第16話 龍兎の目覚め
龍兎は3日目に目を覚ました。
以前、龍風の守番の時に完成した解毒剤が効いたが、かなり時間がかかった。やはり改良されているようだ。
しかし、龍兎も妻に恵まれないなぁ。
最初の鴨妻はココの娘に殺されることを望み、次のマムシ妻は龍兎に毒を飲ませて逃亡とは。
龍兎の執事も殺されてしまったので新しく用意しなければならない。
~族長執務室~
「ご迷惑をおかけしました。」
シュシュの医務室を退院して挨拶にきた龍兎は目に見えて元気がない。
「お前は悪くねぇよ。ま、龍灯の横に座れ。快気祝いに一緒に飲もうぜ。」
龍希は目の前の椅子を龍兎にすすめる。
疾風が冷えたビールを運んできた。
「ありがとうございます。いただきます。」
龍兎は無理やり笑顔を作ってビールを一口飲んでいる。
「早速だが、お前が気絶した経緯を教えてくれ。」
龍希の言葉に龍兎は居ずまいをただして説明し始めた。
「はい。あの日は朝から妻が頭が痛くて起きられないと言うので、シュグ医師を呼んで、妻の看病は侍女たちに任せて、僕は本家の工房でシリュウ香を作っていました。
お昼過ぎに客間に戻ると、妻が起きていて気分が良くなったと言うので、一緒にお昼を食べましたが、食事から変な匂いも味もしませんでした。
食べ終わると、妻が一緒に昼寝をしてほしいと言うので、執事と侍女たちは下がらせて客間の寝室に移動して・・・そこからの記憶がありません。」
「ん?俺達が発見した時には、お前は侍女たちと一緒に寝室じゃないほうの客間に倒れてたぞ。」
龍希の言葉に龍灯も頷いている。
「え?いや、しかし、寝室に入ったのはっきり覚えています。」
龍兎はそう言って首をかしげている。
「まあ、いい。お前と妻の食事を運んできたのは誰だ?」
「僕の執事と本家の侍女です。」
「うーん。マムシ妻はどうやって毒を入れたんだ?」
龍希は首をかしげる。
執事も本家の侍女も使用人の中でもトップクラスの教育をうけている。
獣人の妻が易々と毒を入れられるはずがない。
「毒を入れたのはマムシ妻とは限りませんよ。残念ながら、本家には解放軍の間者が入り込んでいるようですので。」
龍灯の指摘に龍希はハッとなった。
「あ!そうか!確かにな。勝手口から外に出たマムシどもを連れて逃げたのは、本家の庭師のトンビのようだ。1匹行方不明になってると竜波が報告してきた。」
「僕も毒を入れたのは妻じゃないと思います。むしろ、妻も毒のことは知らなかったのだと思いますよ。妻から悪意は感じませんでしたから。」
龍兎は断言した。
「そばにいたお前がそう言うなら間違いないな。 あ!そうだ。妻はマーメイと知り合いだったのか?」
「いいえ。妻からマーメイの話題が出たことは一度もありませんでした。僕からきいたこともありません。 龍灯にい様の最初の妻のことはもうほとんど覚えてなくて・・・」
「よし!龍灯、龍兎。お前らで本家の調理場の使用人を調べてこい!龍兎に毒を盛った犯獣人がいるかもしれねぇ。」
「はい!」
2人は一礼して、執務室を出ていった。
「ほかに何か手がかりはあるか?」
龍希は残った補佐官たちに尋ねる。
「マムシ妻とマーメイの捜索はいかがされます?マムシ族はまだ族長代行すら決まらず当分、混乱がおさまりそうにありません。
それに2人ともマムシ族に恨みがあるならマムシ領には戻らないでしょうが、ほかの行き先など分かりませんし。」
龍算が困った顔で尋ねる。
「あ~本家から妻が逃亡したなんて公表できねぇしなぁ。まだ旅行先からの逃亡の方がマシだぜ。」
龍希も頭を抱えた。
「そういえば龍韻の元妻イグアナの妹はまだ見つかっておりませんな。」
「ん?イグアナの妹? あ~そういえば。もうどうでもいいかなぁ。妻は死んじまったし、龍韻は再婚してもうこの話に興味はなくなってるし。」
「まあ、そろそろ一年経ちますが、イグアナ族はまだ落ち着いておりません。神林焼失と、その守り手であった一族滅亡の責任をとって当時の族長は辞職しましたが、新しい族長は混乱をおさめられず、イグアナ族では内紛も起きているとか。」
「あ!そういえば、イグアナ領にも解放軍がかなり入り込んでいると、ワシのケープが言っていましたよ!」
龍景が口をはさむ。
「ん?あ~そういえばそうだったな。だが、わざわざイグアナ領にまで行って探すのもなぁ。マムシと関係あるかも分かんねぇし。」
龍希は気がすすまない。 妻の種族には介入しないというのが一族の方針だ。
「そういえば、イグアナ領の神林炎上の原因はなんだったんですか?」
龍景が尋ねるが、
「んー?えーと、あの件は誰の担当だっけ?」
龍希は覚えていない。
「え?」
補佐官たちは顔を見合わせている。
「お前らの誰でもないなら龍灯か?」
「え?族長は誰に任されたのですか?」
「んー覚えてねぇなあ。 龍灯たちが戻るのを待つか。」
龍灯と龍兎は1時間ほどで戻ってきた。
「あの日、龍兎たちの食事を用意した使用人全員から聞き取りをしましたが、悪意は感じませんでした。普段とは違う物を使ったりもしていないとのことです。」
「はー。手がかりなしか。 あ!そうだ、龍灯、イグアナってお前に任せたっけ?」
「は?イグアナ?なんのことですか?」
龍灯は首をかしげる。
「あれ?」
「族長、もしや誰にも任せていないのでは?」
「あれ?」
龍希は全く記憶にない。誰かに任せた記憶がない。
「そうかも。」
「イグアナって龍韻の元妻の件ですか?なんで今さら?」
龍灯が不思議そうにしているので、龍海が説明してくれた。
「なるほど。しかし、もうイグアナの妻は居りませんし、鴨やマムシのように解放軍が派手になにかをしている訳でもありませんからねぇ。 正直、俺はごめんです。今の補佐官の仕事で手一杯で・・・トラブルが多すぎます。」
龍灯の言葉に他の補佐官たちも頷いている。
「うーん。」
龍希は困った。
「あの・・・族長?」
「ん?」
龍兎が遠慮がちに話しかけてきた。
「も、もしもぼ、僕なんかでもお手伝いできることがございましたら・・・」
「え!?まじで?」
「は、はい。」
「なら頼む。イグアナ領まで行って神林炎上の原因と、龍韻の元妻イグアナの妹の行方を聞いてきてくれ。イグアナ族長には俺から話を通しておく。」
「畏まりました。」
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