りることはできていないらしい。


 ちなみに、この『新宿御苑ダンジョン』も100階層の『深奥』までしか攻略されていない。


「まあ、今の俺がどの階層まで通用するかわからないが、そもそもダンジョン攻略や制覇が目的じゃないからな〜」


 そう、俺にとってダンジョン探索は将来に備えた『安定収入』獲得に他ならない。


「もちろん、Dストリーマー収入も安定収入の柱の1つ。故に、温いダンジョン配信はダメだ。こう、魔物とギリギリの戦いを演じて最後に勝利を勝ち取る!⋯⋯みたいな、そんな熱い配信を目指さないとな!」


 とはいえ、熱い配信が必要だからといってダンジョン攻略や踏破がイコールにはつながらない。


「だって、俺の強さの限界が来たらダンジョン攻略や踏破は無理だからね〜。でも、熱い配信がしたいという目的なら、自分の実力と拮抗する魔物をみつければいいだけ。そのほうがラクだし」


 ダンジョン攻略や踏破に憧れる気持ちはよくわかる。なぜならかつての俺もそうだったから。しかし、俺はもうその経験はすでに異世界あっちで済ませてある。


「というわけで、ダンジョン攻略や踏破は現代ここのやる気ある方々におまかせしましょ、そうしましょ」

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