第2話 オムニバス

「待ってー! 私も乗るからー!」


 女は止まっていた大型の自動車に急いで駆け込み、ギリギリのところで、締め切られた。

 オムニバスと呼ばれる大型の自動車、時刻は午前7時……女が乗る時には、既に同じような目的を持つ人々でごった返していた。

 魔法科学の発達により、魔法で動く自動車が発達した……しかし、一般庶民にはやはり高嶺の花、多くの人々は、移動にこのオムニバスを用いていた。

 この世界の自動車は、操縦桿の代わりとなる魔法板に触れることで、操縦者の想像の通りに動く……のだが、魔力のコントロール仕方にコツが必要で会ったり、予期せぬ事態が起きた際の操作方法の習得も必要なため、自動車……果ては機械を操縦するには、「魔法機械操作免許」が必要だった。


 順調に進んでいくオムニバスだったが……停留所はまだまだ先にもかかわらず、減速していき、やがて、完全に止まってしまった。


「クソ! このポンコツが!!」


 運転手は、それでどうなるわけでもないのだが、魔法板を思いきり叩いた。

 乗客は騒然となり、皆目的地に着けるのか不安に思っていた。

 そんな中、人ごみを掻き分け、女が運転席へ向かった。


「貸して、『この子』のこと診てあげる」

「いや、お嬢ちゃん……」

「お嬢ちゃんじゃないですー! ほら!」

「お、おう……」


 女は「魔法機械操作免許」を見せびらかし、運転手はただものではないと判断し、その場を女に託した。

 女は持っていたカバンから指揮棒のような杖を取り出し、呪文を唱え、オムニバスに仕込まれた術式の解析を始めた。


「オムニバスちゃーん、どこが調子悪いのかなぁ?」


 女はまるで自分の子どもの体調を確認するかのように、オムニバスの点検を始めた。

 中に仕込まれていた魔法陣を見て、女は納得の表情を浮かべた。


「あーなるほど、この術式が悪さをしてたんだな、つまりこれをこう書き変えれば……」


 女は手慣れた様子で魔法陣を弄り……その作業はあっという間に終わってしまった。


「はい、運転手さん、直ったよ」

「ほ、本当かい?」

「本当だよ、魔力込めてみて」

「おう……」


 半信半疑のまま、運転手は魔力を込めた。

 すると、始動を合図するかのように、魔法板から魔法陣が展開した。


 「あ、ありがとうお嬢ちゃん、すっかり元通りだ!」

 「だーかーらー! お嬢ちゃんじゃないですー! 仕事に遅刻するので早く行ってください!」

 「おうよ! 飛ばすぜ!」


  運転手は再びオムニバスの操縦を再開した。


 「よっ! 小っちゃい姉ちゃん、やるねぇ!」

 「ええぞ! ちっちゃい姉ちゃん!」

 「んもぉ! 褒めても何も出ませんよ~」


 乗客たちは、女を褒め称えた。

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