第28話:昇進

今日はクーガやその同僚の陞爵、表彰が王宮で行われていた。


 ゲオルグ・ダイ・ペンドラゴン。

 彼はこの国の王である。もうすぐ六十路とは思えないほど彼は若々しい、三十代前半のような風態をしている。


「ゲオルグ・ダイ・ペンドラゴンの名においてここに宣言する。

クーガ・トライーガを子爵として陞爵することをここに認め

さらに王国軍 第三師団 副団長を就任することをここに命じる」


 王国軍には全部で五つの師団と王直属の騎士団がある。

 第三師団は主に人族と獣人族で構成されてる。

 その第三師団長はツキノワグマの獣人族で名をカイト・ベアームドという。

 この第三師団は元々、グレンダのムーン家が代々、指揮していた師団だったが、ムーン家は辺境の守るため、その地位を他に任せた。


「はっ、ありがたき幸せに存じます。

クーガ・トライーガは王国の剣となることをここに再び誓います」


「うむ、以上3名の陞爵は完了した。これにて閉式とする」


 そして式は御開きとなり、晩餐会が行われた。

 クーガは貴族達と談笑をしていた。


 今はゴルロージと話をしていた。


「トライーガ卿おめでとうございます」


「これはリバーシュ卿お久しぶりです」


「…少し窶れましたね」


 リバーシュは言うか迷ったが、同じ子爵で同僚であり戦友のクーガを心配を隠せなかった。

 クーガはそれ程窶れ…憔悴していた…


「えぇ、最近は戦争続きで休む暇がなく…」


 クーガはつい嘘をついてしまった。

 ペンドラゴン王国では一度の戦争に参戦すれば王都防衛戦を除き、如何なる命令があろうとも連続して参戦しなくてもよいと言う法律がある。

 勿論リバーシュ卿もそれは知っている。

 寧ろクーガより詳しい。

 しかしリバーシュ卿はクーガの心中を察し肯定する。


「そうですね…最近は大変でしたね」


「申し訳ない…」


 クーガはその優しさに謝ることしか出来なかった。


 ゴルロージは戦友の弱々しい姿を見て胸を傷める。


「…クーガ殿、お子さんの為にも元気でいてください。そして亡くなられたグレンダ殿のために…」


「はい…」


「どうですか?私の別荘で飲み直しませんか?」


「いいえ、いい加減に子ども達と向き合いたいので…」


 クーガは疲れきってはいるが優しい顔を見せる。


「そうですか…ではまた日を改めて」


「えぇ、ありがとうございます」



(ある貴族の屋敷の地下)


 デルーノー何かに憤慨し、獣人族の子供を虐げていた。


「くそ!クソ!糞!屎が!」


 「…」


 子供は既に事切れていた…


「何故だ!?なぜ、アイツなのだ!俺が昇進しないのに!俺の方が地位も財力も全てが私の方が上だというのに!あの猫風情が〜」


 猫風情とはクーガのことである。

 デルーノーとクーガはストデウム学園の同期生で、

デルーノーは四級クラスで、

クーガは三級クラスだ。

 しかしクーガは「勉学もできれば一級クラス」と教師陣から言われていた逸材だ。

 でもデルーノーは勉学は平凡で運動は出来なかった。


 デルーノーは優秀なクーガのことを妬んでいた。


「何故いつもいつもアイツなのだ!!!」


 因みにだがゴルロージ・リバーシュはクーガと同期で一級、

サルジャ・リューズ卿はクーガのニ個上の三級、

ホルク・オーアロー卿はクーガの一個下の三級だ。

 そしてグレンダはクーガは一個下の一級である。


ガチャ


 イカックスが騒がしているデルーノーを見にきた。


「何をやっているのですか?!」


 イカックスがデルーノーの愚行を止めるが、

 デルーノーの怒りを収まることがなかった。


「黙れ!俺様の邪魔をするな!」


「それは大事な実験体です!」


「こんな屑どもいくらでも手に入るだろうが!!」


(「このデブが!貴重な実験体を2体も駄目にしやがって、いくらでも手に入る?!馬鹿がこの国で奴隷は違法で、実験体を手に入れるのに私とあのお方がどれだけ苦労しているか…」)


バタン


 閉め忘れた扉を閉じる、黒いローブの男が現る。


 男の顔はローブのフードが深く被さり誰かはわからない。


「何を騒いだいる?」


 二人はその人物を知っているため、黒ローブの男に跪く。


「これは尊師、申し訳ございません…これは」


 イカックスが説明しようとしたが、

尊師と言われた男は手をあげ、イカックスを止めて部屋を一瞥する。


「はぁ、デルーノー…」


「は、はい!」


「実験体は手に入りにくんだ。大切に扱え。」


 黒ローブの男は現場を見ただけで全てを察した。


 デルーノーは土下座する。


「は、ははあ」


「イカックス、ストレス解消にお前の管理しているクローンを何体かくれてやれ」


「かしこまりました…」

(「尊師は何故こいつに甘いのだ。唯一理解できない…」)


尊師は椅子に座ると二人に話始める。


「君たちに重要な任務を授ける」


 その言葉で二人の雰囲気は一変する。


「「はっ」」


「獣人族の実験だけではいい結果が出ていない…そこでこのリストにある人間を捕え実験体にする。捕らえる方法は問わない…多少荒くなっても構わない」


「「はっ」」


「全ては我らが神の為に…」


 二人は黒ローブの言葉を復唱する。


「「我らが神の為に…」」


(トライーガ邸)


 トライーガ邸でもクーガの陞爵を家族で祝っていた。


 兄妹でクーガを出迎えるが…

 ポーラはいつも以上にホノカにべったりとくっつき、ユーガから隠れている…

 そしてホノカとユーガの距離がある…


「「「父上、おめでとうございます」」」」


「ありがとう。ホノカ、ユーガ、ポーラ」


「父様これを」


 ユーガは3人で作った三つの虎の顔を木彫りしたネックレスを渡す。

一つは立派な虎だが、残り二つは不恰好だ。


「これは…ありがとう」


 クーガは感極まり、涙目になり鼻声で感謝する。

 そのままプレゼントされたネックレスを首にかける。


「ホノカ、ユーガ、暫くは家に居ようと思う…」


 ユーガは嬉しいそうだがホノカは少し不服そうな顔する。


「本当ですか?」


「あぁ…明日は3人で稽古をするぞ」


「はい」「はい!」


(「父上…ポーラともっと一緒にいてってくださいって言えればいいんだけど…」)


 クーガはホノカの気持ちを察してか申し訳なさそうな顔でホノカに話しかける。


「ホノカ…今迄家の事をお前に任せて悪かったな…」


「い、いいえ…」


 ホノカはクーガへの不満を思っていたので急に声をかけられて驚いてしてしまった。


 次にクーガは震える手でポーラを撫でる。


「ポーラ…今迄お前に構ってやれないでごめんな…」


 クーガの言葉にポーラは無邪気に笑顔を見せる。


「だいじょうぶ!おとうしゃまはおしごとがんばってるからポーラもおべきょがんばんなきゃだから!」


 これはホノカがポーラに父親であるクーガを嫌いにならない様に教えていたことである。


 ホノカは二人の様子を見て少しだけ安心する。


 クーガは耐えきれずに泣いてしまう。


「そうか…ありがとう」


「父上、今日は僕らが作った料理があります」

 

 クーガは目頭を抑えてから話した。


「…ありがとう…食事にしよう…」


 トライーガ家の晩餐が始まる。

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