その男、財前 龍慈郎22


「危機感、ですか」


「どんな人かわからないでしょ。本当に危ない人だったかもしれないし」


「まあ、女性だったっていうのもあるし、"人間"だし・・・」


沈黙に包まれる。「・・・あなたは妖怪の前に人間ね。どうすればいいかしら」声のトーンが、完全に独り言だった。


「あの・・・」


「まあ、それは一旦置いといて、明日その場所へ行ってみるわ」


何を、一旦置くんだ。「わたしも行きます。彼女に、あそこには近づかないように言ったんですけど・・・」


あの様子では──「言う事聞かなさそう?」


「はい。たぶん、また行くと思います」


「わかったわ。じゃあ、明日の10時にその近辺で落ち合いましょう」


ふと、頭に浮かぶ疑問。「お仕事は大丈夫なんですか?」


「ん?ええ、基本自由だから大丈夫よ」


── 基本自由な仕事って、なんだろう。カフェで会った時も、昼間だったし。

まさか、無職?いや、でも立派な車に乗っていたし。


「おーい、雪音ちゃん?」


「あ・・・わかりました。じゃあ明日の10時に」






そして、翌日──。

家を出て、すぐに気づいた。あのデカい後ろ姿は・・・「早坂さん?」


私に気づき、手を上げる。「雪音ちゃん、おはよう」


「・・・どうして家の前に?」


「早く着きすぎちゃってね。迎えに来たの」


「はあ・・・」すぐそこなんだが。


「行きましょうか。瀬野も来てるわよ」


「えっ!瀬野さんも?」


──あの人も、基本自由な仕事なんだろうか。・・・・・謎だ。


今日の早坂さんは、白いTシャツに黒いパンツ。足元はスニーカーだ。服装は至ってシンプルなのに、なんでこんなに人目を引くんだろう。


早坂さんが足を止め、振り返る。「なんで後ろ歩いてるの?歩くの早かった?」


「いえ、そうじゃないです・・・」並んで歩くと自分も見られてるような気がして、気が引ける。


「疲れてるなら抱っこしてあげるわよ?」


「結構です」


気後れしながら隣を歩く。早坂さんはさっきよりゆっくりになった。別に、早くても大丈夫なんだけどな。


「良い所ねえ。癒されるわ」


「ですよね。わたしも此処が気に入って、今の家に決めたんです」








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