第28話 "Sleutels tot de toekomst"


 アインス商会の会長の元に、ロッテルダム支店から手紙が届いた。

 アムステルダム支店に、この仕事は譲らないと。

 そして、ヴィレムも連れて行くと。

 

 もし、この仕事に失敗したり、ヴィレムにもしものことがあれば、自分達の処分は何なりとして頂いて結構であると伝えた。

 フィリップス・アインホルンもハインリッヒ・ヤンセンも覚悟を決めたのだ。

 だから、会長のバルドゥイーン・アインホルンは一言も発することは無かったが、ついに口を開いた。

「お前たちの好きなようにやれ」と。


 ロッテルダム支店では、クリッパー船が完成したことを社員に告げていた。

 支店長の頭の中では、船長はハインリッヒ船長以外に考えられないので、社員たちの前で、そのことを告げた。

 それを聞いたヘニーは、心臓が高鳴った。

 なら、一層のこと、副船長は別の奴がやれよ。オレは、別のブリック船の船長でも……


「副船長はヘニーに頼む。ヘニー、良いか」と言われ、ヘニーは返答に困ってしまった。胃がきりりと痛む。

「だ、大丈夫です」と、返答してしまったが、決心がついたわけではない。反射的に答えただけだ。


「一等航海士:ファース、船医はエメレンス先生。調理場はドロアテにお願いする」と、次々に船員が決まっていく。

「そして、我らの快速帆船の名前だが、ウィンドジャマー|"Sleutels tot de toekomst《スレイトゥルス トット ドゥ トゥークンスト》"号だ」

「ウィンドジャマー?」と、社員たちは首を傾げた。船乗りも聞いたことのない船種だからだ。

「あぁ、ウィンドジャマーとは、帆船だが汽船の要素を取り入れた船だ。鉄で強化している」


「"Sleutels tot de toekomst"、未来への鍵ですか。支店長」

「そうだ、ファース。この仕事は、我が支店の進退をかける仕事になるはず。この船は、まさに未来への扉を開く鍵になるはずだ」

 支店の社員一同、頷いている。

 そんな中、ヘニーただ一人は、呆然と下を向いていた。

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