第34話 エディンバラへ

「どうしたんだ」と、ジャスミンが駆けてきた。

「うん。軍艦が糖煎坊しているんだよ」

「えっ、じゃあ、どうするのさ」


「外に出いている者は中に入れ。大砲要員は、撃てるように」と、船長の言葉が聞えた。

 ジャスミンは驚いた。

 遠洋航海にあこがれて、この船に乗ったが、いきなりお尋ね者じゃないか。

「ヴィレム……どうしよう……」

「どうするもこうするもの無いよ。やるしか」と言うヴィレムの眼は、落ち着き輝いていた。

 それは、今から『やってやる』という眼だ。


 ジャスミンは、少し怖くなった。

 普段は、穏やかなヴィレムとは別人に感じたからだ。


 さて、クリッパー船は狙い通り、左の船に突っ込んで行く。

 それを他社の船やタグボートが、驚きをもって見ていた。

「こいつら、どうするんだろうか」と、いった具合に。


「アメリカの時と同じようになると思うなよ」とは、船長だ。

 船長自身も、実はあの時のことは屈辱に感じていたのだろう。


「船速は落とすなよ」と、付け加えた。



***


 軍艦では。

「ハインリッヒは、アメリカでは無抵抗だったらしい。ここも、停船し積荷を渡すだろう。我らは、ここで待っていればよい」と、のん気なものであった。

「大佐、ハインリッヒの船が突っ込んできます。ウッドが狙われています」

「なんだと」


 そう、一番左の船の名は、ウッド。

 機動力のある船だ。

 そこに、クリッパー船がまっすぐに突っ込んできたものだから、「前進しろ」と大騒ぎだ。


「前進したら、一番艦に突っ込んでしまいます」

「威嚇射撃をしろ」

「勝手に発砲しても」と、右往左往していたのが、クリッパー船からもわかったので、ハインリッヒ船長は、「よし、すべての帆を掲げろ。29枚の帆をすべて掲げろ。我らの覚悟を示す時だ」と、叫んだ。

 その声は、勇ましく、船員たちは迷うことは無かった。

 そして、確信した。

――今こそ、我らのティー・クリッパー|"Sleutels tot de toekomst《スレイトゥルス トット ドゥ トゥークンスト》"号の旅立ちの時なのだ。


 覚悟が足らなかったウッドは動いてしまい、一番艦へおかまを掘ってしまった。


 船員たちが転げているのをよそに、我らの帆船は悠々自適に通り過ぎて行った。


「エディンバラへ向かう」と。


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