【第三章】思索1



「雪音!3番テーブルに生2つお願い」


「りょーかーい!」


「雪音ちゃーん、パスタ上がるよー」


「ラジャー!」


「あっ、雪音!お冷も一緒にお願いね!」


「あいさー!」



本日、土曜日、午後20時30分 ─。

イタリアン酒場【TATSU】は、いつもに増して大盛況である。


「お姉さんごめーん!酒こぼしちゃったから、おしぼりちょうだい」


「今お持ちしまーす!」手に取ったおしぼりを、春香に奪い取られた。


「あたし持ってくから、アンタ追加の酒お願い」


「あいよ!」一見、仕事を押し付けられたように見えるが、これは春香の優しさだ。戻ってきた春香はオエッと吐く真似をする。「また触られた?」


「二の腕ね。ホント最悪あのじじい、テーブル行く度触りがって」


「ゴメン。次わたし行くから」


「いーわよ。アンタすぐ固まるし。あたしは慣れてるから」


「いや、でも・・・」


「おーい、アヒージョ上がるよー」


「はーい!」春香とハモった。



慌ただしい時間が過ぎ、ラストーオーダーの提供を終えて一息ついたところで、わたしと春香は目を合わせた。またか、とうんざりする。


うんざりの対象は、先程お酒をこぼしておしぼりを要求したじじ・・・中年のおじさまだ。

毎週土曜日にお友達らしき人物とやってきては、ワインを飲むだけ飲んで閉店間際に寝るという、ここ最近現れた要注意人物である。そのお友達は寝ているおじさんを置いて帰ってしまうため、まったくタチが悪い。


それに加え、テーブルに何かを運ぶ度、お礼ついでに必ず肩か腕を触ってくる。春香は影でセクハラじじいと呼んでいるが、最近はわたしも移ってきた。


「さて、起こすか」


「わたしも行くよ」


「いーわよ、2人で行ったら調子に乗りそうだしあのじじい」


「大丈夫?」


「大丈夫、慣れてるから」事ある度に春香は言うが、慣れてるというのは昔、水商売をしていたことがあるらしく、その時に"ボディタッチ"の免疫が出来ているらしい。「起きなかったら水ぶっかけるわ」


「やめとけ」
















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