ゲームのラスボスである呪術師になるはずの勇者の幼馴染に転生してしまった。〜「よし、無双までは行かなくても、人生を謳歌したい!」と願えども、無双してしまうのは世の常である〜

セカイノ/ネコノカンリニン

序章

Story.00―――死亡原因・コレステロール

 魔王討伐書第七巻執筆時―――星暦1370年、魔王城にて。

 この年、人類で初めての「機械に頼らない人間の力のみでの魔族討伐」がなされた。それは、後の世で“勇者”と呼ばれる少女が成し遂げた出来事であった。


「剣技『聖夜華咲夜ホーリー・フラワー』! セイヤァッ!」

「何するかと思えば、その程度の攻撃か? 下らぬ。技を選ぶべきだったな。我が命に集え、下僕共よ。―――『邪道魔術・哀しき奴隷サッド・スレイブ』」


 魔王の繰り出した技―――魔術というのは、この世界に存在する魔素が通常の原子核の素粒子と入れ替わり、発生する魔力を操り、様々な術を繰り出す技法のことだ。通常、人間には扱えないのだが、稀に扱える人間が存在する。その者たちを、“魔人”または“魔女”と呼ぶ。

 そして、この勇者パーティーにも一人、魔女が居た。


「チッ、やるじゃあねえか。ならば、私も行かせてもらうぜ! 『神聖魔術・旧き神聖なる光エルダー・シャイン』! 穿け、聖なる光よ」

「なるほど……負属性の象徴たる魔族である我らにとって、正属性はとても大きな一手になるだろう。しかし、まだ下らぬ。そのような脆弱な神聖魔術、我には通じぬ。たかが魔女が、聖女の真似事をするか。そなたらの得意な邪道魔術を使えば良い。そうすれば、今よりも多いダメージが与えれたはずだ」


 魔術には、いくつかの系統がある。

 一番有名なのが、負属性魔術。これは、魔素がそもそもの話、マイナスの性質を持つので、素粒子のどれか一つだけが魔素に変わると、マイナス―――つまり負になるということだ。

 そして、その次に有名なのが正属性魔術。低確率で起こる魔素の偶数変換。こうなることで、魔力がプラスの性質を持ち、それが、神の奇跡を起こすのだ。

 この、正属性魔術を簡単に起こせるのが“聖女”と呼ばれる国に一人ぐらいしか居ない特別称号である。

 しかし、このパーティーには聖女が居ない。だが、魔女を侮るなかれ。魔女というのは、優れたものになると、魔力だけでは飽き足らず、魔素すらも操ろうとする。その、魔素を操った先が“魔神”と呼ばれる魔術を扱った神に等しい存在である。

 その、魔神なのだ。このパーティーの魔女は。


「聖女じゃなくても、やれるんだよ。神聖魔術は! 私は魔神だからな。魔素にならいくらでも干渉できる。もういっちょ! 『神聖魔術・空亡ホーリー・サンシャイン』! 終わらせよ、この無意味なる行進パレードを」

「そう来るか、魔神め。だが、それでは我は弱まるだけだ。死にはしない」

「元々、私が殺す気はねえ! 殺すのはアイツだ、殺れ! 英雄! 」

「ああ! 任せておけ! 」


 人類に仇なす存在を消す者―――それが“英雄”と呼ばれる存在であり、人類の守護者。大国にしか居ないという欠点はあるが、数に限りはない。しかも、英雄は、全ての剣技を覚えれるという『剣舞の加護』が与えられる。


(私は、ここで奴を殺す。人類に仇なす者を消すのが、英雄の仕事だ。ならば、最後は手向けの花として私が『退魔』と呼ばれている所以を見せてやろう。志半ばで倒れた師匠のためにも、私が一番最初に習得した剣技を! )

「剣技『退魔の剣“悪魔祓い”エクソシスト』! はあああああああ! 」

「なにィ! それは、退魔の剣! なぜここにぃぃぃ! ぎやあああああ! 」

(いや、まだだ。まだ我は死なぬ。そうだ、異能を使えばまだ行ける! )

「残念だったな、退魔! 異能『ベルゼブブ』! 喰らえ、その全てを! ……」

(いや、なぜ我―――いや、私は人類の英雄などを足止めしている? そもそもの話、私は神だったはず……名前は……そうだ、私の名前はバアル・ゼブル。なぜそのようなことを忘れていた! 魔王ベルゼブブなど、私が堕天したときの恥ずべき名前ではないか! やめろ、その異能を早く解除せよ! )


 魔王ベルゼブブ―――もとい“高貴なる館の主人”バアル・ゼブル。彼は、神から天使へと堕ち、更に魔王へと堕ちたが、その天命もここで尽きる。恥の多い人生から脱却することができるのだ。


「はぁ……はぁ……やったか? 」

「ああ、終わった。魔王は今にも死にそうだ」

「……英雄、名は、なんと、言う……? 」


 バアルは死ぬ直前でも相手への敬意を忘れない。そもそも、バアルはこの戦いの中、問題点を指摘しただけで、何か罵倒はしたりしていない。

 この、名前を聞くのも、バアルなりの敬意なのだ。

 そして、英雄は口を開いた。


「……私は、カナリア。“退魔の英雄”カナリアだ」

「……そうか、カナリア……とても……見事な戦いぶり……だった。また……どこかで」


 ザシュッ! 

 そのような音が鳴り響く。それと同時に、布が擦るような音も聞こえた。

 要は、誰かが近づいてきている。


「あ〜あ、使えないなぁ……。こんなにも早く死んじゃうなんて、弱いなぁ」

「……ッ! お前は! 」

「あ! 久しぶり〜カナリアちゃん! 元気にしてた? 私だよ、私! 覚えてる? 君が捨てたクロムだよ! 」

「……お前、誰だ? 」

「……へぇ……覚えてないんだ。君が捨てたのに」

「クロムはこんなことをするやつではない。なら、お前は誰だ。クロムを騙り、クロムの皮を被った化け物か⁉」


 血を思わせる鮮やかな赤ブラッド・レッドのオーラがカナリアの背中から溢れ出る。そのオーラは、怒り狂っている際に出る、憤怒の波動。これを出す時、人間は、通常の五倍の潜在能力ポテンシャルを引き出すことができる。

 一方、クロムからは、どす黒く濁った赫色の瘴気を纏わせている。それは魔女、魔人―――いや、魔神の成れの果てである“呪術師”とその下位互換の“呪詛師”のみが纏うことを許される魔力とは違う力―――呪力の塊である。

 呪術師は、簡単な結界術や封印術、式神を操る呪詛師とは違い、複雑な結界術や召喚術、封印術を扱うことができる特別称号である。これは、魔女や魔人―――これらのことを一般的には“魔術師”と呼ぶ―――の進化先である魔神の心が廃れた時に起こる変化―――憎悪怨念化で殆の魔神は呪詛師になるが、一部は呪術師になる。


「……そうだね。昔の私はそんなことをする人じゃなかったのかもしれない。けどね、君が捨てたことで、前の私は死んだんだ。今は……そうだね〜、名乗るとするならばクロム・ニューアカシックかな。……それにしても、一緒にいる魔女も良い人だね。だけど……君には不釣り合いかな。君の隣は、私だけでいいの。ね、カナリアちゃん」

「そうか。ニューアカシック。ならば、私がこの剣―――“聖十字剣”ゴルゴダでその名を切り落とし、クロムに戻してやろう! 」

「私も行くぜ! ニューアカシック! 」

「おっと、お前は駄目だ。私は、カナリアちゃんと二人っきりでし合いたい。お前はここには似合わない。泥棒猫。……異能解除『呪術開封』! 『第一呪・風水解放』、『第二呪・陰陽制定』、『第三呪・五行顕現』、『第八呪・呪尊呪縛』、『第九呪・八卦展開』―――『幽離結界』……条件指定“進入不可:個体名・ヴァルヴァトス”」


【さぁ……ゲームの始まりだ。】


―――「なんなんだよチクショウめ! やっと魔王倒したかと思ったらあれがラスボスじゃないとか頭イカれてんだろぶっ飛ばすぞ! 」


 私は、ものすごくキレていた。だって、そうじゃないか。やっとゲームクリアしたと思ったら、それがまさかの前座でその後にヤバいやつが来るなんて普通わからないでしょ。

 最初に自己紹介しておこう。私は夏目鏡花ナツメ・キョウカ。よくナツメ先生と呼ばれるが、全くと言っていいほどあの猫である文豪とは全くの無関係であり、また、白雪のうさぎ好き文豪とも無関係である。

 私が今やっているゲームはつい最近、最新ゲームハード用にリメイクされた大人気ゲームシリーズ「ファ厶タジアンドクロス」のその初作リメイクである。このゲームは、私も世代だったため、今では廃れてしまって見ることが殆どないマカセン堂のカイシャーコンピュータ―――通称「カイコン」でやっていた。しかし……


「いやいや、がっつり仕様変わっとるやないかい! リメイク前だったら、ここでエンディングだったのに、なんで裏コマンドでしか対戦できない裏ボスがここで出てくるんだよ! おかしいだろ! 」


 まあ、そう言いつつ私は暗い部屋の中、朝日がカーテンの外から差し込んできているのに目を向けず、ピザ片手によく肥えた腹を灰色のパジャマ越しに見て、郵便ボックスに溜まりに溜まった公共料金支払いを促す文章に一瞥し、画面に目を向けた。

 そう、私の今の状況は最悪だ。ただゲームしか能のないヒキニートになってしまった。

 そして、ポチポチとボタンを押し、やっと元裏ボス戦を突破することができた。そうして、安心したところ、悲劇がやってきた。


「ふ〜、クリアできたしトイレ行こ……っとよっこらせ……ウッ! 」


 なんと、急に意識が朦朧とし、その場に倒れ込んでしまったのだ。そして、必死になって考える。恐らく、高血圧で能の中の血管が切れたのだと。しかも結構大事な血管が。前々から高血圧とは診断されていたが、その診断を無視し、色々と脂っこいものとかを食べすぎたことが原因だと考えた。そして、さっきのピザが最後の決め手となった。

 そして、思った。私、死ぬのでは? と。まあ、死んでも良いかと考えた。親のスネかじって生きていくぐらいなら、死んだほうがマシだと。

 そうして、私の二十数年間に及ぶ人生は幕を閉じた。

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