ささえる人の話


 テレビに映る彼女は、とても生き生きしていて。SNSに流れてくる彼女は、とてもきらきらしていて。それが、とても悲しく思えてきてしまって。

 記憶の中の彼女は、この時期はいつも不安定だった。そりゃあ収録は数週間から一ヶ月以上も前の姿だし、ネットにあげる画像は着飾った姿が当たり前。こんな心配は、単に妄想を拗らせているだけでしかないってわかっている。わかっているつもりだ。


『久しぶり。元気にしてる?』


 打ち込んだだけで、送信できないメッセージ。履歴は『誕生日おめでとう』『ありがとー!』と淡白な文字列が並んでいるだけ。有名人だからって、同じようにお祝いの言葉を送るやつが多かったんだろう。その有象無象の一人でしかないって、あの日も思い知ったはずだった。

 そうだ。まず、相手にされると思っている時点で間違っている。これは巻き込まれてしまったタイプの事故なんだ。そう考えたら、すんなりと送信ボタンを押せた。




 五分と経たずに着信が鳴り、液晶に浮かんだ発信者名に目を疑う。


「も、もしもし」

『やっほー』


 右半身だけが、夢に堕ちたような感覚だった。


「で、電話なんてして、大丈夫なの?」

『あー、なんか間違えて押しちゃったからいいかなーって』


 ムフフと笑う声が耳元を支配する。あり得るか、まあ彼女ならあるのかもしれない。


『久しぶりだね。突然連絡してきてどうしたの?』

「いや……卒業アルバムを見ててさ。懐かしくなって片っ端から送ってたのよ」


 こんな適当な嘘でも、彼女はまず信じてくれると知っていた。


『いいね! 私なんてもう、どこに仕舞ったかも覚えてないよー』


 それでも、これはいけないことだと理性が警鐘を鳴らしていて。


「……なんか、声聞いてたら元気出てきたわ」


 底抜けに明るい性格は、周りのみんなを支える役によく回っていた。今でもきっとそうで、僕はずっと彼女に救われてきたんだ。


『本当? そう言ってくれると、私も頑張れるよ』


 ヘヘッ、と笑ったのが合図で。


「これからも応援してる——じゃあ、おやすみ」


 『ありがとう』という声が遠退くのを聞きながら、終了を押す。新しく一分に満たない通話履歴が残る。

 僕はただの元同級生であり、彼女の一ファンだ。ただ、それだけ。それ以上を期待してはいけなかった。


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