第八話 新たな仕事(後編)

来た!ついに来た!客だ!

もう来ないだろうと、店を出ようとしていた時にやっときた!

入り口には、いかにもJKって感じの女子五人組が立っている。

俺は笑顔で言った。


「いらっしゃいませ!何をお探しでしょうか?」


五人の女子の中にいる、茶髪でギターを担いでいる女の子が言ってきた。


「私たち今度ライブがあるんですけど、今のギターがもう古くなっちゃったんで、買い替えようと思って…」


ほう、バンドをしているのか…俺も昔してみたかったな。

そんな昔の記憶が蘇り、なんとなく、こんなことを聞いてみた。


「ちなみに、君たちのバンド名は何ていうんだ?」


そういうと、ギターの女の子が元気そうに言った。




「「「「「放課◯ティータイムです!」」」」」




おい普通にダメだろまじで。このバンド名がこんな物騒に聞こえたの初めてやぞ。

それを聞いたピアノを弾いてそうな女の子が言う。


「違うよ!もうそれは昔の話!今の流行はやっぱこっちだって言って改名したじゃん!」


「あ、そうだったね!」


五人で息をあわせて、今度はそれぞれポーズをとり、大きな声で言った。




「「「「「結◯バンドです!」」」」」




おいなんつーこと言ってくれてんだよお前ら「け◯おん」にクソ失礼だぞ。名作だからな!しかも結◯バンドなら五人目どっから湧いてきたんだよ役割ないだろお前。

そんな中、ランパードが言った。


「ちなみに君たち、どこからきたの?」


「もちろん、下北沢に決まっt」


「ここ愛知ですけど?」


そうリエルが食い気味にツッコミを入れた。

それに乗っかるように俺も言った。


「そうだぞ!なんで君たちわざわざこんな遠いとこまできたの!そっちは御茶ノ水があるだろ御茶ノ水が!」


「そんなのは今はどうでもいいでしょう!」


ベースを持っている女の子が少し焦ったように言ってきた。なんとなくだが、メイド服とか着せてみたいもんだ…

そして俺はふと、思ったことを口にする。


「あ、てか君たちバンドしてるならオリジナル曲とかあるの?」


ピアノを弾いてそうな女の子が言ってくる。


「オリジナル曲はないわね」


ないんかい。もうそこまできたなら「GO GO M◯NIAC」とか「星座に◯れたら」とかまでパクっとけよ。

またピアノを弾いてそうな女の子が言ってくる。もういちいちめんどくさいしむぎちゃんでいいや。


「あ!意外かもだけど、楽曲のカバーは結構するわよね!」


バンドでオリ曲しないなら楽曲カバー以外なんがあるんだよ。意外性のかけらもないわ。

ずっと口を瞑っていた接客としてあるまじきフェミエルが口を開いた。


「ちなみになんの楽曲のカバーをしてらっしゃるんでしょうか?」


そのフェミエルの質問に、ドラム叩いてそうな女の子が返答してくる。こいつもめんどくさいし、こいつは下北沢の大天使と名付けるとしよう。


「カバーしてる曲かぁ…、あ!マキシマム◯ホルモンとか!」


はいでた年齢と言ってることが明らかに釣りあってないシリーズ。最近流行ってるのそういうの。てかデスボとかあるから絶対歌えねぇだろ。喉長◯力みたいになるぞ。

痺れを切らした俺が女子に向かって言った。


「まぁなんでもいいわ。とりあえずロック系弾くだろうし、無難にSGとかでいいんじゃないのか?」


「いや、やっぱり同じレス◯ールがいいです。」


まぁそうだよな。SGにしたら長門◯希とキャラ被るもんな。

そう思っていると、ずっと後ろで手を組んでいたフェミエルが口を開けて言った。


「レス◯ールなら、あちらにたくさん置いてありますよ!」


フェミエルはピンっと背をはっていて、レス◯ールが置いてある方に手を向け、まさに接客のお姉さんみたいな声で言った。

すげぇな!いつの間にこんな上品になったんだ!


レス◯ールの目の前にきて、ギターの女の…ゆいちゃんがケースからギターを出し、またもやフェミエルが上品に言う。


「これと同じ商品は…あ!これですね。試奏とかしてみます?」


「はい!ぜひ!」


「わかりました。しばらくお待ちください。」


俺がそう言うと、俺とフェミエルでそのギターをアンプに繋ぎ、軽くチューニングをし、ゆいちゃんにギターを渡した。

自信なさげに、ゆいちゃんが言ってくる。


「普通はアコギで弾く曲ですので、ちょっと違和感あると思いますが…」


そう言うとギターを構え、ネックに指を添えて、ゆっくりと引き出した。


♫〜〜


弾いているのはEric ClaptoのTears in Heavenだ。

これまた渋い曲を選曲しましたな。

「そこはマキシマム◯ホルモンとか弾けや」とツッコミたくなったが、そんな野暮なことはしない。

でも普通にうまいな。無駄な弦は一切なってないし、音もしっかりと出ている。本当に、バンド名さえ除けば結構いいバンドになりそうだけどな。

曲も終わり、みんながパチパチと拍手をした。


「君たち結構うまいんだね。君たちの演奏、聴きたくなってきたよ」


これは、紛れもない本心だった。

昔こんなふうになりたいという存在が目の前にいる。でも俺はこのような存在にはなれなかったた。

そんな昔のことを思い出し、少しばかり寂しくなる。

そんなことも知らずに下北沢の大天使が俺に元気な声で言ってくる。


「本当!やったー!ねぇ!今の演奏聴いて、興味持ってくれたんだって!あ、いつもここでライブしてるんで、よかったらきてください!」


そう言って俺にチラシを渡してきた。

…いや愛知でやってるじゃねぇか何が下北沢だよ。

そんな中、もう一人のギターの子がゆいちゃんに言った。


「で、どうするんですか先輩?買うんですか?買わないんですか?」


ゆいちゃんはギターをフェミエルに渡して腕を組み、下を向いて考えた。


「…まぁ、せっかくここまできたしね。よし、このギター買います。」


「「まいどありー!」」


_入り口_


会計を済ませた五人組は入り口にたち、ゆいちゃんがこっちを振り向いて俺たちに言った。


「今日はありがとうございました!ぜひライブきてください!」


「おう、わかった!」


俺はそう言うと、話しながら歩いていく五人を後ろから見ながら、みんなに言った。


「よし。今日は客も来たことだし、早めに切り上げてお祝いでもするか!」


「「「賛成!」」」


そう言ってみんなで車に乗って家まで向かった。

これからお世話になるであろう楽器屋さんに太陽の光が当たっている。

今日はなんとなく、充実した一日になったように思う。








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