メス豚ァァァァァァァァァァァァァ!!!
絶対に下冷泉の家の人には近づくな。
向こうから近づいてきても干渉するな。
少しでも隙を見せればこの学園はもちろん、僕たち百合園家が終わるかもしれない事を自覚しろ――そう、義理の妹に忠告されてから数時間後。
「フ。それで初夜はどうする? セックスする? セックスにする? それとも、セ、ッ、ク、ス?」
僕はその下冷泉家のお嬢様に求愛されていた。
百合園家と明治時代の時から仲が宜しくない下冷泉家の人間にして、超絶美人にして、救いようが無い頭をしている変態令嬢に僕は性的なアプローチを10分ぐらいされていた。
「お断りします。私と貴方はそういう関係性にはなれません」
「フ。放置プレイセックスを選択するだなんて、流石は唯お姉様。私よりも業が深い。という訳で今から野外オナニーするから目に焼き付けなさい」
「服を脱がないでください。みっともないんでそんな事は止めてください。そもそも私たちは女性じゃないですか」
「フ。女性同士がそんなに嫌? じゃあ男役は私がやってあげる。安心なさい、こう見えても舞踏やダンスは人並み程度には出来るように他人から調教されたし、逆に他人を調教する事も出来る。まさに多様性の時代。私が勝手に妹でも人でも豚にでもなれる素晴らしい時代が今。多様性最高」
取り敢えず、女性として振る舞う際には一人称を『私』にするように心掛けていた事もあって、彼女は僕の事を女性として認識しているようであった。
そうでなければ非常に困るので大変に助かるのだが、そもそもこの女学園にいる生徒が男子であると考えるような天邪鬼が果たしてどれだけいるかという机上の空論に片足突っ込んでいる気もしなくはないが。
とはいえ、彼女のこの積極性は実に危険極まりない。
歪ではあるとはいえ、人から好意を向けられるのは、まぁ、嬉しい。
だが彼女の場合は、その病的なまでの好意が僕にとっては余りにもリスクがあり過ぎる。
そう、下冷泉霧香の好意が暴走した影響で僕の女装事情がバレてしまうだなんて絶対に起こり得てはならないので、僕は渋々ながらも彼女を傷つけるであろう拒絶の発言を以てして距離を離そうと画策する。
「取り敢えず、お帰りください。ここは百合園女学園女子寮です。利用者以外の使用は余り褒められた話ではありません」
「フ。頭が硬い。まるでガチガチになった男性器のようにお硬い頭をしているのね、唯お姉様は。
「……それから、その汚い言葉遣いは謹んでください。仮にも私は理事長代理。余りこういう事で権力を使わせないでください」
高校3年生である彼女に高校2年生である僕が脅しをしたところで効力はないだろうけれど、この百合園女学園で一番偉い理事長の代理としての権力の前では流石に屈するだろう……そう読んでいた僕の考えは実に甘かった。
「フ」
黒い長髪を春風になびかせ、向こう側の景色が透けて見えてしまいそうなぐらいに線が薄い美人である彼女はそんな脅しなんかに屈する程、可愛らしい女性ではなかった。
不敵の笑みを浮かべ、闇よりも深いのではないのかと思わせんばかりの彼女の黒曜石を思わせる瞳で見られ返すと、逆にこちらの方が怯みそうになってしまいそうになってしまう。
「……っ」
何と表現すればいいのか。
この独特な緊張感はまるで『悪い事をしているのはお前の方じゃないか』と周囲から指を差されて非難されているかのような疎外感、そう疎外感だ。
……苦手だ。
僕は彼女の目が、苦手だ。
確かに彼女の瞳はとっても綺麗ではある。
だけど、余りにも綺麗すぎて、すぐ傍にいる僕の汚れを、嘘を目立たせるような、その類の眩さ。
彼女の瞳はまるでこちらがついている全ての嘘を白日の下に晒してやろうと静かに物語っているようで、実際に普通の人間がやってはいけないような僕に罪悪感という罪悪感を引きずり出されてしまうかのような、そんな感覚。
「フ。なぁに? そんなに私の顔を見て。とってもいいでしょ、私の顔。何なら全人類の中で1番良いレベルで良い顔。ほら見抜きしても
まるで今からキスをするぞと言わんばかりに僕の眼前に急接近した彼女は、本当に接吻をするかのように僕の頬に片手を優しく添えてみせる。
大切な宝物に触れるように。
傷なんて絶対に付けさせないかのように。
とろけるように柔らかい女の子の手が、僕の頬に添えられる。
「……っ⁉ な、何を……⁉」
「フ。もう何かをされてしまう事は織り込み済みなのね。思いのほか、唯お姉様は雰囲気に流されやすいタイプと見た。調教しがいがある。それじゃ逆に聞くけど、唯お姉様はこの私に、ナニ、されたいの?」
余りの出来事を目の前にして、頭の機能が十二分に稼働してくれない僕は彼女からの質問を咄嗟に対応出来るはずもなく、そんな僕の沈黙を下冷泉霧香は勝手に肯定と見做した。
「フ。初めてみたいだし優しくしてあげる。どうか存分に女同士のお遊びを楽しんで」
その言葉と同時に彼女は僕の腰に手を回し、彼女の桃色の唇が僕の唇を覆い被さろうとしてきて――。
「なぁに昼間から色々とやらかしているんですか、あんたら――⁉」
一足先に寮内に入っていた筈の茉奈がそんな事を口にしてきたのと同時に、目にも止まらない速度で僕たち2人の間にやや乱暴に割って入ってくる。
完全に下冷泉霧香の独特な威圧感に呑まれて身動きが取れずにいた僕にとっては、とってもありがたい事ではあったのだけれども、件の問題人物である下冷泉霧香はやや不満気な表情を浮かべて――いるどころか、どうした訳かゾクゾクと嬉しそうに法悦の表情まで浮かべているまであった。
「フ……最高。まさか唯お姉様が3Pを希望していただなんて! 私にも劣るとも劣らないその変態性!
「誰ですかこの変態⁉ ねぇ誰ですかコレ⁉
「フ。百合園のお姫様はブラジャーを持っている人間の顔を見ただけでドン引きするのね。酷いわ……酷すぎて逆に興奮してきちゃうじゃないの……!」
僕と変態の間に勇敢にも割って入ってきた茉奈は目の前に佇む変態の恐怖によって、僕の背後にそそくさと隠れてはその柔らかい身体を全力で僕に擦りつけては全力で僕の腕に絡みついてくるのだけど、怯えに怯えまくっている当の彼女はその事に気がついていない様子であった。
というか、下冷泉霧香も僕の腕に絡みついてきた。
ある意味では仲良しなのか、君たち。
「フ。随分と仲の良い妹さんなのね。こんな美少女が私の義妹になると思っただけでもゾクゾクと興奮してくる。気に入った。はいこれ、私のブラジャー。良かったら夜の営みに使って頂戴」
「人生で一番使わないであろうプレゼントですね⁉ え⁉
「フ。私の顔と身体を認めてくれた妹さんの懐の広さに感動を覚える。でも、どうか安心して?
「はい、ざんねーん! 御生憎様ですが私たち百合園家は生粋の日本人でしてね! 日本人なら知っているでしょう『あいうえお』! 文字通り、愛が上なんでーす! 愛の方が先に来るんでーす! 日本人は愛に生きる民族なんでーす! もしかして下冷泉のご令嬢は平仮名の『あいうえお』も知らない御教養であらせられるんですかー⁉」
「プ」
「
「フ。無知シチュプレイの良さも知らないだなんて、妹さんはまだまだ健全なのね。すっごく汚し甲斐がある。やっぱりそういう知識のない綺麗な女の子をドロドロに汚すのが最&高のシチュエーションだと下冷泉霧香は思うワケ」
「
「フ。事実でも人の事を変態って言ったら駄目よ。余計に変態である私が興奮してしまうじゃない」
「言動の何もかもが気持ち悪いよこの人ぉ……⁉ ねぇ理事長代理⁉ 早く何とかしてくださいよ⁉ ほら、こう、理事長特権とかそういうの! 退学処分だとかそういうの! そういうご都合主義ないんですか⁉ 漫画とかゲームだとあるじゃないですか!」
目の前に自分以上にパニックになっている人間がいると冷静な状態になれるだなんていう与太話はどうにも真実のようで、僕は慌てふためく茉奈のおかげで少しばかりの平常心を取り戻しつつあった。
というか、茉奈は半分以上パニック状態に陥っているというのに、僕への名称は一貫として義姉で通してくれている。
これに関しては普通にありがたい。
僕がどれだけ女性の演技を務めようが、周囲の所為で台無しになってしまう事なんて普通に考えられてしまうケースの1つなのである。
もしかすると、彼女は案外、演技だとかそういう才能があるのかもしれない……そんな他愛のない事を思い浮かべながら、僕は思い口を開いた。
「いや、流石に退学処分は……その……ちょっと無理かな」
「そう悠長に考えている場合じゃないでしょう
「あ、うん。それはさっき彼女から自己紹介して貰ったから知ってる」
「何でそれを知っていてこうも悠長なんですかこの
「フ。妹さんが私と言う存在を意識してくれてとても嬉しい。だけどそんな事よりも! 唯お姉様が私に向ける『なにこのメス豚気持ち悪っ……』っていう視線がとても嬉しい! 気持ちいい! 幸せ! ドMに産まれてきて良かった! 唯お姉様の視線で妊娠しちゃう! お願い! 私たちのエア子供を認知して唯お姉様!」
「
とはいえ、流石に茉奈が可哀想だったので、僕は変態であらせられる下冷泉霧香から距離を取る……具体的に言えば、すぐ近くにある女子寮にへと戦略的撤退をしつつ、籠城を決め込む事にする。
「茉奈。立ち話もアレだから、早く寮の中に入って扉の鍵を閉めよう。外で会話なんてしていたら不審者に声をかけられるよ」
「フ? あらやだ放置プレイ? 唯お姉様は私の性癖を理解してくれている。やっぱり私と唯お姉様の相性は最高ね。ついでに身体の相性も確かめましょう?」
「困りましたね。先輩は無視も通用しない類の救いようのない変態さんなんですね」
「唯お姉様の
「こら、茉奈。アレを見ちゃ駄目。早く目を閉じて。腐るよ両目」
「ちょうだいちょうだい! そういうのもっとちょうだい! 養豚場の豚を見るようなその目で私をとことん罵って!」
「豚豚言う割には人間の言葉を喋りやがりますね、この豚。先輩は本当に豚なんですか? キャラがブレるんでメス豚風情が人の言葉を話さないでくださいよ」
「ブヒィ!」
「随分と下ッ手糞な豚の真似ですね。自称メス豚のくせに本物の豚にもなれないだなんて本当に救いようがないですね」
「ブヒィ⁉ ブヒィ! ブヒィィィィ!!!」
「ふぅん? やればできるじゃないですか。その活きですよメス豚先輩。食肉加工されたくなければメス豚らしくみっともなく鳴いてください」
おっと、しまった。
目の前で四つん這いになっている赤面しながらうっとりとした表情を浮かべている先輩が余りにも変態雌豚だったものだから、ついつい僕の本音が出てしまった。
不登校になるぐらいのいじめを受けていたのだから、他人には優しくしようと心掛けていても、流石に可愛い義理の妹に変態発言を繰り返すのは我慢ならなかったのでついつい強い語調で彼女の流儀に付き合った訳なのだが、どうにも変態であらせられる下冷泉霧香にとっては百点満点の解答であるらしく、彼女は尻を振って喜んでいた。
言われた当の本人は頬を赤らめては嬉しそうに地べたに這いつくばってはブヒブヒ言う動物にへと嬉しそうに成り下がっており、茉奈に至ってはいきなり繰り広げられるSMプレイを前に若干どころかかなりヒいている様子であった。
「……
「茉奈。私をあんなメス豚先輩と一緒にしないで。失礼だよ? 人間に」
「フ。そうよ茉奈さん。変態初心者である茉奈さんにはまだ理解できない話かもだけど……いい? 唯お姉様は心からのドSであって、心からのドMである私とは真反対の存在なの」
「そういうメス豚先輩は何を勝手に人の言葉を喋りやがるんですか? 最後まで豚の真似をしてくださいね?」
「フ。フヒ、フヒヒ、ブヒヒ……!」
困った。
げんなりとした表情を浮かべては絶望のどん底に浸っている義妹はどうにも下冷泉霧香を一方的に苦手としているようなのだけど、僕はそこまで彼女を嫌えなかった。
確かに彼女は僕の異常な学校生活を送る上で最大最悪の敵にして障害であるという事を頭の中では自覚こそすれども――。
「ふふ」
「ブヒ」
――だなんて、お互いに笑みを投げかけながらアイコンタクトのように意思疎通を図っている始末。
何故だろう。
僕は決してサディストでは無い筈なのだけど、良い声で反応をしてくれる彼女に対して胸がときめいているかのような錯覚を覚えている気がする。
というか、僕は昔どこかで、こんなやり取りをしていたような――いや、して堪るか。
「ところで下冷泉先輩はどうしてこちらへ? まさか私に告白する為だけにここに来たんですか?」
「ブヒ? ブヒ、ブヒヒ、ブヒィ」
「もう人間の言葉を喋っていいです」
「フ。それなら遠慮なく人間になるわね」
すっかり彼女は僕によって調教済みであった。
困った、僕は一体どうしてメス豚の調教師になってしまっているのだろう。
元不登校生徒で、女装して女学園に通う変態で、しかも理事長代理で、更にはメス豚調教師でもあるって、何とも肩書きが多くなってしまったものである。
「もちろん唯お姉様に愛の告白をするのが第1目的だけど、どうやら失敗に終わってしまったみたい。敗因は愛が足りなかったから要反省……で、第2目的なのだけど」
奇天烈極まりない変人である下冷泉霧香は四つん這いの状態で僕の表情とスカートの中を覗き込んでは気持ち悪い薄笑いを浮かべている……どころか、僕の脚まで近づいては黒タイツをくんくんブヒブヒと匂っている始末である。
「
「流石に理事長代理の立場でそういうのをするのって、ちょっと不味いかなって……」
「難儀ですね、理事長代理。それで? 下冷泉先輩の言うところの第2目的とやらは一体何ですか?」
彼女が言うように、こうして僕と出会ってしまったのは全くの偶然……まぁ、僕からしてみれば何とも質の悪い事故のようなものだけど、これに関してはタイミングが悪いとしか言いようがなかった。
だがしかし、この変態が学校であんな変人っぷりを周囲に披露させられるものならば僕は間違いなく奇異の視線に晒される訳なのだから、そういう意味で考えるのであれば周囲に人がいない今のタイミングで彼女に遭遇したと考えれば、逆にタイミングが良かったのかもしれない。
それに彼女が僕よりも一学年上の先輩という高校3年生という立ち位置である以上、学校生活で彼女と関わる機会はそうそう無い――。
「フ。私もこの女子寮を利用する事にする。だって、唯お姉様がいらっしゃるんだもの。妹である私も入るしか選択肢はない。それに私は前いた学校では品行方正で真面目で優秀で優等生にして模範生にして超絶美少女だった。迎え入れる学園側からしてみても断る理由なんてないでブヒもの……しまった、つい面白すぎてまた豚になってブヒってたブヒね」
もしかすると、彼女は百合園家だけではなく、僕と茉奈の胃を潰す算段なのかもしれない。
「
「フ。茉奈さんも私をメス豚にしてくれるのね? 最高。嬉しい。襲う」
不敵な笑みのまま――変態メス豚先輩令嬢が、茉奈に急接近する。
凄まじい移動速度。
茉奈は咄嗟に反応できない。
「……ひっ⁉ ちょ、やめ、四つん這いでこ、こっち来ないで……⁉ や、やめっ……いやぁぁぁあああ⁉ 近寄らないでよこのメス豚ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!! 助けておに……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます