第6話:軌跡
(80年前)
綺麗なエルフっぽい女性が仲間の男性を蹴りを入れて起しそうとしていた。
「おい、起きろって」
ガン
「痛ってぇな!!!」
男性は後頭部を押さえて起きあがると女性に罵声を浴びせる。
「テメェは人を真面に起こせねぇかよ!!!硬ってぇブーツで蹴りやっがて!
唯でさえ毒舌、頑固の貧乳…」
ドン!
横になっていた男性の股間手前に槍が突き刺さる。
突き刺した女性の顔は笑っているが、瞳の奥が笑っていないのがわかる。
「それが最後の言葉でいいんだな?」
「ちょっと…ヘレナさん?」
男性は女性の態度にやっと冷静になり、態度を改め始めるが…
女性…ヘレナは許さない。
「死ね…」
バン
「はいはい、夫婦喧嘩はそこまでだよ!」
男性と女性の仲間3人が部屋に入ってきて、女性の攻撃を止める。
「「夫婦じゃねぇ!!!」」
男性と女性は息を揃えて否定する。
「相変わらず仲良いね!」
ツインテールの可愛らしい女性が二人を揶揄った。
そして二人はまた息を揃えて否定する。
「「仲良くもねぇ!!!」」
二人はお互いのほっぺを引っ張り子供みたいな喧嘩をし始める。
「「真似すんじゃねぇ!!!」」
今度は先程二人を夫婦呼ばわりした、目元に傷がある女性がツインテールの女性を注意する。
「ドリアナ、あんたが余計な事を言うから二人が遊び始めただろ…」
「だって二人とも仲良いのにさ」
「「なかひょくない」」
二人は仲良いと言われるたびにより子供っぽい喧嘩を続けていた。
先程と女性陣と一緒に来ていた大柄な鷲の獣人の男性が二人を引き離して止める。
「いい加減に止めろ!」
「何だよ。リーダーまで俺ん家に…」
「仕事だ。着替えてギルドに来い」
(冒険者ギルド)
寝ていた男性は黒いボサボサの頭を掻きながらギルドに来た。
「あれ?ニコ、ボイルは?」
黒髪の男性は仲間のボイルの所在を目元に傷がある女性ニコに聞いた。
「アイツはギルド長と話してるよ」
「そっか、リーダー…ふぉあーー、こんかいの仕事は何やんだ?」
男性は欠伸をしながらリーダーに質問をした。
「あぁ、今回はレッサーヒュドラの観測だ」
「…観測ならまぁ大丈夫か」
「詳しい事は今から戻ってくるボイルに聞いてくれ」
「だからボイルが行ってたのか。ちっ、あの獣人差別者が…」
ここの冒険者ギルドのギルド長は獣人を差別することで有名で、彼らのリーダーは人寄りの見た目でも酷い差別を受けていた。
「あぁ、あまりにも酷いから今回の仕事で此処から離れる事にしたんだ」
「それはいい!仕事の数は多くても、胸糞悪い所でヤダだったんだよ…」
彼はリーダーの話を聞いて上機嫌になる。彼はそれ程リーダーを信頼してるし、仲間を大切にしている。
「次は何処行くの?」
ドリアナは可愛い子ぶりながら聞いた。
「しっかりとは決めていないんだが、んー、王都がいいかもしれないな…」
「やった!王都なら服が買える♪」
「あんた、そろそろ魔法袋の容量いっぱいじゃない?」
「大丈夫!新しいの買ったから!」
ニコは若干引いた顔になる。
「へ、へぇー」
「ドリアナのおかげで教会の馬鹿高い治療費を払わなくていいんだから、いいんじゃねーの?」
「私は別になんも言ってないよ…」
「ありがとう!シーガ」
ドリアナは擁護してくてた黒髪の男性シーガに可愛らしく感謝した。
シーガは親指立てて返事をする。
「おう!」
「来たよ、ボイル。」
話に参加していなかった綺麗な女性ヘレナが仲間に気づいた。
「よ!ボイル。」
「あぁシーガ、またヘレナと喧嘩したんだって?」
ボイルはシーガの事を揶揄った。
「うるせぇな…蒸し返すなよ」
「折角落ち着いてきたのに…」
リーダーは自身の眉間を揉んで落ち着かせた。
「ボイル…詳しい話を頼む。」
「分かった、レッサーヒュドラの番が発見された」
「最悪だな…」
「俺達の任務はそいつらの交尾を邪魔して、森に帰すことが任務だ」
「観測だけじゃすまないな…」
「話が違うな…」
彼らはギルド長からの嫌がらせに気づく。
事前に紹介された内容に変更をされてしまっていた。
「仕方ない。受けてしまった以上、仕事はやり切るしかない。」
「そうだな…気を取り直してやるきゃねーな、それで此処ともおさらばだ!」
「おう」「えぇ」「いいね!それ!」
「よし、行くか!」
(街道)
「うわっ…街道のど真ん中にいるよ…」
「人が来ない内に移動させないとな…」
「だな…」
彼らは身体を伏せながら、レッサーヒュドラの動向を確認していた。
「雄はシーガとヘレナ、雌は俺とニコが引きつける。」
「おう」「あいよ」「わかった」
「二人は後方から着いてきてくれ」
「オッケー」「わかった」
作戦を練り行動に出る。
「“溜め射ち”」
ニコの矢が雌のヒュドラの目の前の地面を削り煙を起こす。
「お前はこっちだ“投擲”」
今度はシーガが投げた石が雄のヒュドラの顔に当たった。
雄のヒュドラは怒りシーガの方へと向かう。
「シャーー!」
「来た来た。行くぞ!」
「えぇ」
暫く走っているとシーガとヘレナの目の前にオークが立ち塞がる。
「“槍牙”」
ヘレナは何も言わずオークを鎮める。
「お見事」
「…」
シーガは誉めるがヘレナは無視する。
「はぁ…」
(「これは明日までキレたままだな…」)
彼はいつもヘレナを怒られせているため、どんぐらいで機嫌を直すのか分かるようになっていた。
結局二人は会話をすることなく任務を淡々と終わらせ、四人は無事にレッサーヒュドラを森に帰した。
「きつかったな」
「あぁ…アイツ、俺らが大怪我してると思ってる筈だぜ!」
「少しでも奴の思惑を潰せたと思うとスッとするわ」
「すまないな…俺のせいで…」
リーダーはパーティに迷惑をかけていることに罪悪感を抱き謝罪する。
しかしシーガはそんなリーダーをここぞとばかりに励ます。
「何言ってんだよ!リーダー!俺達はあんたが好きだから一緒にいるんだぜ?あのハゲじゃなくて、あんたがいつかどっかギリド長になればアイツの鼻を明かせるだろ?」
リーダーはシーガの優しさに救われる。
「ありがと、シーガ」
後方でそれぞれの後を追っていた二人が合流する。
「お疲れ!」
「皆揃ったし、帰りましょ…」「「避けろ」て!!!」
ドカン
この言葉により、四人は奇襲を何とか避ける事ができた。
「一体何?」
「アレは!?」
そこにはさっきまで追いかけっこしていたレッサーヒュドラの頭が転がっていた。
「嘘だろ?」「どうして?!」
「ワイバーン…」
空にはワイバーンが6人を見下ろしていた。
「二人は下がって、サポートを!立ちあがれ!応戦するぞ!!」
リーダーの指示に全員が冷静になり行動に移した。
「“獣化”」
リーダーの姿はひと回り大きくなり、みるみるうちに人型の鷲に変身する。
「我が力よ
我が味方二人に
逆境に打ち勝つ、
鉄壁の力を与えよ。
付与魔法 ツイン・ディフェンスハイブースト」
ボイルはリーダーとシーガに魔法付与する。
「我が力よ、
炎の力を武器に纏わせよ。
付与魔法エンチェント・炎!」
ヘレナは槍に炎を纏わせた。
準備が整うとリーダーが掛け声をかける。
「行くぞ!!」
「“剣法”!!」「“発勁”!」「“槍投げ”!」
ワイバーンは3人の武技を華麗に避けるが…
「“溜め射ち”」
ニコの矢がワイバーンの目に刺さる。
「よし!」
ニコは再び弓技を使用と構えるが…
「ゴアアアアア!」
ワイバーンはそれを許さない。
翼でニコを襲う。
「ニコ!!!」
ボイルが叫ぶが、もう回避は不可能…
「“シールドブロック”!!」
何とかシーガが間に合い受け止めた…
しかし盾の耐久力が保たずに壊れ、シーガの腕と臓器を奪う。
「「「「「シーガ!!!!」」」」」
シーガはその場で倒れてしまう。
「ゴフ…」
ドリアナは急いでシーガの元に向かって回復を行い、
ヘレナはボイルに自身にバフをかけるように指示をする。
「ボイル!!!私にアタックブーストを!早く!」
「我が力よ
我が味方に
敵を討つ威力を、
英雄の力を与えよ。
付与魔法 アタックハイブースト」
「我が力よ、
土の力を武器に纏わせよ。
付与魔法エンチェント土!」
ヘレナは槍に更に土を纏わせ、まるで槍溶岩の槍へと変わる。
ヘレナの負担も大きく、ヘレナの目から血の涙が流れる。
「“奥義・雷槍”」
ワイバーンは避けようとするが、リーダーに翼を掴まれて、上手く飛べない。
「グオオオ!」
ワイバーンは急いでヘレナに向かってブレスを放つが、ヘレナはブレスごとワイバーンの腹を貫く。
ズドーーーーン。
ワイバーンは墜落した勢いで完全に息絶える。
ヘレナは回復を受けているシーガに近づく。
「シーガ!!!」
「ヘレナ…」
シーガの眼は霞んでいた。
「お願い!ドリアナ!シーガを助けて!」
「もう、いい…」
シーガはわかっていた自分の傷が普通の回復魔導師には治せないことが…
ヘレナは諦めようとしない。
「黙って!」
「いいんだ…」
「私を一人にするつもり!?あの子も死んであんたも死んだら私は…」
実はシーガとヘレナは付き合っていた…
恋人以上夫婦未満だった。
何故二人が夫婦にならなかったのか…それは二人の子供が原因だった。
二人の子供は生まれ直ぐに死に、そのときにヘレナは妊娠出来ない身体になってしまった。仲間はこの事を一切知らなかった。
ヘレナは自身ではシーガを幸せに出来ないと言い別れを切り出したが、シーガは否定し、その話で喧嘩して二人の関係は終わった。
しかし、今でも二人はお互いを愛し合っていた。
「ごめんな…ヘレナ」
「駄目!死なないで!」
「愛し…る…ヘレ…ス…ティナ…」
「いやぁあああああああああああ」
(現在)
「ちっ、嫌な事を思い出しちまったね…」
ギルド長であるヘレスティナは夢で過去の事を思い出していた。
彼女は起き上がると写真立てを見る。
その写真立てにはギルド長になったばかりの自身と今はもういない仲間達が写真には写っていた。
「もう、私だけになっちまったね…」
写真の仲間達はリーダーとドリアナが子供を二人抱えて、ボイルと妊娠しているニコが写っていた。
「あんたらの子供は私がちゃんと面倒をみるよ…」
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