その男、財前 龍慈郎8


「なるほど、そういう事か・・・中条、財前さんはな」状況を察知した瀬野さんを、"隣の彼"が目で制した。


「雪音ちゃん、僕を怖いと思うかい?」彼の目は、しっかりとわたしを見据えている。


「・・・思います」


「どうしてだい?」表情は穏やかではあるが、内に秘められているものが、わたしを試しているような、面白がっているような、そんな気がした。それでもわたしは、正直に答えるしか出来ない。


「眼・・・というか、こう、全てを見透かされてるような・・・そーゆうところ?ですかね」


自分の発言の賛否を分析するより先に、彼が声を上げて笑った。「違うだろう。君が恐れなければならないのは、僕の姿形のはずだが」


賛否の分析は出来ないが、目に見えてわかるのは、目の前の人物は笑い、その隣の人物は呆れ、その向かいにいる人間は、可笑しそうだ。


「恐ろしい子だな」悪い意味ではないのは、彼の表情でわかった。「遊里の言う通り、心配する事は何もなさそうだね」


「でしょ?あたしの目に狂いはないわよ」


「雪音ちゃん、君はもう、本能でわかっているだろう?」


答えられないのは、長年培われた否定精神だ。



「財前さん、この子はあまり免疫が・・・」早坂さんの腕に触れ、その先を止めた。早坂さんは少し驚いているようだったけど、わたしが聞かれたことだ。わたしが答える。


「"財前さん"、あなたは、人間ですか?」彼の目を見て、言った。


少しの間、沈黙が流れる──。


財前さんはテーブルに肘を付き、顔の前で手を組んだ。「僕は、人間だよ。──半分は」


「え?」


「半分は、妖怪だ」


「・・・半分、ですか」


「ああ、僕を生んだ女性はただの人間だからね。ということは、わかるだろう?」


「・・・お父さん・・・が」


財前さんは静かに頷いた。頭の中を整理する。財前さんは半分人間で、半分妖怪。お母さんが人間で、お父さんが妖怪。その人間と妖怪の間に出来た子供、それが財前さん。


──そんなことが、ありうるんだろうか。理屈はわかっても、頭が追いつかない。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る