第2話 一輝の実力
ダンジョンへと接続可能な施設、『ギルド』の一室。
一輝は、『
『聖紋』とは、支援者となる神魔から与えられた加護の証であり、『神仕者』の持つ力の源。
また、様々な機能を兼ね備えていて、その内の1つに配信機能があった。
これを使用する事で、『神仕者』は高価な配信器具無しで活動が可能となる。
「はい、こんにちは。駿河一輝です。先日のダンジョン配信が色々と盛り上がっているようで、内心、戦々恐々としています。」
緊張している素振りなど、まるで見せずに一輝は言う。
コメント欄でもその事に言及されているが、華麗にスルーを決め、今日の予定について語っていく。
「今日もダンジョン配信の方をやっていきたいなと思っているのですが、その前に本日も実況役としてアテナさんに来て頂いております。」
『アテナだ。要望があったので、解説を務める。』
『聖紋』を通じてアテナの声が届く。
:おぉ、来た!
:戦神の実況とか豪華過ぎて・・・・・
:このまま準レギュラー化するのかな?
先日の配信の反響のお陰か、コメント欄は大変、賑わっている。
それ等の1部を抜粋して、一輝はコメント返しする。
「準レギュラー化するか。そうですね、アテナが暇な時は時々、頼んでみる形になると思います。」
『私は大抵、暇だぞ?』
「いや、これから忙しくなるかもしれないだろ。グッズ販売とかの権限はスポンサーのお前が持ってるんだから。」
『む、それもそうか。』
故に、これから一輝のファンが増えていけば、ファンからの期待に応える為にも、アテナが行動しなければならない機会は増えていく。
これからも安穏と配信に参加出来る、と断言する事は出来ない。
「さて、本日は『修羅の塔』に挑戦していきたいと思います。」
『推定難易度S。出てくる敵も、そこらの神魔よりも遥かに強く、ボスに至っては名だたる神に匹敵すると言われる超高難度ダンジョンだな。』
「早速の解説、ありがとうございます。えー、俺も三大大会の三冠を掲げる『
三大大会。
それは、神魔達の間でも、特に有名なコンテンツ、『決闘個人戦』、『決闘団体戦』、『ダンジョン攻略』の世界大会の総称だ。
表の世界風に言うなら、サッカーの世界大会だったり、オリンピックに当たるものだ。
一輝の夢は、この三大大会全て優勝し、三冠を手にする事だった。
:あれ、マジだったのか
:あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ
:【絶対王者】の信者湧いてて草
:実際、ちょっと厳しくね?
:ランカーとか、神魔超えてるのばっかりだぞ
若干の戸惑いを見せるコメント欄。
「おぉ、結構、否定的な意見が多いな。」
まぁ、無理もないが。
三大大会には、例年、世界中から猛者達が集結する。
神話の時代の英傑達に匹敵すると言われる、ランキング上位陣、『ランカー』達も挙って出場し、中でも、一輝が夢を志す切っ掛けとなった【絶対王者】は、この20年間、個人戦において無敗の記録を保持している。
普通に考えて、配信始めたての新人が、勝ち抜けるような大会ではない。
「まぁ、でも、今回の配信で信じさせてみせるさ。ここから駆け上がっていくんだって。」
その上で、一輝は、大胆不敵に微笑み、黒い双眸に戦意を湛えた。濁流が押し寄せるように、腹の底から活力が湧き出てきて、全身に力が漲る。
やる気は十分だった。
『──っ今のは良い科白だ。神魔は契約を重んじる。だからこそ、契約を果たす実力があるのかを重要視する。それを証明するというのは、神魔的には物凄くポイントが高い。私も胸が高鳴ったぞ。』
「そこは解説しなくて良い!」
やめろ、恥ずかしいだろ!?
滔々と解説するアテナに、若干、気を削がれつつ、一輝は、個室に設置された魔法陣を通じて、ダンジョンへと転移する。
辿り着いたのは、螺旋階段の底。
石造りの壁面には傷一つなく、歳月による劣化の影をまるで見せない。
ダンジョン内は、神魔達の力によって保護されていて、参加者には破壊する事が出来ない。
代わりに、ダンジョンに参加した者も、怪我で死ぬことも無いし、ダンジョンを出れば傷も癒えるように設計されている。
「これ上るのか。ちょっと面倒だな。」
『別に生真面目に上る必要性はないぞ。寧ろ、如何にダンジョンの設計者側を出し抜くかがダンジョン攻略においては重要になる。』
「それじゃあ、俺も時短させてもらうか。」
ぐっと足を溜め、跳躍する。
軽やかな仕草と裏腹に、勢いは凄まじく、螺旋階段の中腹へと着地する。
それから少し上った所に扉があった。
「多分、階段とフロアが連続する仕組みになってるのかな?」
ダンジョンの構造について考察を述べる。
ちらりとコメント欄を窺うが、ダンジョンに関するネタバレはない。
幾らネットと言えど、その辺りの線引きはしっかりとしているらしい。
良識を持っているリスナーの存在に、若干、嬉しくなりながら、一輝は扉を開けた。
瞬間、轟音が響き渡る。
吹き抜ける風のように衝撃波が駆け抜け、大気をびりびりと震撼させる。
「まったく手荒い歓迎だな。」
手を前に突き出して、半透明な障壁を張る一輝。
その障壁の向こう側には、不意打ちを仕掛けた四本腕の巨人が待ち構えている。
:何が起きた!?
:鼓膜がないなった
:おぉ!今のよく防いだな!
:ここの初見殺し、絶対引っかかると思ってたのに
爆弾でも投げ落としたような轟音の正体は、扉を開けた瞬間を狙った不意打ちを、一輝が障壁で防いだ事による衝突音だった。
『ガァァァァ!!』
4つの腕に彎刀を担い、猛々しく咆哮する巨人。
初撃を防がれた事に、矜恃が傷付けられたのか、髭を蓄えた醜悪な面を憤怒に彩る。
「凄い魔力だな。」
突立つのように塔のように、巨人から充溢する強大な魔力。
それでも一輝は緊張感なく笑った。
「ただ、こっちの方が武器は多いぞ?」
片手に神槍を、もう片方には神盾を。
身の回りには18本の光剣を召喚する。
これが一輝がアテナから譲り受けた力──『
あらゆる状況に適応し、その形状や性質を変化させる究極の完全武装。
戦神アテナが生まれた時から完全武装であった事に肖った力だ。
静謐とした魔力を纏い、一輝は巨人を見据える。
そして、戦端を切り開いた。
「行け。」
小さな掛け声と共に18本の光剣が飛翔する。
弾丸の如き速度で発射された剣は、一直線に巨人の命を狙う。
『ゴァァァ!』
それに対して巨人は素早い反応を見せる。
鈍重そうな外見からは想像も出来ないような機敏さで、彎刀を振るい、光剣を撃ち落とす。
蹴散らされる光剣。
されど、弾かれた先で一人でに動き出し、躍動する。
まるで剣そのものが意志を持っているかのように、何度、撃ち落とされても、巨人を狙い続ける。
「何度、叩き落としても無意味だぞ。そいつらは、俺が良いと言うまで、狙った対象を追い続ける。」
一輝は、依然、突っ立ったまま、指摘する。
『早く戦え』とコメント欄から戦うように催促されているが、先ずは、このダンジョンの敵の傾向が見たかった。
『グォォォ!』
遂に、巨人は、全ての剣を防ぐ事を諦めたのか、逃げるように大きく跳躍。中空で身体をぐるりと反転させ、一輝の方へと向き直る。
そして、四本の腕をそれぞれ連続させ、飛翔する斬撃を放つ。
一輝は神盾を構えて危うげなく防ぎ、
「ふっ!」
反射的に反撃の槍を見舞う。
一輝の魔力を喰らって、神槍が、赫灼の
太陽の表面に匹敵する炎熱の柱が、巨人の胸を貫いた。
「あっ。」
槍を突き出した構えのまま、呆気に取られたような声を出す一輝。
胸に大きな風穴を作り出された巨人は、悲鳴することさえ出来ずに絶命。そのまま地面に打ち付けられ、ドスンと重たい音を立てる。
当たり前だが、動く気配はない。
『今のは完全に癖で撃ってたな。』
「はぁ、だな。もう少し敵の動きを観察したかったんだけど。」
倒せる時にしっかりと敵を倒す。
無意識にまで浸透しているアテナの教えのせいで、咄嗟に倒してしまった。
バツが悪そうに一輝は後頭部を搔く。
:強えええええ!!
:いや、なんで落ち込んでんの!?
:
:火力、防御、手数、全部網羅してて、隙が無さすぎる
:これ、まじで余裕でクリアするんじゃね?
淡々としているアテナ陣営と異なり、愕然とする視聴者達。
一輝の実力を詳しく知っている訳では無い彼等は、超高難易度ダンジョンの試練の1つを易々とクリアした事に驚きを隠せていない様子だった。
:次の敵、倒したら本物
:早く次行け
:走れ
その驚きは、やがて戸惑い混じりの期待へと変わり、次の試練へと促すコメントへと変化する。
「はいはい、指示厨多めか?」
一輝は、それらの期待に応え、次の階へと足を向ける。
それから2時間半、一輝はフロア毎に配置された敵を倒し続け、快進撃を続けた。
そして、遂に修羅の塔100階、最上階へと到達した。
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