リリアンヌお嬢様の優しい日常

夜星ゆき

第1話 優しいお嬢様

「ねぇ、アリス」

 アンティーク調の部屋。

 調度品は小降りで一見質素に見えるが、細かな装飾が施してあり、上品な輝きを放っている。

 華美すぎない部屋の右奥、鏡台の前に座る少女は、後ろを振り返って控えていた侍女に呼びかける。

「はい、何でしょう、リリアンヌお嬢様」

 アリスと呼ばれた侍女は、優しい笑みを携えてすぐに返事をする。

「私、みんなに休んでほしいの」

「え……?」

 アリスの顔が真っ青になる。

「アリス……?」

「そ、それは……我々に暇をお与えになりたいと、そういうことでしょうか……?」

 暇。それは仕える者たちにとってはクビと等しい言葉である。

「ち、違うの! ごめんなさい! 言いかたが悪かったわ」

 違うと言われたことに心から安堵したアリスは、ほっと息をつく。

その嬉しそうな笑顔を見て、少女──リリアンヌもまた微笑む。

「では、どういうことか教えていただけますか?」

 アリスが尋ねると、リリアンヌは頷いて答える。

「みんなが私たちのためにたくさん働いてくれていること、よく知ってるの。でも、みんな働きすぎだと思うのよ」

 アリスは驚いた。

 アリスたちのような、貴族に仕える身分の者は、上のために働くのは当然のことである。ましてや、主が優しくかわいらしく、心からお支えしたいと思う存在であれば、主のために働くことなど全く苦ではない。

「私どもは、喜んでお嬢様、そして旦那様にお仕えしているのです。主のために働くことは当然です」

 真顔で答えるアリスに、リリアンヌはクスッと笑う。

 その笑顔はまるで美しい薄紫色の花が開いたようで、上品さがありながらとてもかわいらしいものだった。

「ありがとうね。いつも感謝しているわ。だからこそ、休んでほしいのよ。身体を壊してほしくないの。休息は大事だわ」

 リリアンヌは少し悪戯っぽく笑ってみせる。

 アリスはお嬢様はまた突拍子もないことをお考えになっているのだわ、と思うけれど、優しいお嬢様がやることで迷惑を被ったことはただの一度もないので、今回も最後まで付き合って差し上げようと思った。

「何をお考えになっているのでしょう?」

 尋ねられたリリアンヌは、嬉しそうに言い放った。

「みんなでピクニックに行きましょう!」

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