第9話 兎耳少女とコボルトちゃん

「……え? 人?」


 隕石の中には……人が入っていた。

 しかも、ただの人ではない、その人物はこの世界においてもあり得ない見た目をしていた。


「兎耳の生えた……女の子? え? なんで……」


 白髪の兎耳の生えた少女、その人物が、目を閉じ、気を失っていた。

 服装も、この世界の物ではない、見たことのない生地の服を召していた。

 ヴェラは、その中にいた人物を見て……そうすることもできず、ただ黙って見ていた。

 しかし、周りは引き続き隕石が落ちていて、ヴェラはその爆発音で我に返った。


「そ、そうだ! と、とりあえず、建物の中に入らないと……ええっと……とりあえずこの子も……」


 ヴェラは少女を姫のように抱え、商会の中へと運んだ。



 ヴェラは広めの場所に居たほうがいいだろうと考え、「コボルトちゃん2号」の試作品の眠る格納庫へと身を寄せた。


「ここならひとまず大丈夫……だと思うけど……っていうか、この子、なんなんだ?」


 ヴェラは格納庫にあった作業着をマット代わりにし、少女をそこに寝かせた。


「この耳……本物? 人間の耳は……生えてないの?」


 ヴェラは少女を観察した。

 髪の毛を掻き分け、人間の耳が生えているか否か、着ている服はどのようなものなのか、そもそも、生きているのか……。

 一通り観察し、出した結論は。


「この子……かわいい」


 ……機械と同じくらい動物好きな彼女にとって、その少女は小動物同然だった。

 しかし、状況を見て我に返り、そんな下心をぐっと抑え、胸に耳を当て鼓動と呼吸を確認し、とりあえず生きている事は確認した。


「とりあえず……どうすればいいんだ? というより、なんなの? あの隕石……ここに落ちてきたらどうしよう……というか、この子、なんであの隕石に?」


 有り得ないことの連続……ヴェラは徐々に冷静さを失っていき、辺りを見渡したり、立ち上がって意味も無く歩き回ったりしていた。


「考えろ、考えるんだヴェラ・カノープス……今の私には何ができる? 私にできること……」


 ヴェラはぶつぶつと独り言を唱え、頭をかきながら歩き回った。

 こんな状況下で、自分にできること……こんなこの世の終わりのような状況で、どうすればいいのか……ヴェラは考え続けた。

 考えに考え抜いて……ヴェラが考えたのは……やはり機械だった。

 どうしようもない状況、頭ではどうにかしなければいけないのに、心は楽な方に進んでしまい、安定させようと自分にとって楽しい事、嬉しい事が頭の中にねじ込まれてしまった。


「ああもう! 今はそんなこと考えてる場合じゃないでしょう!! ああああああもおおおおお!! 私のバカバカ馬鹿ぁ!!」


 頭の中のバケツの水が一杯になり……その水は、ある衝撃で一気の零れた。


「きゃあ!? いったー……」


 ヴェラは何かにぶつかり……尻餅をついた。

 頭をかき、ヴェラはぶつかったものの正体を見極めようと、頭を上げた……そこにいたのは。


「……コボルトちゃん」


 ……ポラリスと作業員たちが調整していた試作品、コボルトちゃん2号。

 ヴェラの目では、自分が試行錯誤している間、ポラリスたちが調整した影響で、今朝見た時よりも整っているように見えた。


「……そうだ、この子を使おう!」


 ヴェラは「生身の状態で外に出ても隕石の犠牲になるかもしれない、しかし、この子を使えば自分と少女を安全な場所に運ぶことができるかもしれない」と考えた。

 ……調整した内容はヴェラ自身の頭の中に入っている、ここに留まっているよりも、何か行動した方がいいと考えた。


「無意味かもしれないけど……とりあえず、やってみよう!」

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