第7話 商会へ勧誘

 その日もたたき売りをしていたヴェラだったが、1人、変わった客が現れた。


「アンタかい、奇妙な機械を売ってるってお嬢ちゃんは」


 その人物は……男物の正装を着た女だった。


「違いますぅ~お嬢ちゃんじゃないですぅ~私はピッカピカのハタチですぅ~」


 ヴェラは声を掛けられて開口一番、女の言葉に頬を膨らませた。


「おっと、こりゃ失礼、すまないね」

「全く! 本当に失礼ですね!」

「まぁそんなことは置いておいて……」

「そんなことってなんですか!」

「はいはい、この機械はどういうのなんだい?」


 女は、狼の形をした機械を指差して、尋ねた。

 その機械は、ヴェラの身長ぐらいの大きさで、直立不動のままだった。

 それまで怒りを露わにしたヴェラは、態度を一変し、嬉しそうに語った。


「おお! お目が高いですね! これは『お手伝い用機械のコボルトちゃん』です!」

「お、お手伝い用? どう使うんだい?」

「こうするんです!」


 ヴェラが「コボルトちゃん」に魔力を込めると……まるで意思を持つように動きだし……目の前にあった木箱を持ち上げ……女の前に置いた。


「まぁ、凄いねぇ」

「そうでしょう? 凄いでしょう? これがあれば体力が落ちたお爺ちゃんお婆ちゃん、そして成長途中のお子さんも、重い物を自由に運べます! まだ制限はありますけど……あ、今ならこのコーヒーを作る機械もつけて300レドンです!」

「さ、300レドン!?」

「どうでしょう? お買い得でしょう?」


 300レドン……この国においては、「パン2つくらいの値段」だった。

 その衝撃価格に、女も価格同然の表情を浮かべた。


「アンタ馬っっっっ鹿じゃないのかい!!??」

「……へ? 高すぎですか?」

「逆だよ!! 安すぎじゃないかい!! アンタ他の機械も同じ値段で売ってるんじゃないだろうね!?」

「ええ、例えばこのコーヒー作る機械は150レドンですけど……」

「……このコボルトの機械の値段は?」

「に、200レドンですけど……」

「……」


 女は……ヴェラのあまりの世間知らずっぷりに呆れた表情を浮かべた。

 冷静になろうと空を見上げた女は何かを決心し、ヴェラの両手を掴んだ。


「……決めた、本当はもうちょっと素性を探ってから連れてくる予定だったけど……アンタ、今すぐアタシと一緒に来な」

「……な、なんでです?」

「なんでも何もないよ! アンタそのうち悪い奴に騙されちまうよ!」

「え? でも今まで機械を買ってくれた人は『なげうり』? 価格で助かるって……」

「アンタ……投げ売りの意味も分からないのかい……」


 ヴェラは商売の経験も無く、自分の機械にどれほどの価値があるのかもわからなかった。

 ただ自分の機械が役に立っていればそれでいい……それ以外は考えていなかった。


「……もういい、アンタが嫌だって言っても連れて行くよ! 荷物纏めな!」

「えぇ!? いきなりですか!? まだ食費も稼いでないのにぃ~」

「食費ならたんまり稼いでやるさ! 来な! アタシも手伝うから」

「は、はい……」


 こうしてヴェラは、見知らぬ女に脅され、荷物を纏め始めた。


「ところでアンタ、名前は? アタシはメリク」

「ヴェラです、ヴェラ・カノープスっていいます」

「カノープス!? あの辺境伯家の!?」

「ええ、まぁ、もう勘当されましたけど」

「勘当って……アンタよく生きていけたねえ……」

「えへへ、褒めても何も出ませんよぉ~」

「いや、褒めてないんだけどね」


 こうしてはヴェラは、メリクに誘われ……ピクシス製作所へと入った。

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