【第五章】天然記念物につき1


只今、17時40分─。

店の裏口から出来るだけ音を立てないように、中に入る。わたしと春香専用の狭い更衣室(店長は厨房で着替える)のドアをソーッと開けて中を覗く。


良かった。いない。ロッカーもどきの棚にバッグを置き、Tシャツを脱いだ。

店でのスタイルは原則、白いシャツに黒いパンツ、そして前掛けだ。これらは全部自前で、2、3着を洗濯しながら着回している。

基本は家で仕事着に着替えてから来るが、夏場は出勤するまでに汗をかくから店で上だけ着替えるようにしている。


「ゆ〜き〜ね〜ちゃ〜〜ん」


「ギャ──!!」突然、後ろから胸を鷲掴みされる。「・・・こそっと入ってくるな!そして胸を掴むな!」


「アンタもこっそり入ってきたじゃない」


見られてたか。「別にそんなつもりはなかったけど」


「逃げても無駄よ。全部口割らせるから」 


「わたしは容疑者か」


「誰よ!あの超絶美男子!」


さっそく来たか。って──「誰のこと?」


「はあ?誰って、この前アンタを迎えに来てた男よ」


「早坂さん?」


「いやだからそれを聞いてるし!」


「・・・早坂さんって、美男子なの?」


春香は信じられないといった顔でわたしを見た。「逆に、そう見えないわけ?」


最初に会った状況が状況なだけに、そういう判断には至らなかった。「うーん、よくわかんない?」


「かあ──、これだから天然記念物は!美男子どころじゃないわよ、あの身長と脚の長さも!絶対モデルでしょ?」


「・・・わかんない」


「わかんない?」


「うん」


「なにが?」


「え、何してる人か」


春香が、ボケーッとわたしを見つめる。「どーゆう知り合いなわけ?」


「どーゆうって・・・」妖怪に襲われそうになった時に助けてくれた人。「まあいろいろあって、最近知り合ったというか」


「何処で?」


「・・・仕事帰り」


「ナンパ?したの?」


「そこは、されたのじゃない?違くて、まあちょっと、事情があるのだ!」一刻も早く、話題を変えたい。「そういえば、店長のお母さん大丈夫なのかな?ギックリって言ってたけど」

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