第13話 かき氷
~紫竜本家 大広間~
マムシたちの逃亡の翌日、龍希は会議を開いた。
龍兎はまだ目を覚まさず、シュグの医務室で寝ている。
竜波が、龍兎のマムシ妻とマーメイが逃亡したことを報告すると会場中大騒ぎだ。
「また龍兎が毒を盛られたのですか?それもマムシ妻が犯獣人!?」
「どうやってあの地下室を知ったんだ?」
「落ち着け!竜波、マムシ妻の実家とは連絡がとれたか?」
龍希の一喝で会場は静かになり、竜波に注目が集まる。
「それが・・・マムシ妻の家族はマムシ族本家の炎上で死んだようなのです。」
「はあ!?龍兎の妻は族長筋じゃなかったろう?」
「はい。ですが、娘の嫁入りで本家御用達の商人となり、炎上の日には本家に来ていたそうなのです。妻の両親、兄弟全員が。」
「偶然ですかね?」
「どういうことでございますか?龍灯様?」
「マーメイは自分の家族を殺してもらう代わりに解放軍に参加したそうです。龍兎のマムシ妻ももしかしたら・・・」
「ええ!?なんでですか?自分の家族を?」
「そりゃ、娘は紫竜うちとの縁談が嫌だからよ。」
竜波の言葉に頷くものもいれば、驚くものもいる。
「いや、だからと言って・・・マーメイのように離婚後、家族に財産を取り上げられたわけでもないのに?」
「なにを恨むかは個体差がありますからね。それに、マムシ妻がマーメイを連れて逃げた理由が他に考えられますか?解放軍の仲間だったと考えるのが、自然では?」
「た、確かに・・・」
「マムシ妻が族長居住スペースに侵入した目的はなんでしょうか?」
「族長の奥様でしょうね。間違いなく。」
「はあ!?まさかまた誘拐を?」
「可能性はありますね。当時、若様たちがリュウカの部屋に居られたそうなので、竜の子の匂いに気づいて退散したのかもしれません。」
「そんな・・・本家にまで?信じられません。」
「マムシたちの行方はまだ分からないのか?」
龍希は竜波を睨んだ。
本家でも妻に危険が及ぶなんて腹立たしくて仕方ない。
「も、申し訳ありません。勝手口から本家から出た後、マムシたちの匂いが消えておりまして。おそらく空を飛べる獣人かと。」
「くそ!所在不明の使用人は?」
「調査中でございます。鳥族の使用人は数が多く、時間が・・・」
「まあまあ、族長。あまり竜波を睨まないでくださいませ。解放軍といえば鷺のご報告をしてもよろしいですか?」
龍希が頷くと、龍海が報告を始めた。
「鷺領での族長の奥様誘拐事件に荷担していた鷺のガーラが発見されました。鷺領の森に隠れていたそうです。」
「その鷺から解放軍の話は聞き出せそうですか?」
「いえ、ガーラはもう死んでいます。捕まるときに相当抵抗したそうで、こちらに引き渡される前に死んだと。」
「はあ!?鷺族はなにをやってるんだ!?」
「鷺族の処分はいかがされますか?」
「生け捕りにはできなかったが、ガーラを見つけてきたから鷺族は助命してやる。」
龍希は渋い顔で断言した。
「甘過ぎませんか?主犯は解放軍とはいえ、鷺族長の首くらいは・・・」
「要らねえ。」
龍希は譲らない。譲れない。
鷺族長の首1つのために妻に嫌われるのはご免だ。
昨日も、マムシがリュウカの部屋近くまで侵入したせいで蛇が嫌いな妻は元気がなかったのだ。
~リュウカの部屋~
結局、今日の会議は情報共有だけで終わった。
龍希がリュウカの部屋に戻ってくると、妻と子どもたちはかき氷を食べている。
「あなた、お疲れ様でした。」
「パパおかえりー」
「おかえりー」
「パパー」
「ただいま。」
龍希は妻の隣に座る。
「あなた、かき氷を召し上がりますか?」
「ああ、もらおうかな。」
龍希がそう言うと、カカが部屋を出ていった。 「シロップは何になさいます。延さんの手作りですよ。マンゴーに、メロン、梨がございます。」
「芙蓉はどれにしたんだ?」
「私は梨味にしました。一口召し上がります?」
妻はそう言ってスプーンに掬って、龍希の口元まで運んでくれたので、龍希は一口で食べた。
冷たい氷に梨の甘味と香り・・・かき氷は妻が教えてくれた食べ物だ。
最初、氷を削って食べると聞いた時にはなんで?
と思ったが、アイスクリームほど甘くなくて、夏に食べるならかき氷の方が好きになった。
氷で冷やした果物を食べるのとはまた違って、薄い氷が口の中で融けていき、身体が冷えるのも早い。
カカが削った氷を盛った皿を持ってきたので、龍希はマンゴーのシロップをかけて食べることにした。
「パパ、会ぎはおわり?」
すでに食べ終わった龍陽が尋ねる。
「ああ、終わったぞ。」
「じゃあ、りゅうえんと、りゅうけいにいちゃんと、三わと遊んできていい?」
「三輪は今日は来てないぞ。竜縁と龍景は客間だ。あと、龍久、竜理、龍示も今日は泊まりだから居るぞ。」
「やったー!」
「あそびいく!」
「いくー!」
3人の子どもたちは大喜びで走って行った。
「ふふ、今日は遊び相手がたくさんいて良かったですね。」
妻も嬉しそうだ。
「ああ、龍久たちも喜ぶよ。あいつらは皆一人っ子だからな。」
「・・・そうですね。」
「芙蓉?どうした?」
「え?いえ、私は3人の子どもがいて、皆元気で育ってくれてとても幸せです。」
妻はそう言って龍希の身体にもたれかかってきたので、龍希は右腕を妻の肩に回して抱き寄せた。
「芙蓉のおかげだよ。」
「え?いえ、あなたのおかげですわ。私1人ではなんにも・・・」
「俺1人だって何にも出来ないさ。」
龍希がそう言って微笑みかけると、妻は照れたような顔になって目をそらす。
その仕草が愛らしくて仕方ない。
「芙蓉」
龍希は妻を抱き締めて唇を重ねた。
妻の吐息と舌を味わいながら、ソファーに押し倒して、服の下に手をいれようとしたところで、妻にその手を掴まれた。
「もう、あなた。」
「あ、ごめん。」
妻に怒られて思い出した。
キスしたらすぐに子作りしようとするのをたまには止めて欲しいと言われたんだった。
子作りも人族の愛情表現の1つだが、そればかりだと嫌らしい。
「ごめん、芙蓉。やり直す。」
龍希は妻の背中に手を回して座らせると、抱き寄せて妻の額、両ほほの順に優しくキスをした。
妻は両ほほを染めて一瞬視線をそらせたが、龍希の首の後ろに両手を回して更に身体を密着させる。
なんとも色っぽい妻の瞳に、龍希は目を離せない。
「あなた、大好きですよ。」
「俺も大好きだよ。」
今度は妻の方から唇を重ねてくれ、そのまま唇や舌を絡ませて愛し合った。
龍希は早く妻の素肌に触れたい気持ちもあるが、妻の方からキスをしてくれるのは嬉しい。
もっと早く教えてくれれば良かったのにと思うが、妻はずっと遠慮して、龍希に合わせてくれていたのだろう。
今度は龍希が妻の希望に合わせる番だ。
愛する妻には死ぬまで龍希のそばに居てもらうのだから。
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