50話『聖戦③』
血弾がはじけ、溢れ、回転し、私の目の前を覆う。
この血の渦に巻き込まれれば、膨大な質量と遠心力によってほとんど全ての動きを封殺されてしまう。
「おねがーい」
分身の一人が私の手を無理やり引っ張っり、間合いをずらして避ける。力ずくだが、それ故に調整がしやすい。
残りの三人の分身は三手に分かれさせて、三方向から襲撃させている。
「【外出血】!」
分身が二体壊された。使ったのは【外出血】。それだけで仕留めたとは考えにくいので、能力なしの体術を混ぜているのかもしれない。
「三人」
分身を追加。最初に召喚して残っている分身とともに絶え間なく攻撃させる。
結局私の戦法が大きく変わったわけじゃない。基本は持久戦を続け、相手の残弾が枯渇するのを待つ。わたしも能力も残弾には限りがあるタイプだが、金庫坐さんはある意味それより最悪だ。
私の能力は100か0。使えるか使えないかの二択。例えるならマッチのようなもの。箱に入っているマッチが尽きない限り、出せる火力はいつも一定。
それに対して金庫坐さんの能力はチャッカマンのようなリソース。燃料が減れば減るほど、火力はどんどん小さくなる。
給油する暇も火を止めて休める暇も与えず、削り続ければ、いつかはマッチよりも火が小さくなる。そこが好機だ。
だが、それが簡単に通用するとは考えにくい。明確な弱点があるからこそ、そこに罠を置ければ強いと言う考えも、また定石。
(【血潮】が気になる。プレッシャーはあるが、こちらへの負荷は少ない。単なる牽制なら【外出血】で十分。高コストのこの技を展開し続け、使う理由は?)
視界の分断による指揮系統の混乱、それによる分身の各個撃破と言うのは割とありそうだ。
分身の性能自体は低いし、体術と血液操作を駆使すれば知能の低い分身を一体一体倒していくと言うのはそこまで難しくない。
が、それだけではじり貧。比較的持久戦に強い【内出血】は【血潮】を使っているうちは使えない。これだけのリソースの消費もう一つ、決定的な策がなければ釣り合わない。
そこまで考えたところで、金庫坐さんに直接向けていた分身がすべて処理された。攻撃の放棄は金庫坐さんの血液の再生を意味する。攻撃を今更止めるのは明確に損だ。
(出す分身は五人。一人は前、一人は後ろ、二人は横、一人は――あれ?)
視界の端が、違和感を見抜いたのは最後の一人の動かし方を考えている最中だった。
目の前に広がる赤が失われていた。【血潮】が消えている。
金庫坐さんは、自分の血に塗れなながら腕を構えていた。
殺気。
「四――」
「【血脈】」
私の手が叩かれるよりもはるかに早く、その弾丸は私に届いた。
無数の赤い弾が、怒涛の勢いで。
四方八方360度、全ての角度から私を削った。
「君の攻撃は軽かった」
ピチョ、ピチョ。
音がする雫の音だ。
「君は罪から逃げていた。だから、罪を背負っている私よりも軽い」
冷酷に、しかしどこか慈悲深さを感じさせる声色。私はこの声色を知っている。
「君のことを、君達と一緒に罪を重ねた時間のことを、ぼくは絶対に忘れない。だから」
これは、憐みの声色だ。
「安心して、眠ってくれ」
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