その男、財前 龍慈郎23


「家といえば、雪音ちゃん」急に真剣なトーンになる。


「はい」


「あなたの家、セキュリティ的に大丈夫?」


「と、ゆーと?」


「いえね、悪く言ってるわけじゃないのよ。ただ、誰でも上がれるじゃない」


「まあ、アパートなんで。安いし。築年数は古いけど、中は綺麗なんですよ」


「そーゆう問題じゃあないのよねえ」


「早坂さん」


「ん?」


「前から来る人。ウォーキングしてるおじさん」


早坂さんが目視で確認して、わたしを見る。「どうかしたの?」


おじさんがいつもの挨拶をしながら通り過ぎるのを待った。「いつもいるんですよ。ここに来ると必ず会う。昨日も会ったし。やっぱり24時間歩き続けてる説が濃厚になってきたな」


「・・・クッ、ハハハハ」ぎょっとした。早坂さんは上を向いて可笑しそうに笑っている。

「真剣な顔で何を言うかと思えば。あの人にイタズラでもされたのかと思ったわ」


「イタズラって・・・。でもホントに、100パーセントの確率で会うんですよ。いつ来ても」


「だから、24時間歩き続けてる説?それじゃあまるで妖怪じゃない」


2人の足が同時に止まった。そして同時に後ろを振り返る。

おじさんは両手を振り上げ、歳を感じさせない歩きをしている。


「・・・まさか」


早坂さんはプッと笑い、わたしの頭に手を置いた。「それはないわ。──たぶん」


たぶん!?──まあ、まさかね・・・。


「おいストーカー」


「ぎゃ───!!」


「きゃ──!・・・ちょっと雪音ちゃん、ビックリさせないでちょうだいっ」


「だって・・・」真後ろに瀬野さんがいるんだもん。


「素通りするな」


「あら、何処にいたの?」


「そこのベンチにいただろう。普通に目の前通り過ぎやがって」


「あらそう、話に夢中で気付かなかったわ」


「すみません瀬野さん・・・」


瀬野さんは、白い半袖シャツにダークグレーのパンツ姿だ。色黒だからか、やけに白が映える。


「ていうか、ストーカーはやめてって言ってるでしょ!」


「ストーカーだろ、家まで行って待ち伏せしてるしな」


「言い方!迎えに行ったのよ!」


「中条、迎えは必要だったか?」


「いえ、近いので」






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