その男、財前 龍慈郎4


「なんだか、ごめんなさいね」市街地を抜けたところで、オネエが言った。


「何がですか?」


「いや、なんか迷惑かけちゃったかしらって。雪音ちゃん注目されてたでしょ」


「・・・いえ全然。わたしが男の人と会う事が珍しいから、面白がってるだけです」男の人、の後に少し間が空いたのはあしからず。


「そうなの?」


「はい、春香はわたしをイジるのが趣味なので」


「あたしが聞いたのはそっちじゃないけど」


「え?」オネエを見ると、メーターパネルの灯りで照らされた横顔が笑っている。


「雪音ちゃんは大人ね」


「・・・わたしが?春香には、今時の小学生のほうがアンタより大人よって言われますけどね」


オネエはハハッと笑った。「春香ちゃん、よね。あなたの事、えらい気にかけてると思うわよ」


サイドミラーに映る自分と目が合い、笑っている事に気づいた。「それは、否定出来ないですね。良くも悪くも、わたしをよく知ってます」


オネエは前屈みになり、ハンドルの上に手を重ねた。「さっき、凄く警戒されてたわ」


「・・・警戒?誰がですか?」


「あたしよ」オネエは変わらず笑っている。


「・・・ん?誰に?」


「まあ、そういうことよ」それに続く言葉は、なかった。「それより雪音ちゃん」


「はい」反射的に答える。


「あたしの名前、知ってる?」


これは、何かの引っかけだろうか。オネエの顔はもう笑っていない。聞かれたことには、答えるまでだ。「早坂 遊里、さん」


「よかったわ」


「・・・あの、一体・・・」


「だって、雪音ちゃん、あたしの名前呼んでくれないんだもの」


「はい?」


「瀬野のことは瀬野さんって呼ぶのに、あたしは1回も呼ばれたことないわ」


オネエは若干、ふてくされ気味だ。言われるまで気付かなかった。そして、意識もしてなかった。わたしの中では、オネエが定着していたから。

というか、「そんなこと、ですか」


「そんなことじゃないわ。瀬野は嫌われてるんじゃないかってイジメるし」


「・・・嫌いになる要素、ないですよね」というか、そもそもそんなに知らない。


「だったらいいんだけど」


顔は、あまりよさそうではないけど。──そんなこと気にしてたんだ。なんだか、よくわからない人だ。


「あの、わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます・・・早坂さん」











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