第21話:暗躍

(ホノカ視点)


 今日は久しぶりに貴族同士で行うモンスター狩りだ。


 今回は前回よりさらに二つの家が参加する事になった。


 新しく参加するのはイカクッス男爵家とデルーノー子爵家だ。

 この二つの家のことはよく知らない。

 母上も知らない家らしい。

 でもデルーノー子爵は父上の同級生らしい。


 貴族も沢山あるので、お互い同じ下位貴族だったとしても知らないことはざらにある。


 ペンドラゴン王国の貴族は男爵141家、子爵50家、伯爵19家、辺境伯家1家、侯爵4家、公爵家3家のという内訳だ。


 男爵家の多くは戦争で活躍した家柄だ。

 騎士爵、騎士爵の子、平民、傭兵、はたまた戦奴隷なんて場合もある。それに該当するのが7割ぐらいだ。

 五代前の国王からこういう感じで陞爵しているらしい。


 残りの家は王国建国に貢献した家だ。

 

 トライーガ家、オーアロー家、リューズ家が前者ということは言うまでもない。

 時期は異なるが活躍し召し上げられた貴族だ。

 リバーシュ家は後者で王国建国当時からある由緒正しい家柄だ。


 これ全部マルタが教えてくれた。


 マルタだけど最近家にいない、マルタの親御さんがマルタの結婚相手を探して、お見合いとかをしている。


 俺は嬉しいような嬉しくないようなって感じだ。

 今更違う先生の授業を受けるのは少し嫌だ。


「ホノカ、行くぞ」


 おっと、もう皆んなが集まってみたいだ。


「はい」


 参加貴族も増えたから兵士も大分増えたな。


「久しぶりだな。トライーガ卿」


「リューズ卿、少し痩せたか?」


 少し?頬痩けてるよ?

 気遣ってあげてるのか?


「あぁ、少しな。最近は不作が続いていてな…」


「そうか…備蓄の食料ではあるが分けることはできるぞ」


「安心してくれ我々にも備蓄ならある。ただ領民が食べれないのに我々貴族が腹を満たすのは、示しがつかないだろ?」


「確かにな…でも困ったらいつでも言ってくれ」


「あぁそうさせてもらう…」


 大人達は主に自分の領地の話をしている。

 俺たちはというと…


「久しぶり…ホノカ」


「久しぶり」


 シューナは少し可愛くなった気がする。

 領内が不作みたいだけど、親父さんとは違ってしっかりと食べてるみたいだ。


 なんか雰囲気がツンデレっぽい、もしかして俺のこと好きなった!?…まさかね。


「お、お久しぶりで…す…」


「おう。久しぶり」


 ヴィナタはどうやら初めての人の前だから緊張しているようだ。


「スパルも久しぶり」


「うっす…」


 なんかスパルは今日あったときから目を合わせてくれなかった。

 冷たいというか様子がおかしい…


 後で聞くことにしようかな…?


 こっからははじめての子達で紫色の髪でニキビ顔の少年がデルーノー子爵の長男でニルビ君だ。


「はじめまして、ニルビです」


 んでこっちが前歯がでて、胡散臭そうな少年がイカクッス男爵の長男でスッパ君だ。


「どうも、スッパ・イカクッスです」


「こら!ニルビ!家名を名乗れと言っておいただろうが!愚図め!」


「ご、ごめんなさい…お父様」


 この酷いことを言う超太ったおっさんがウンカ・デルーノー子爵だ。


「まぁまぁ、デルーノー卿。ご子息も緊張されているようですし、目を瞑ってあげましょう」


 このスッパ君と瓜二つのおっさんがハリパ・イカクッス男爵だ。いや息子より胡散臭さがあるな…


「ふむ、確かにな、ニルビ!これ以上、わしに恥をかかせるなよ!」


「はい、お父様…」


 可哀想にこんなデブが親とか…


 挨拶が終わると今回の狩りの説明があった。


 今回は二つのチームに分かれて、競争で狩りをするらしい。


 チームはそれぞれ、

俺、ヴィナタ、ニルビ君のAチームと

シューナ、スパル、スッパ君のBチームだ。


 今回の狩りのの目標はそれぞれ、

Aチームが岩石亀1体と悪犬イービルハウンド3体だ。

Bチームがゴブリン5体と虎1頭だ。


 こちらのAチームの組み合わせは理に適っていた。

 俺の剣士としてアタッカー。ヴィナタは弓と薬で後方支援。ニルビ君は騎士と回復魔法使いでタンク。

 ヴィナタは今回はちゃんと弓と剣持ってきてたようだ。


 あっちのチームは知らないけど、こっちチームの組み合わせは最高だ。


「ヴィナタは今回はちゃんと弓持って来たんだな」


「ちょ、やめてよ…あの後怒られて大変だったんだから…」


 前回ヴィナタは弓を忘れて、俺の即席弓と俺の短剣で戦った。

 この様子だとガッツリ怒られたんだろうな…親父さん怒ったら怖そうだもんな…


「ニルビ君、タンクを任せたいんだけどいいかな?」


「え、うん…」


「嫌だったりしたらちゃんと思ったことは言ってくれよ?」


「うん…わかった」


 んー、あの嫌味な親父さんのせいなのかニルビ君は自分を主張してくれない。

 コミュニケーションを取りにくい…


「んじゃ、ヴィナタは後方支援を頼む」


「わかった。ふー…あ、あ、あのニルビ君、こここれ回復薬…もしよかったららつ使って」


「…ありがとう」


「作れる薬増えたんだな!」


「う、うん。これホノカく…の分」


「ありがと!」


 ヴィナタも成長しているようだ。


「これで作戦も準備も完了したからいこう!」


(森)


 既に悪犬2体は狩り終わって、今は三体目を狩ってる最中だ。


「これ以上は逃がさないよ」


「グルル」


シュッ、スタン


 こいつ勘がいい。

 弓を読んで全矢を避けながら逃げてる。回避系のスキル持ちかもしれない。


 どのスキルにも言えることだけど万能ではない。

 必ず次に使用できるまでのクールタイムがある。


 なのでワザと避けさせる!


「“剣打”…いまだ!ニルビ君!」


「“剣突”」


グサ


「ギャン!」


 剣が腹に刺さり上手く身動きがとれない悪犬に…


「これで終わりだ!“剣撃”」


ズバ


「何回も見てもすごいね…」


 ニルビ君は俺の剣術を見る度に褒めてくれる。


「で、でもホノカは体術もすごいんだよ!ね?ホノカ」


 なんでお前が自慢すんだよ。

 恥ずかしいだろ。


「スキルありけりだからね」


「でも凄いよ!」


 ヴィナタは気づいてないみたいだけどニルビ君がすごい睨んでくるんだよね。

 言いたいことがあったら言えよ!実際言われても困るけどさ…


 でもこれで悪犬は目標に達した。

 残り岩石亀だけだ。


 シューナとスパルは上手くやれてるかな?


(シューナ視点)


 最悪だわ!


 イカクッス家のスッパ、あいつの胡散臭い顔もそうだけど、私の脚や尻を舐め回すように見る目!おっさんかよ!

 気持ち悪いといったらないわ!


 何より弱過ぎる!本当に槍使いか疑いたくなるレベルで弱い。

 最初は

『僕の槍さばきをお見せしますよ。まぁあ、夜の槍さばきにも自信があるんですけどね』

なんて気色の悪いこと言っていたのに、たった一匹のゴブリンと戦っただけで息を切らしてる。

 絶対に碌な訓練をしてない。


 それにスパル君は何故か私を睨んだり、無視したりしている。

 この前モンスター狩りで何かあったの知っているけど…でもモンスターとの戦闘には持ち込まないでほしい。


 体力のない変態、連携のとれない弓使い。

 正直なところ最悪のパーティだ。


「シューナ嬢…はぁはぁ、少し休みませんか?ゴブリンを倒し終わったんだですし、ここで休憩を…」


「何を言っているの?まだ一体しか倒せてないのに3時間以上たってるのよ?」


「休ませてやれよ。疲れて戦力にならないよりは休んで戦えるようにしてもらったほうが」


「その通りですよ!シューナ嬢、ぜぇはぁ…うっぷ」


 さっきからこの調子…スッパが休憩を求めて、私が歩くように促す。

 そしたらスパル君が反対する。

 この悪循環のせいで、出発地点からたった1kmしか進んでいない。

 このままだと目標達成できなくなってしまう。


 せめてゴブリンだけでも達成しておきたい。


「わかったわ…ここで10分だけ休憩してゴブリンを探しましょ」


「わ、わかりました。」


「…」


 はぁ、ホノカと組みたかった…


(20分後)


 やっと見つけたわ…ゴブリンじゃなくて虎だけど。


 虎は動物だけど油断しちゃいけない。

 ゴブリンやオークを殺す個体がいるって聞いたことがあるわ。


 このパーティで勝てるかわ怪しいけど、成果がゴブリン一体なんて嫌だもの!


「スッパ君、私が撹乱するから貴方が槍でダメージを与えて。」


「はぁ、は、はい。」


 信じられない…あれだけ休憩したのにまだ疲れてる…


「スパル君は木に登って弓で援護をお願い」


「ああ」


 今日で一番真面な返事だ。


「じゃあ行くわよ!」


「はいぃ…」「…」


 スパル君の反対側に位置取りができたわ。

 こっちの開けた場所に来させるために…


「投擲!」


「ガウ?!」


「こっちよ!」


「ガウ!」


 物凄い勢いで此方に走ってくる。

 しかも石を警戒してジグザグに来ている。


「“剣打”」


ガキン


 牙で受け止めてられた。

 爪で攻撃される前にナイフで鼻を切り付ける。


「ギャウ!?」


 一旦距離をとり、息を整える。

 スッパはまだなの?


「ガァアアア!」


 避けなきゃ!


ザアアア


 危なかった。スパル君の援護もない…

 これじゃあ実質一人で戦っているようなもの…


 もう彼らの事は戦力に数えるのは辞めよう。


「ガァア!」


 避けながら…右前脚に目掛けて!


「“剣打”」


 脚を攻撃して起動力を奪ってから大技でトドメを刺す!


 幸い虎の攻撃は単調だ。かみつき、かみつきを防御されたらひっかき、木に潜んでのしかかりの3パターン。


 ヴィナタ君に倣ってこの森の動物の生態は覚えられるだけ頭に入れてきた。


「今度は右肩に“剣打”」


「ギャン」


 良いのが入った!こうして右側にダメージを蓄積していき、脚への負担は倍にしていく。


 更に今度は右前脚の爪あたりを狙う。



 シューナの戦いは数十分続いた。


「はぁはぁ、前脚で真面に動けてないわね」


 虎の右前脚は爪が数本剥がれ、骨がはみ出ている。

 10歳未満の女子の筋力では数十発打ち込んでやっと骨にダメージを与えられる。


 虎も伏兵に気づいているため逃げれないでいたのが功を奏して、ここまでのダメージを稼ぐことができた。


「これで…」


シュウゥー


「!?」ドン!


 シューナがトドメを刺そうとした瞬間に虎に火球が直撃する。


「アツ…これはスパル君?!なんでこのタイミングで…」


 スパルは地に降り、数メートルの距離まで虎に近づき、絶対に当たる距離で、ファイヤボールを詠唱し、最悪のタイミングで発射した。

 虎と集中して死闘をしていたシューナは勿論、虎も気づくことができなかった。


「グ、グルル」


(「まだ息がある!」)


ギロ


(「まずい!注意があっちに!」)


「でぇああ、“剣爪”」


 シューナの斬撃が虎を斬り裂き、絶命させる。


「はぁはぁ、倒した…」


パチパチ


「や〜あ〜、お見事でした。シューナ嬢!流石は水剣の名家で知られるリューズ家で唯一の女性剣士。実に実にお見事でした!」


「あなたなんで戦わなかったの!?」


「いや〜、虎と戦うシューナ嬢に見惚れてしまい戦うのを忘れてしまったのです。」


「ふざけないで!」


「ふざけていないですよ?虎と一騎討ちをしているようで邪魔出来なかったんですよ」


「そんな事より、もう時間がない。帰ろう」


 スパルは気怠るそうに話を区切ろうとする。


「そんな事ですって?!あなたもなんであんな危ないタイミングでファイヤボールを打ったの?あのタイミングじゃ私も巻き込まれるってわかっていたでしょ!?」


「はぁ、手柄をそんなに独り占めしたかったの?」


「なんですって!?」


「まぁまぁ、落ち着いてください。ここはまだ森の中なんですから、そう騒いでしまうとモンスターが寄ってきてしまいますよ?」


「ッツ…」


 スッパの不意の正論にシューナは唇を噛み締めることしかできなかった。

 そのままスッパはシューナに不気味な笑みを向ける。


「では戻りましょうか」


「そうしよう」


「…(このチームとは二度と組まない)」




 既にホノカ達Aチームは集まっていたがシューナ達Bチームは集合時間が過ぎてから戻ってきた。


 ホノカはシューナ達を心配する。


「遅かったな。大丈夫か…ん?その袖どうしたんだ?焼けてるぞ」


「えぇ…これは…」


「いや〜、遅くなって申し訳ございません!やはり女性がおりますと進むペースが遅くなってしまいました。」


「ちょっ…」


「みな、よく戻った」


 シューナが否定しようとしたが、ホルクに丁度遮られてしまった。

 するとゴルロージは優しい顔で労い、子供達に狩りの報告を求めた。


「子ども達よ、ご苦労だった、疲れているろころ悪いが成果はどうなったか報告してくれ」


「僕たちAチームは無事、目標を達成することができました」


「では討伐証明の提出をこちらへ」


「は!」


 兵士達が荷台でモンスターの死体を運んできた。


ゴトゴト


「うむ。見事だ」


 討伐証明はここまでしなくて良いが、また以前のようなことが起きても兵士同士で連携できるように、

新しく兵士達にモンスターの死体その物を運ぶことになった。


「ではBチーム」


「はぃ…」


「はい!我々は残念ながら目標を達成させることができませんでした。虎一頭とゴブリン1体です。」


 シューナが説明しようとするがスッパに阻まれてしまう。


「そうかそれは残念だったな、討伐証明を!」


「は!」


ゴトゴト


「うん。目標の達成まであと一歩だったな。次回は達成出来る様に訓練に励みなさい」


「「「はい」」…」


 シューナだけは歯切れの悪い返事をしてしまう。


「では両チーム今回の良かった点、悪かった点をあげなさい」

 

 ゴルロージが子供達の分析能力を確かめるため反省会を始める。


 まずはホノカ達Aチームが答える。


「はい。Aチームは僕がアタッカー、ニルビ君がタンク、ヴィナタが後方支援とバランスがとれたチームでした、それが良かった点です。悪かった点は…それぞれアタッカーとタンクをできる職業だったので交代して、臨機応変に戦えるように狩りをすればよかったと思います。」


 ホノカは悪い点を本当は思いつかなかったが、元の世界の癖が出てしまった。


「ぼ、僕は…よ良かった点はホノカとお、同じです。悪かった点はホノカに…指示を負けせてばかりで自分で考えなかったことです…」


 ヴィナタは相変わらず知らない人の前だとちゃんとしゃべれないでいる。


「僕もホノカ君やヴィナタ君と同じでそれぞれにあった役割ができたことが良かったと思います。悪かった点はホノカ君のおかげで無かったと思います」


 ニルビは貴族の大人達の前ではしっかりとハキハキと話す。


「よく分析できてるな。次回は悪かった点をいかせるように頑張るんだぞ」


「「「はい」」」


「ではBチーム」


「は…」「はい!」


 スッパはシューナが話そうするのを再び妨げる。


「我々Bチームの良かった点は、皆んで連携して攻撃をすることによって討伐時間を短くすることができました。悪かった点はシューナ嬢が功を焦って、単独行動が目立った点です。」


「なんですって!?」


 シューナはスッパの嘘に思わず声を荒げてします。


 サルジャ含め大人達はシューナの興奮した姿に驚いてしまっていた。


「なんですか?」


 スッパは惚けた顔でシューナを煽る。


「なんですかじゃないわよ!貴方が嘘の報告なんてするかでしょ!?」


「嘘の報告?嘘とは一旦なんのことですかな?」


「報告全部に決まってるでしょ!?」


 シューナはあまりの怒りに冷静な判断と会話ができていない。


「そんな事ないですよね?スパル君」


「う、うん」


 スパルは少し戸惑ったような素振りはするが嘘をついてしまう。


「そんなスパル君、貴方まで!」


「シューナ嬢、さっき言ったではないですか。ここはまだ森なのですよ。大声を出してモンスターや動物が来てしまいますよ?」


「ッツ!」


 シューナは再びスッパの言葉に対して反論することが出来ずにいた。


 そして大人達はスッパに怪訝な顔を向けるが、まだ何も口にしない。


「まぁ、解りますよ。目標達成できなかったのは私も悔しかったですから。次回は落ち着いて狩りができるようにしましょう」


「お前嘘ついてるだろ」


「え?」


 そこで声を発したのは、虎とゴブリンの討伐証明を見ていたホノカだ。


「それは僕達が嘘ついてをついているとでも?それよりいくら貴族の子息同士とはいえ…」


「お前さっき連携してやった言ってたけど、このゴブリンには矢と剣の跡しかない。こっちの虎には剣の跡しかない。お前の武器、槍だよな?」


 スッパがシューナに対してやったことをホノカがやり返す。


「な、何を言うかと思えばそれは私がタンクとして槍で牽制して…」


「傷を与えずにどうやって注意を惹きつけるんだ?」


「そ、それは…スパル君の火球で消えてしまっただけで…」


 スッパはホノカに気圧されて、言葉が辿々しくなってきた。


「火球で消えるような傷なら与えてないとのと一緒だろ。そしてシューナの袖が燃えてるのでわかったよ。スパルお前、最悪のタイミングに火球を打ったんだな」


「そ、それはシューナ嬢が勝手に…」


 不意に声をかけられ、ここでスパルは再び取り返しのつかない嘘をついてしまう。


「それならお前なら弓で牽制ができるはずなのに火球で最悪のときに打つ理由を教えてくれよ?」


 ホノカは二人に詰め寄る。

 ホノカの目は冷たく光がない。


「あ…う」


 スパルは言葉に詰まり、唾を呑むことしかできなかった。


「お前らは連携したと言っていたが、お前らまともに戦ってなかったんだろ?

服の解れ具合から考えて、シューナ嬢が9割、スパルが1割って感じか?」


「ち、違…」


バシ


 スパルは否定しようとするが、父親であるホルクに平手打ちを喰らう。


「スパル……今ホノカ君が述べた見解は本当なのか?」


 眉間に皺寄せが自身の息子を問いただす。


「ち、ち…は…はい」


 父親の顔を見たスパルは嘘を吐く気力を無くしてしまった。

 本来スパルは嘘を吐くことが嫌いだった。

 しかし、大好きだった従兄の死、それに関わっているかもしれない貴族とその子息、スッパによる唆し、8歳の男の子が正しい判断をさせるのは不可能だ。


「馬鹿者が!!!!!」


「落ち着いてください。オーアロー卿。貴殿のご子息を怒りたい気持ちは納得ここは一度冷静になってください。」


 我が子を殴ろうとするホルクをハリパが止める。


「ホノカ君、中々の慧眼見事だったよ。しかし子供同士とはいえお前呼ばわりするのはいただけないね」


 ハリパの言葉にホノカの目は余計冷たくなる。


「?、他人の子供の過ちを正すより先に自身の子供の過ちを正されてわ?」


「な、あ」


 ハリパは予想した答えとは違い困惑してしまう。


「ペンドラゴン王国法 

第22条 上位の立場にある者に虚偽の報告してはいけない。

第40条 貴族、平民を問わず、狩猟の邪魔、横領はしてはいけない。

つまりイカックス卿、貴方のご子息は紛れもない犯罪者なんですよ」


「うっく…」


 ハリパは法律を上げたれ言い淀んでしまった。

 さらにホノカの漆黒の瞳に恐怖した。


「イカックス卿、ホノカ君の言うとおりですよ。

シューナ嬢に謝罪もせずに正そうとしているホノカ君を叱るとは貴族としてい…いえ大人として間違っていますよ」


 サルジャはハリパの自身は関係のないような口振りに憤慨していた。


「し、失礼しました。シューナ嬢、我が息子がご迷惑をかけてしまい大変申し訳ございません…正式な謝罪は又後日に…私は息子と大事な話があるので、今日はこれで…」


 早口で逃げるように帰っていく。


「シューナ嬢、リューズ卿、息子がしてしまったことどう詫びたら…はぁ、申し訳ない…」


 頭に血が上りすぎて、真面な謝罪はできていないがホルクは深く頭を下げ謝罪した。


「…あぁ…」


 今度はサルジャが疑念を抱いてしまう。

 ホルクが息子に娘を消しかけたのではないかという疑念がサルジャの頭を埋め尽くしていた。


「息子とこれからのことを話をしたい…すまないが帰らせてもらう…」


 狩りはこの前の件以上に…もはやお通夜状態になってしまった。


(ある貴族の屋敷の地下)


「申し訳ございません。デルーノー様」


 ハリパはウンカに謝罪していた。


「失敗したな…」


「ええ…リューズ家の娘は激情型と聴いておりましたので狩りの邪魔をすれば手を出し、問題になると思ったのですが、中々上手くいかなかったようで…」


「言い訳いい!この前も奴が失敗してお前に任せたのに…ちっ…あの複製体はどうなっているのだ?」


(「言い訳?お前が考えた作戦だろ…私があれだけ再考をしたのに…」)


「はい…処分しております」


 スッパは普通の人間ではない。

 ハリパの遺伝子から創り出したクローンである。


「そうか…失敗作の痕跡を残すなよ」


(「失敗作にしたのはお前だ。私が思考設定していたら、あぁはなっていない」)


 ハリパはこう見えて、真摯な紳士だ。

 スッパの思考回路は不慣れなウンカが設定したものだ。


「承知しております」


(「あのお方に頂いた知識と技術をこのようなことに使うとはこのデブには呆れる」)


 ハリパは顔には出さないがウンカのことを嫌悪していた。


「あいつらを突き落とすのはまだ機会がある。次は失敗するなよ」


「かしこまりました」


(「あの方は何故コイツに肩入れをするのだ?この馬鹿を…」)

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