第15話 幹部会議
~???~
9月のある日、解放軍の隠れ家では幹部会議が開かれていた。
参加者は、司令官、ユリ、北の隊長こと豊、東の隊長、カエデだ。
「・・・私とユリがシリュウに囚われているようこの救出に失敗した経緯は以上だ。 シリュウについて事前リサーチが足りなかったせいで、参加した南部隊員を全滅させてしまった。」
司令官は相変わらずの無表情だが、声から悔しさがにじみ出ている。
「そのシリュウについて、策士から何か聞き出せましたか?」
豊が尋ねる。
「相変わらずあいつは情報を小出しにしたがるが、シリュウが奴隷売買を手広くやっているというのは嘘だと策士は言っていたよ。それに、カモメの獣人を族滅させたことは本当だと。」
「私も、かつてシリュウの奴隷だったというサーヤというカラスから聞きました。シリュウが奴隷売買で稼ぐなんてあり得ない、シリュウという生き物はシリュウコウ?という商品で生計をたてており、奴隷を売ることは滅多にしないはずだと。」
「どういうことですか?シリュウは人間の娘が獣人の子を産んだと嘘を広めて奴隷売買でもうけているとの話だったのでは?」
豊の言葉に東の隊長も頷いている。
「その話はココという白鳥から聞いて、スイスイというワニも同意していたが、解放軍はまだシリュウに売られた奴隷も、シリュウから奴隷を買った獣人も確認できていない。つまりこの話は真偽不明だ。」
「え?しかし、仮にシリュウが奴隷売買をしていないなら、なぜそのようこという娘は囚われているのです?」
「それが、サーヤによれば、リュウキというシリュウがある日突然、ようこを連れてきて妻にしたと言ったらしいのです。それから、そのようこがリュウキの子を産んだと獣人の間で話題になったと。」
「はあ!?そんなのありえないでしょう。」
呆れているのは豊だけではない。
「ええ。ですが、なぜそんな嘘を広めたのか不明です。」
「シリュウについてはどの獣人に聞いても知らぬ存ぜぬだったり、シリュウに敵対するのは嫌だと逃げ出した獣人も多いですからね。 ただ、カモメの獣人の族滅が事実なら納得ですね。」
東の隊長の言葉に豊も頷いた。
「ええ、ようこの救出の際には、獣人が一匹残らず逃げ出して所在不明よ。」
「情報がないといえば、オウコという獣人もです。こいつらがジャガー領にいたスミレたちを襲い、水連町の町役場を破壊したらしいのですが、どんな生き物なのか獣人たちは誰も教えてくれません。
策士は、シリュウとオウコは仲が良いとだけ言ってました。本当はもっと知っているのでしょうが、あいつは知っててスミレたちを・・・」
豊はそう言って怒っている。
「スミレ様・・・」
かつてスミレの側近をしていたカエデは泣き出した。
「スミレがまだ死んだと決まったわけじゃないわ。オウコに囚われている可能性もある。 次は、ユリ、鴨の報告をよろしく。」
「はい、司令官。今年の4月に鴨族本家を炎上させ、奴隷たちは解放しました。族長やその側近を失った鴨族はまだ混乱の最中で各地で順調に奴隷を解放しています。 人の奴隷の多くは解放軍への参加を望み、獣人の奴隷は半数以上が自由を望んでどこかへ行きましたが、先ほどのカラスのサーヤのように解放軍に協力する獣人もいます。」
「カラスといえば、鴨本家にいたタヤというカラスは?」
「今は私のところにいます。カラス族の作戦に様々な情報を提供してくれていますよ。」
東の隊長が答える。
「タヤには、サーヤのことは秘密にしておいてくださいね。」
「分かっていますよ、ユリ。」
「豊、マムシ族はどうだ?」
「先月、マムシ本家を炎上させました。ただ、マムシ族は町ごとにいる町長の力が強く、奴隷解放は難航しております。 あと、鹿領で行方不明になっていたマムシのマーメイはシリュウに囚われていたらしいのですが、かなりの重症で、まだ話は聞けていません。」
「ふん!やはりあの解放された隊員は囮か?」
「ええ。獣人によれば、真矢まやにはシリュウの匂いがついていると。マーメイは真矢に会いに行く途中で行方不明になりましたから、真矢の近くにはシリュウの見張りがいるようです。」
豊は悔しそうだ。
「真矢は匂いが消えるまではあそこにいてもらうしかないな。如月と連絡はとれるのだろう?」
「はい。あの隠れ家には通信装置を置いていますので。真矢も事情を知って納得してくれました。」
「獣人たちを利用してシリュウの見張りを捕まえられないのか?」
「無理ですね。どいつもこいつもシリュウの匂いがついた獣人には関わりたくないと。」
豊はそう言って肩をすくめる。
「はあ。 あ、そうだ! マーメイを連れ帰ってきたのはシリュウに潜入させたマムシだろ?そいつはシリュウのことは何か言ってないのか?」
「ようこはシリュウ本家の奥深くにいるようです。ただ、見張りが多くてマムシは近づけず、マーメイを連れ出すので精一杯だったと。マムシから聞き出せたのはそれだけです。」
「役にたたん情報だな。」
東の隊長はそう言ってため息をついた。
「あのマムシは、シリュウに恨みを抱いている訳ではないですからね。そんなもんです。獣人に期待なんてしちゃダメなんですよ。」
「・・・分かっている。あ、そう言えば豊、水連町の拠点はまだできんのか?」
東の隊長の質問に豊は険しい顔になった。
「それが、ですね。8割がた話がまとまったところで町長が白紙に戻しまして。せめて非公式の隠れ家だけでもと交渉したのですが、正式に断られました。」
「はあ!?どういうことだ?なんで?」
「落ち着いてください。あの町は元々戦火を逃れて、獣人との取引の場をいち早く設けて発展してるので、解放軍に協力的ではないんですよ。 獣人に恨みをもつ住民もいますが、水洞町の拠点がカラスに襲撃されて解放軍以外にも死傷者が出たこともあり、あまり声をあげてくれません。」
「だからって。大々的な拠点はともかく、隠れ家のひとつや2つ・・・」
「あそこの町長は慎重派というか臆病者なんですよ。病的な。うちの町は行方不明者ゼロなのが自慢だとかぬかして。 そんなわけあるか! ああいう田舎町は警察も役立たずで、戸籍の管理も杜撰だから把握されていないだけですよ。」
「ん?待て、シリュウに囚われているようこは水連町の出身じゃないのか?」
「あ!その話ですね。ようこという名前ではなかったですが、実は水連町には貴族院の調査で人身売買の被害者とされた商人の娘がおりまして、犯人はその実兄で投獄されました。 ところが昨年、その娘が見つかったそうです。人身売買はされておらず、どうやら別の町の商人と駆け落ちしていたと。」
「はあ!?ありえん。貴族院の調査員はバカじゃなかったろう?」
「ええ。水連町の人々の話によれば、バカだったのは投獄された兄の方だったそうです。」
「は?」
「それがですね。妹の駆け落ちに腹を立てた兄が、妹の死亡届を提出した上、貴族院の調査員にも妹は死んだと嘘をついたそうで。ところが、兄は妹がなぜ死んだのか、どこに埋葬されのかも全く説明できなかった。 そのため貴族院の調査員は人身売買と結論づけたと。 人身売買を隠ぺいするために嘘の死亡届を出すのはよくあることでしたからね。」
「・・・それは間違いない話なのか?」
「駆け落ちした妹を複数の町民が目撃しているそうです。最近では夫と子どもと一緒に祭りを楽しんでいたと。 あと、投獄された兄はすでに獄死したと記録に残っていたので事情聴取はできないですが、水連町の商人たちに聞いたところ、この兄はバカで嘘つきなことで有名だったそうです。」
「はあ!?なんだ、それ?」
「その妹はどこにいるの?」
「え?」
司令官の質問に豊は困った顔になる。
「それが・・・妹の所在は教えてもらえませんでした。戸籍も夫の町で作り直したようで、水連町にはないですし。」
「そう。まあいいわ。ようこの素性が分からなくても、所在は分かっているんだから。」
司令官の言葉にユリは頷いた。
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