ep.19臼井 鉄平③

一ノ瀬は誰かと一緒に戦うのは初めてだった。


うまく連携できるかわからないしもしかしたら臼井の邪魔をしてしまうかもしれない。


戦う前まではそう思っていたがいざ戦闘が始まるとそんな心配は全くいらなかったと思い知る。


臼井と一ノ瀬の接近に気が付いた雷双蛇は、目が覚めるや否やその巨大な尾を薙ぎ払うように横から叩きつけてきた。


物凄い速度で迫ってくる尻尾を……



「ふう、やっぱタンクは専門外だよ。二歩も下がっちゃったじゃないか。」



臼井はメルトブレスレットを円形の盾に変形させることで受け止める。


そして次の瞬間、臼井は盾メルトブレスレットを再び変形させ……



「それ!」



先端にアンカーのついたワイヤーを創り出し、それを一瞬で尻尾に巻きつけアンカーを地面に深く突き刺す。


雷双蛇の尻尾はワイヤーによって完全に固定されていた。


そして……



「今だ一ノ瀬くん!」



「はい!」



臼井の掛け声に合わせて飛び出した一ノ瀬は、ワイヤーによって固定された尻尾目掛けて刀を振り下ろす。


肉体強化魔法で威力の増した斬撃は雷双蛇の体を簡単に切り裂く。


赤い血しぶきを上げながら雷双蛇の尻尾は一太刀で切り落とされた。



「ひゅう!やるじゃあねえか!」



と言いと臼井は再びメルトブレスレットの形状を円形盾に戻す。


雷双蛇は尻尾を切り落とされた痛みで悶えていたが、このままでは殺されると思ったのかすぐに戦闘体制に入りとぐろを巻いた。


尻尾を斬ったといっても雷双蛇が失ったのは先っぽの一部だけなので戦闘力にそこまでの影響はなさそうだ。


雷双蛇は直接尻尾を斬った一ノ瀬を警戒し、先に一ノ瀬に牙を向ける。


厄介な相手は先につぶしておこうと言う考えなのだろう。


大きな口を開けながら右と左から二つの頭が迫りくる。しかし……



「おいおい、蛇ちゃん。俺のことは無視かい?」



一ノ瀬と蛇の間に臼井が割って入り蛇の攻撃を受け止める。


今度は円形だった盾を大きく横にも広げて、更に盾の下の部分を槍のように変形させ地面に盾を突き刺す。


大きく広がった盾は左右両方から攻撃を完全に受け止めた。


雷双蛇は二回も攻撃を受け止められ困惑する、そしてその隙を一ノ瀬は見逃さない、即座に右の首に斬りかかる。


一ノ瀬は首を切り落とすつもり刀を振ったのだが、雷双蛇の回避速度が予想以上に早かったので完全に斬り落とすことは出来なかった。


しかし、それでも雷双蛇に負わせた傷は深く、雷双蛇の右の首からは大量の血が流れる。


一ノ瀬はこれまでの二回の攻防の中、臼井との連携の取りやすさに驚いていた。


一ノ瀬の基本的な戦闘スタイルは何度も死にながら相手の行動パターンを学習し攻略法を見出すといったものだ。


経験が少ないという一ノ瀬の弱点を不老不死という強みで補うこの戦術には大きな弱点が一つある。


それは攻略法を見出すまでひたすらに死ななければならないということだ。


いくら不老不死の力持つとは言ってもそれは決して楽なことではなかった。


雷双蛇との戦闘においてももし一人で挑んでいたら何度か死んでいたはずだ。


実際、これまでに雷双蛇が繰り出した攻撃、尻尾による薙ぎ払いや二つの頭による左右の挟み撃ちも初見ではなかなか回避が難しい。


しかし臼井はそれらの攻撃を完璧に受け止めた上で、受け止めた後は一ノ瀬の攻撃の邪魔にならないように雷双蛇の動きを制限することに徹している。


臼井が防御に専念しながら同時に隙も作ってくれているお陰で、一ノ瀬は攻撃だけに専念することができている。


結果、一人で戦っている時に比べてかなり楽に戦えた。



『この男……言動はおかしいけど戦闘に関しちゃそこそこ悪くないわね。』



臼井のことを苦手としているイシスでも認めざるを得ない程、臼井の戦い方は上手かった。


それからは臼井が崩して一ノ瀬が斬る、という連携を繰り返しどんどん雷双蛇にダメージを与えていった。


気が付けば雷双蛇の右の首は完全に切り落とされ、左の首も傷を負っている。


胴体にも沢山のダメージを負っており満身創痍と言った感じだ。


どんな攻撃をしても常に対応する臼井と、それに合わせて反撃し続ける一ノ瀬に恐れを抱いたのか、とうとう雷双蛇はその場から逃げ出そうとした。


尻尾を地面に叩きつけ辺り一面に土煙を巻き上げる、そしてすぐさまその巨体を蛇行させながら茂みの奥に逃げようとする。


しかし……



「イシス!終えるか!?」



『もちろんよ!斜め右の草むらがある方向に逃げたわ!』



どれだけ土煙を立てて視界を奪おうにもこちらにはイシスがいるのだ。


魔力探知を通して地下層からダンジョン全体を覗き見てきたイシスにとって、目の前で逃げる雷双蛇の捜索など何も難しくない。


一ノ瀬はイシスの指示に従って煙の中を走り、そして直ぐに雷双蛇の体を視界にとらえた。


そして……



「これでトドメだ!」



一ノ瀬は雷双蛇の背面目掛けて高く飛び上がり、そのまま落下速度を刀に乗せて雷双蛇の左の脳天を突き刺した。


雷双蛇は脳を刺されてからもしばらくの間激しく藻掻いたが、直ぐに力尽きて動かなくなった。



「おっ!もう仕留めてるじゃねーか!よくあの土煙の中、見失わなかったな!」



土煙がある程度収まったタイミングで臼井も一ノ瀬に追い付き合流した。そして……



「さてと、無事に獲物の仕入れも終わったことだし……楽しい料理の時間と行こうぜ!」



臼井は相変わらずのでかい声で叫び……



「はい!今すぐにでもやりましょう!!!」



お腹が空いて仕方がない一ノ瀬はこれまでで一番大きな声で返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る