その男、財前 龍慈郎14


「見た目のこともだけど、財前さんに聞きたいことはあるかって言われた時、あなた、無いって言ってたじゃない」


「ああ・・・」あの時は、本当にそう思った。「実際、聞いても理解出来なかったと思うし、だったら無理にわかろうとしなくていいかなって。財前さんがどんな人でも関係ないって思ったんです。あ、投げやりって意味ではないですよ」


早坂さんは前を見ながら、わたしの頭に手を置いた。「わかってるわよ」──大きい手が、帽子みたい。


「おいセクハラ野郎」瀬野さんが、座席の間から顔を出した。「なんでこんなにノロノロ運転なんだ」


「雪音ちゃん乗せてるんだから、安全第一よ!そしてセクハラはやめてちょうだい!」


「にしたって、遅すぎるだろう。もっと飛ばせ、眠くなる」


「あんたは少々の事じゃ死にはしないだろうけど、彼女こんなに小さいのよ。石にぶつかっただけで死んじゃうわ」


まず、車のメーターは普通に80キロを超えている。そしてわたしも日本成人女性の平均身長を超えている。そして石にぶつかっただけでは死なない。

まあ、この2人の基準はアテにならないということだ。


「2人とも大きいですよね。身長何センチですか?」


すぐに答えが返ってこなかった。「さあ?何センチかしら」


「俺も知らん」


「・・・自分の身長、わからない事ってあるんですか」


「学生以来、測った記憶がないわ。覚えてる限りでは180だったかしら」


「俺もそんな感じだ」


この2人の、普段の生活が見てみたい。「いや、もっと大きいと思いますよ」


「そうかしら。雪音ちゃんは?」


「167です」


「あらん、おチビちゃんね」


子供の頃から、常に平均身長を上回ってきた。今日は、おチビちゃんと言われる最初で最後の記念日に認定した。


「・・・あの、1つ聞いてもいいですか?」


「どーぞ?」


財前さんは言った、自分を殺す覚悟を持ってほしいと。わたしなら、それが出来る、そうしなければならないと。


「どうして、わたしを財前さんに会わせたんですか?」




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