第8話:不安

(ホノカ視点)


 昨日の迷宮の件以降、落ち込み過ぎて飯を食わなかったからきょうの朝飯は俺だけ豪勢になっていた。


 申し訳ない…


「ホノカよ、お前に魔法を教えてやろう本当は「就の儀」で職業を選んでからの方がいいんだが…」


 「就の儀」てのはこの世界で行われる子供がやる就職の儀式らしい。

 ゲームでは最初に種族を選ぶときに一緒に選べて、あとは有料で神殿で変更したりする。メンバーや知り合いに神官系の職業が入れば無料かつ自由に出来る。


「お前は優秀だし、もしかしたら魔法スキルを習得できるかもしれないぞ?

今までお前に見せてなかったからな見るだけでも楽しいぞ?」


 父上達は飯だけじゃなく、俺を喜ばせようと心のケアまで…ありがとう、父上。


「はい。是非覚えたいです」


「そうか、じゃあ着替えてきなさい。私は訓練場で待ってるぞ」


「わかりました」


 申し訳ない。俺のせいで父上にあんな顔させてしまった。


 魔法を使うため、母上にモンスターの特別な革鎧を着ていたら遅くなってしまった。


炎虎の子供用革鎧(胴)

レア度 団長級シルバークラス

耐久力 500

重さ 50

効果 炎耐性Lv.50


 ぶかぶかで、少しカビ臭い…


 それでもこれはトライーガ家の子供が訓練のときに着てきた革鎧だって母上に教えてもらった。


 そういえば着せてくれた母上の顔はいつも以上に優しかったな…


「お待たせしました。父上」


 俺が謝ると父上は膝をつき、悲しそうな顔を俺に向ける。


「…ホノカよ。私達の期待がお前の負担になっているのか?」


「いいえ!違います…あの、その…」

 

 何て言えばいい!?

 ダンジョン行ったらモンスターがゲームと違って馬鹿弱くて悲しんでいますって!?! 

 言えねー…


 俺が言い訳を考えていると、父上が俺を優しく抱きしめた。


「すまんな。不甲斐ない父で、辛い思いをしたらいつでも私に言いなさい。辛かったらやめてもいいんだ。我慢してお前が壊れしまうほうが私は…私達は嫌だ…」


 さらに強く抱きしめてくる父上に嬉しさと申し訳なさで胸がいっぱいになる。


「さぁあ、気を取り直して魔法の練習だ」


 父上は少し涙目で鼻声にもなっていた。


「はい!」


 この人が俺の父親で本当によかった…


「まず、自身の魔力を感じ取るんだ」


 どうやらこの世界ではゲームと違いEP、エネルギーには色々な呼称があるらしい、魔力、マナ、気、チャクラ、龍脈、神力と国、文化で呼び方が変わるらしい。

 これ全部、変態教師に聞いた。


「はい…」


「どうだ…感じとれたか?」


「わかりません」


 これに関してマジで分からん。

 いや、普通に法術は使えるんだけどね。


「最初はそんなもんだ。よし!まず私の魔法見せて上げよう。」


「ふー…我が力よ、火を玉にせよ。 炎魔法 ファイヤーボール」


 父上は的に炎の玉を放つ。


ドン


「これが初級魔法でこれはスキルが無くてもできる魔法だ、やってみなさい。」


 お!それは初めて知った。

 この世界だとスキルが無くても魔法が使えるのか、便利だな。

 「ミソクリ」だと本を朗読しないと習得できないのに。


「はい。我が力よ、火を玉にせよ。炎魔法 ファイヤーボール」


ドン


 よし、完璧だ。

 的も無事だし、被害ゼロだ。


「どうですか?父上、僕もできましたよ!」


「…」


 あれ?口あけてパクパクしてる。


「グレンダーーー!!!!」


 あれ?走って家の中に行っちゃた。


「えーーー!?!?!!!」


 お、母上が驚いてる。屋敷から叫び声が聞こえる。

 ん?父上と同じ大きさのファイヤーボールに抑えたし、威力も弱体化魔法で軽減出来てたから問題ないと思ったけど…


ドドドドドド

 

 何だ?何だ?母上か?


「ホノカ!ホノカ!ホノカ!!!」


 母上が俺の名前を連呼しながら走ってきた。

 産まれたばかりの弟を抱っこして。


 そう!なんと弟が無事産まれたのだ。  

 母子共に健康で喜ばれしい限りだ。


 じゃない!母上よ、産まれたばかりの赤ちゃんをそんなスピードで連れて走るな。


 そんな状況で爆睡してる弟は将来大物になるな。

 おっと、もう兄バカを発揮してしまったな。


 弟の名前がユーガだ。

 トライーガ家は代々、長男は炎に関連した名前になり、下の子達は◯◯ガとなるようだ。


「ホノカ!魔法mガッはkはっポッポ」


「は、母上どうしたんですか?」


 何言ってるかわからないよ!


「どうしたってホノカ、魔法が使えるの?」


 顔がめっちゃ近い、美人だから恥ずかしいよ…


「は、はい」


「ホノカ分かってないわ。それができるのは勇者とか、後に剣聖や賢者になったもの達だけなのよ!!!」


「え、でも父上はスキルが無くてもできるって…」


「それはお前が元気なくて魔法を見て元気になってもらいたくてな、実際できるなんて思ってなかったぞ!!!」


「そうですよ!ホノカ様。たしかに魔法は魔力があれば使えますが、“就の儀”をしない状態だとスキルを習得は基本できないですよ!!!」


 いつ間にか変態家庭教師が増えてる。


 これ異世界あるある「あれ?俺やっちゃいました?」か!?

 アニメ見てたときは普通わかるだろ(笑)とか思ってたけど分からん。

 その世界の歴史とか常識を知っていない。

 いやちゃんと勉強してたよ?

 でも魔法なんてまだ勉強してないよ!

 これが起こるとは…予想出来なかった。

 もっと勉強しよう…


 あれから3人に質問攻めをされ1時間くらいでやっと落ち着いた。


 疲れるって…


(クーガ視点)

 これは困った事態になってしまった…


 優秀な我が子は我々の予想を越えるほど優秀なようだ。


 ご先祖様の力か…おふくろの血か…

 血縁的に思い当たる節はある。

 

 ホノカはもしかしたら魔剣士になるのかもしれない…


「マルタ、この事は内密で頼む、「就の儀」が終えたとしてもだ」


「もちろんです。この事を知られたら王都は兎も角、第一公都のブロン公爵の耳に入れば、幼いうち従軍のうえ、最悪実験体の可能もありえますから」


「ゼルーダ家である君の口からその話が出るってことはあの噂は本当だったのか…」


「噂?」


 グレンダが不安な顔を向けてくる。

 君には聞かせたくなかったが…

 これは知っておかないとな…


「あぁ、ブロン公爵はこの王国の魔法研究の第一人者でその功績と領地の発展により、元は第三公都だったのが第一公都へと上がった。しかし、その影には他種族は勿論、人族の多くの屍によって作られたという噂があるんだ…」


「そんな嘘でしょ?だって人を…」


 嘘だったらどれだけ良かったことか。


 ホノカを賢い…私達の態度で気づいてしまうだろう…

 だから不安にさせたくない。


「魔法のことは私が話をしておく」


「畏まりした」


「…何故うちの子に」ポロ…ポロポロ


「まだそうなると決まったわけでない。そうならないように私達があの子を…ホノカを守っていこう」


「…えぇ…そうね…」グス



(ホノカ視点)

 えーーーー!


 母上に弟の世話を頼まれ、別室に移動させられ気になって、“聞い耳”スキルを使って聞いてしまった。


 こんな大事になるなんて…しかも母上を泣かせてしまった。


 父上よ、心配ごとを増やさせてしまって申し訳ない…


「あう〜」


「ごめんな…こんな兄ちゃんで…」


「キャッキャ」


 なんて可愛い弟なのだろう…


 駄目だ!


パチン


 悲しいこと続きでマイナス思考になっていた。

 家族を悲しませないように俺が努力をすれば良いんだ!

 だって俺は「ミソクリ」の力を持ったまま転生したんだ!


 家族は俺が守っていく!


 「就の儀」まで俺は手加減を完璧にして、トライーガ家の恥にならない程度の普通に強い子になってみせる!


「アミュミュ」


 おい、弟よ、カッコつけてるのに俺の手をしゃぶらないでくれ。

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