第13話013「おかえりと、ごめんなさいと」



「今まで⋯⋯ごめん」


 俺は椅子から立つと、3人に改めて深く頭を下げる。


今までの・・・・⋯⋯あ、いや、昨日までの・・・俺は、母さんだけでなく亜美や由美にまで酷いことを言って突き放した。なのに3人はこんな引きこもりでダメな俺を何度も救おうと、何度も手を伸ばしてくれた。それなのに俺は、そんな家族の優しさに気づかずに⋯⋯」


 俺は3人への申し訳なさと、自分のことしか考えていなかったクソ野郎な自分への苛立ちに、また涙が出そうになった。⋯⋯ていうか溢れた。


 しかし、俺は3人にきちんと謝りたいという強い想いがあったので、何とか涙をこらえつつ言葉を続ける。


「ほ、本当に、本当に、ごめんなさい。そして、ありがとう。こんなクソみたいな俺をずっと見捨てないでいてくれて⋯⋯」


 俺はそう言って、もう一度深く頭を下げた。


「タケル。えらいわ」

「母⋯⋯さん?」

「こうやって面と向かって誠心誠意謝れるなんて、誰にでもできるものじゃないわ」

「⋯⋯母さん」

「でも、タケルは逃げずに勇気を持ってこうして皆に謝った。それはとても素晴らしく誇れるものよ」

「あ、ありがとう⋯⋯母さん」


 俺が母さんの言葉に感動していると、


「タケル兄ぃ。一つ勘違いしてるよ?」

「え? 亜美?」


 今度は亜美が声をかける。


「だって、私たち家族がタケル兄ぃを見捨てるわけないじゃん!」

「あ、亜美⋯⋯!」

「そうだよ、タケル兄ぃ。正直⋯⋯どんだけタケル兄ぃ自己評価低いのって話だから!」

「ゆ、由美⋯⋯!」


 亜美と由美が交互に俺に温かい言葉を投げかける。


「まったく⋯⋯これだからタケル兄ぃは。やっぱり私が一生そばにいないとダメだってことが今回のことではっきりとわかった」

「ゆ、由美⋯⋯さん?」


 何か、由美一人だけワードの違和感が半端ない。


 いや、気のせいだな。気のせいとしておこう。世の中には知らないほうがいいことがたくさんあるってエロい人が言ってた。きっと、これがそうなんだろう⋯⋯うん。深く考えちゃいけない。


 とにかく! これでようやく俺は家族に対して抱えていた大きな荷物をやっと下ろせた。そんな気がした。


「ありがとう、みんな⋯⋯!」

「うふふ、いいのよタケル。だってタケルは⋯⋯」

「私たちの家族なんだからね!」

「うん。私だけのハズバンドなんだからね!」


 ありがとう、母さん、亜美、由美。うん? 由美? いよいよはっきりと言った? 言ったよね?


 その後、俺は3人と色々な話をした。


 俺からすれば家族と話すのは実に5年ぶりであり、さらに3人と仲直りできたこともあって、俺は嬉しいと同時にいろんなことを話したいという妙なテンションになっていた。


 そんな妙なテンションの高い俺に妹たちが違和感を抱いたのか「タケル兄ぃ、何で久しぶりにあったような感じで話してんの?」と、少し伺うような眼差しを向けて根掘り葉掘りと聞いてきた。


 俺は内心ビクビクしながらも何とか焦っていない風を装って妹たちに弁明した。何とか誤魔化せたと思う。


 こうして、俺は家族と5年ぶりに和解した。



********************



——夜


 俺は5年ぶりに自分の部屋に入る。


「⋯⋯ただいま」


 ずっと使っていた部屋に5年ぶりに入ったからだろうか⋯⋯なぜか「ただいま」と無意識に口にしていた。


「当たり前だけど、部屋は何も変わって⋯⋯ないな」


 俺の部屋はまるでゴミ屋敷と化していた。


 まー夏休み中ずっと部屋に引きこもっていたからな。


「それにしても臭いが酷い。よくもこんなところでずっと引きこもって生活していたな、俺」


 部屋には食べ残しのカビの生えた菓子パンや、いつ開けたかわからないペットボトル、それとカピカピに乾燥した開けっぱなしのお菓子などが散乱していた。


「さすがに、これじゃあゆっくりできないな。とりあえずゴミは全部『ストレージ』に入れておくか⋯⋯。あれ? そういえばダンジョンの外でアイテムとか魔法って使えるの?」


 スキルはこの世界にあるから大丈夫だと思うが、魔法やアイテムってどうなんだろう?


 一応、ダンジョン内では魔法もアイテムも使えたが、しかし、ダンジョン内はある意味、地球とは異なる世界のような感じだ。だからダンジョン外⋯⋯つまり地上では魔法やアイテムは使えないって可能性は全然あると思う。


「まぁ、最悪、ダンジョンの中では魔法もアイテムも使えるんだ。それだけでも充分ではある。だけど、できれば地上でも使える『仕様』であって欲しい」


 ということで、早速試してみた。


「頼むぞ⋯⋯ストレージ!」


 俺は願いを込めて、『ストレージ』と声を上げる。ちなみに、声に上げなくても『意識するだけ』でアイテムは使えるのだが、そこはほら気持ちを込めて⋯⋯ということでね。


 すると、


「出た⋯⋯」


 アイテム『ストレージ(最高)』が出現した。


 ちなみにこの『ストレージ(最高)』を開くと、自分のすぐ横に『黒く渦巻く穴』が出現する。これは異空間につながっていると異世界では言われていた。ちなみにこの中に物が収納できる。


 ということで、俺はアイテムにある『ストレージ(最高)』を出した後、風魔法を使ってゴミを集め、それらを全部ストレージの中に入れた。


 この『ストレージ(最高)』はいわゆるアイテムボックスみたいなものだ。しかも異空間内に収納するものなので時間経過はない。なので生物なまものとかも『鮮度そのまま』で保存が可能だ。


 この『鮮度そのままの状態』で保存するというのは、この異空間内が『時間に縛られない空間』という仕様だからだ。ちなみにこの『時間に縛られない空間』は『質の異なるストレージに関わらず共通する機能』である。


 ちなみに、ストレージの『質』によって違いが出るのは『容量』のほうだ。


 そして、その中でも俺が使っている『ストレージ(最高)』は文字通りストレージの『最高品質』を意味し、その容量は無制限となっている。


 まさに最高品質に偽りなしといったところだ。


 そんなストレージ(最高)を使って、一旦部屋にあるものすべてを収納した後、


「『浄化』!」


 と、下級魔法『浄化』を発動。ちなみに魔法も言葉にしなくても使える。


 ファァァァ⋯⋯。


 部屋が淡い水色の光に包まれると一瞬でホコリ一つないきれいな状態となった。


「よし! 地上でもアイテムも魔法も使えた!」


 正直、魔法とアイテムはこの世界に存在しないものだったので地上では使えないだろうと予想していたのだが、しかし、その予想を裏切る『サプライズ』な結果に俺は思わずガッツポーズをして叫ぶ。


「やべっ!? 今、真夜中だった!」


 ちなみに『浄化』は体の洗浄にも使えるが、こういった部屋の掃除にも利用できる万能魔法である。異世界でもよく利用していたのは懐かしい記憶である。あ、いや、異世界あっちから来たばかりなのでそうでもない⋯⋯か。


 とりあず、ストレージの中に入れたゴミは後日ゴミ処理場に持っていこうと考えつつ、


「ふぁぁ⋯⋯寝よ」


 意識が朦朧としてきたので布団に入る。


「おやすみなさい」


 5年ぶりのふかふか布団は、俺をすぐに深い眠りの世界へと誘った。

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