第34話 高校生五人組vs毒殺魔ズカニー③北ノボ城を守れ!
ほぼ破壊状態にされたといってよい―――スクラップ同然のジュニアのハイアッププログラム起動と違って、サラムへのプログラム開始は順調に、ほとんど問題なく進んだ。問題があったとすれば、起動チップとパスワードを持参して北ノボ城に緊急着陸したのが、独裁軍最新鋭中型攻撃艇だったことだ。
レーダー網その他の探知システムを易々と掻い潜り、最上級防護ネットなど、その存在を嘲笑うかのようにスルーして、城門前に突如、機体長五十メートル余りのデルタ翼戦闘機が音もなく着地。見たこともない精悍な攻撃機が姿を現したのだから、解放軍部隊が混乱の極致に至ったのは当然といえば当然だった。が、こんな状況下で、サラムの冷静さは際立つもので、浮き足立つ解放軍幹部たちを静めながら、テラスの手を引いて中型飛行艇へエスコートしたのだった。
「皆さん、大丈夫です、敵ではありませんから。さあ、テラス様。特別の方がお見えです」
「エッ! ……まさか?!」
最新鋭攻撃機のサイドポールに、直ちに白旗が掲げられ、テラスが会いたくて千秋の思いで待ち焦がれていた人物が、ゆっくりとタラップを降りてきたのだった。
「驚かせて申し訳ない。暗黒軍の追尾システムが作動しているので、交信電波を流すことは避けたかったんだよ」
解放軍幹部が居並ぶ中、まるでテラス一人しかその場にいないように、タラップを降りた作業衣姿の―――意志は強そうだが、柔らかいまき毛の顔が神経の細やかさを告げる彫の深いハンサムな男性がテラスの前に進み出た。茫然と見上げるテラスに、長身のバルカニア男性が右ひざを折り、テラスの右手を頭に押し頂き、臣下の礼をとると、
「オー!!」
解放軍の兵士たちの間から、思わず驚きと感嘆の声が上がる。
「皇帝。おやめ下さい。恐れ多くて、私には耐えられません」
テラスは震える右手を引こうとするが、ジョンは優しく包んで離さなかった。
「解放軍の中には、独裁軍がこれまでの悪事の源だと誤った考えを持っている人たちも未だ多くいるだろうから、私がテラス姫、君に忠誠を尽くすことで、誤解も解けるだろう。これでいいのだよ」
ジョンは戸惑うテラスに優しいまなざしを向けながら、衛星アパで、ミケロの娘アンジェラから起動チップとパスワードを受け取った経緯を告げて、居並ぶ解放軍幹部たちにもこれから行われる作業の重要性を説明したのだった。
「そう遠くない先に、アミロンは宇宙征服の戦いを仕掛けて来るだろう。これまでのもったいぶったやり方ではなく、強い破壊力を伴う非人道的手段が多用されるのは確実だ。だからサラム1号へのハイアッププログラムは、我が方にとっては最後の切り札といっていいんだ。もちろんプログラムに気づいたアミロンは、必死に潰しにかかるだろう。......おお、君はケビン、ケビンなのか?」
説明を聴き入る者の中にケビンを見つけると、ジョンは思わず彼に近寄り、
「やはり目や口元はリズ姉さんにそっくりだな。積もる話もあるが、ここにいるスタッフの説明を受けて、テラス姫とサラムのハイアッププログラムの完成を手伝ってくれないか。私は少し休ませて貰ってから、幹部の皆さんとの会合に臨ませて貰うよ」
今日のジョンは、ウェインの指示から大幅に外れる行動をとっていた。どんなにジュニアとバートンが心配であったとしても、ジョンの病状からは到底認められない、暴挙といってもよい行いだった。これには宇宙共通医師資格を持つアンジェラもしばらく言葉が出なかった。
「......まさか! 皇帝陛下。飛行艇を自ら操縦なさるなんて、ドクターウェインに知れたら大目玉ですよ。何よりお身体にさわります。でも、わざわざ陛下がアパへお越し下さるなんて、本当に恐れ多く、とても有難いことです」
三人の従者を連れた不要物回収業者を装う皇帝ジョンに、アンジェラは哀れなほど恐縮しながらも小言を述べたのはつい一時間前のことだった。父親のミケロ共々独裁軍の説得に応じ、内通するようになったのは極く最近のことだが、今回のジュニアの調査も当然、アンジェラは隠密裏にサポートしていたのだ。
「皇帝陛下、大変です! アミロンに気付かれたようで、ジュニアからの信号が途絶え、生体反応といいますか、脳AIパルスも消えてしまいました!」
ジュニアが破壊されたとの、アンジェラからの連絡で、衛星アパ近くに待機していた皇帝専用中型高速飛行艇WILLⅡ―――この最新のステルスと電波妨害機能に守られた攻撃機をアパタミヤ洞窟近くに強行着陸させ、ジョンは破壊されたジュニアを直ちにWILLⅡに運び込んでアパを離れたのだった。
「ボンド。これがジュニア用の起動チップで、パスワードを書いた紙はこの封筒に入っている。私はテミアの北ノボ城へ急行するから、君は千加子のいるアースの城崎温泉桃島基地へ直行してくれ。頼んだぞ!」
ランデブー地点で直ちに作業艇とドッキングし、ジュニアを移し替えると、ジョンはテラスとサラムが居る惑星テミアの北ノボ城へ向かうべく、ウェインが厳に禁止する―――脳への負担が極端に大きい、高性能攻撃機の操縦桿を握ったのだった。
ドクターウェインによって強い行動制限が課されている皇帝ジョンであるが、制限理由に直結する病因は脳腫瘍で、腫瘍原因としてウェインが突き止めたのは、毒殺魔ズカニーがウイリアム暗殺のために調合した遅効性毒薬トリカブトλ(ラムダ)だった。これはアースのヤーポンで毒薬として使われるトリカブトの分子配列に、ズカニーが僅かな変更を加えたもので、ズカニーの専売特許というか、彼オリジナルの特殊毒だった。
ズカニーは幼少期から化学マニアで、高校の化学教師だった両親の影響を受け、与えられたパソコンで薬草の分子配列をいじっては楽しむ少年だった。そして14歳の時に、ヤーポンでスミレと呼ばれる可憐な植物をパソコン画面に見つけ、強い興味を持った。
このキンポウゲ科トリカブトに強毒素のあることを知ると、得意の分子配列変更を試行錯誤的に加え、偶然にもトリカブトλを発見というか、作成したのだった。薬効は想像の域を出なかったが、トリカブトから生まれたと考えるとズカニーに何がしかの期待を抱かせた。
「ね、パパにママ。この蜂蜜をパンに塗ると美味いんだよ、牛乳に入れても」
ズカニーはトリカブトλを蜂蜜に混ぜて、朝晩、両親に摂取させ、その薬効を慎重に調べ上げた。自分の作った作品の完成度が見たくて堪らなかったのだ。そのためなら両親の健康はλへの奉仕の対象でしかなかった。
両親の死という結果がもたらされたのは六年後で、ズカニー二十歳の時だった。朝食の時間が過ぎても両親が起きてこないので、二人の寝室へ赴くと、苦しみの痕跡なく、両親は安らかな死に顔で亡くなっていたのだった。
このズカニーによる毒殺スキルに注目したのがアミロンだった。マインドコントロールを施し、ズカニーが自分の意のままに操れるようになると、薬効の発生期間との関連で、短・中・長期の三段階のトリカブトλの作成。これをアミロンはズカニーに命じたのだった。
「アミロン様。出来上がったものを、いったい誰に投与すればよいのでしょうか?」
濃度を調整することによって、薬効の発生期間を検証するのが一番手っ取り早く、また時間もかからない。後は被験体の確定だが、ズカニーの問いに、アミロンは躊躇なく答えたのだった。
「我が父、ゴルドンに仮の名【短期λ】を投与して、ソチの両親に投与したλ(基準量)の三倍のものを朝と晩の食事に混入してみよ」
平然とアミロンが指示した二年後、ゴルドンはλの摂取と明らかな因果関係により亡くなってしまった。アミロンとゴルドンがテミア王ガリに追放されて四年後のことだった。
【中期λ】の効力は、濃度が基準量の二倍であることから、四年だった。【長期λ】はズカニーが両親に投与したのと同じ濃度で、薬効の発生は六年後。この【長期λ】が、アミロンの命により、独裁軍皇帝ウイリアムとジョンに投与されたのだった。これまでの攻撃パターンと違って、スパイを送り込んでの、慎重に時間をかけて、外部から判別困難な手段が採用されたのだった。
「ジョン、バルカニア人の君とグリア星人の私が、ほぼ同じ時期に脳しゅようを患うのはおかしくないか? ジャンヌが依頼したという毒殺魔ズカニーの仕業ではないのか」
長期にわたる慎重すぎる攻撃も、相手の知的レベルによっては探索の網にかかってしまう。ジョンもウイリアムも不可解な脱力感と体調変化、脳腫瘍の同時存在に疑問を持ち始めていたが、皇帝ウイリアムの指示で秘密警察が厨房と医療部に配属されたスパイを遂に逮捕したのだった。ただこの時点では、暗黒軍の実体がアミロンとは気付かず、対応が後手後手に回ってしまった。ウイリアムに関しては【長期λ】の摂取はその五年目に排除がなされ、結果的には六年以上生き永らえることが出来た。が、彼は帝国病院のあるシャトウホスピタルビル(シャトホス117)から出ることは叶わず、75歳で生を閉じてしまった。このとき、ジョンは35歳だった。
39歳のジョンが、今現在も生き長らえているのは、四年前のウェインによる手術とその後の手厚いケアによるところが大きかった。トリカブトλは酸素消費の多い細胞に吸着し、そこに癌細胞を発生させることがウェインによって確かめられたが、結果、脳のように大量の酸素消費を必要とする細胞の活性化は、トリカブトλを完全除去できていないジョンにはまさに命とりで、行動制限は当然の措置であった。ところで、ウェイン以上に口うるさく行動制限をかけてきたのはミーシャで、ジョン兄ちゃんを守るべく、彼女も立ち上がったのだ。
―――トリカブトλを完全排除できる細胞、必ず作成してみせるわ!
兄スティーブのALS完治という難題にもう一つ、ミーシャは新たな研究課題を自らに課したのだった。
「さあ、皆さん。親友と妹のような二人の医師から、大目玉を食うので渋々二時間の仮眠を取って、皆さんへのお目見えが遅れましたが、暗黒軍―――これからはアミロンと言い切ってもよいと思うが、そのアミロンとの戦いに待ったなしの状況に置かれているので、今後、私は総司令官テラス姫のアドバイザーのような形で軍議に参加させて貰います」
睡眠導入剤を飲んで熟睡できたこともあり、二階の戦略大会議場で士官以上の兵士863名を前にして、独裁軍皇帝ジョンはすっきりとした表情で簡単な挨拶を述べたのだった。彼の左隣には、ハイアッププログラムのインストールが済んだサラムが、堂々と自信たっぷりの仕草を浮かべ腰を下ろしていた。ジョンの右、会議場正面中央には、テラスが腰を下ろしているがかなり緊張気味で、先程までのプログラム参加の影響もあるのか、顔色も優れなかった。
「独裁軍皇帝ジョンがいきなりミア少佐のアドバイザーといわれても、にわかに信じ難いではありませんか。散々敵対行動を取って来た独裁軍の、お得意のまやかし戦法ではないのか!」
挙手もせず、会議場後方の士官からいきなり声が上がり、彼の周りの数名が「そうだ、そうだ!」と同調する。
「きさま、所属部隊と階級を述べよ。独裁軍との関係は、通信システムで砦内には伝わったはずなのに、聞いていないとは怪しい奴らだ。きさまらはアミロンが送り込んだスパイか!」
これまでのサラムとは全く違う声と口調だった。しかも動きの素早さは目を見張り、右人差し指から発せられた青いビームは寸分たがわぬ精度で、次々に銃を持つ六人の右腕を射抜いていた。第三段階までのハイアップが為されたのかは不明だが、少なくとも第二段階の能力アップをサラムは手に入れたようである。
「さあ、今後は暗黒軍というか、アミロンを敵に回しての戦いが始まるんだ。この北ノボ城は暗黒軍との最前線の戦場になることを肝に銘じて、取り敢えずは所属部隊ごとに集合し、名簿を参照してスパイ等の異端者の発見に努めよ。よし、解散!」
テラスの右隣から、ゲーリーが立ち上がって解散の宣言をする。ジョンとサラムがテラスとの関係でどのような位置づけであるかを幹部たちに認識させるだけの会合といってよかったもので、二人は十二分にその役割を果たしてくれたのだった。
さて、北ノボ城でアミロンとの戦いが着々と進みだしているころ、アースのヤーポンにある城崎温泉桃島基地でも、同様に動きが始まりだしていた。ジュニアへのハイアッププログラム完成は全く予断を許さないが、時間がかかることもあり、インストールの結果を待つ間、タイガ大尉以下作業チームによるジュニアの修復―――バラバラにされた体をもと通りにする作業。これもひと苦労で時間のかかるものだった。
「このまま黙って手をこまねいているのも、何とも悔しいので、スワローバードをアパへ飛ばして、ミケロとアンジェラを助けに行こうか。アミロンのことだから、裏切りに気付いて、きっと彼らに罰を与えるだろうから」
千加子の発案で、五人組がアパへ旅立とうとした矢先に、二人が殺害されたという訃報がサラムから伝えられた。
「千加子司令官。あなたのことだから、きっとミケロとアンジェラを救いに行くだろうと思って、連絡を入れたんです。残念ながら、二人は既に殺害されました。皇帝ジョンがジュニアを引き取ってアパを離れた直後に、裏切りを気づかれ殺害されたようです。本当に残念です」
「わかったわ、サラム。本当に残念ね。でも、サラム。あなたの話口調からはハイアッププログラムは成功したのね」
「ええ、ご心配をおかけしました」
「本当に、本当によかったわ。ジュニアも同じように成功してくれるといいんだけど……」
「大丈夫ですよ。必ず成功しますよ」
サラムの自信に満ちた声を聴きながら、千加子は次の緊急戦略を実行に移す決意をしたのだった。
「みんな、集まって!」
城崎温泉桃島基地の戦略室―――奥村バアバんちのリビング、ここへ四人を各自の部屋から呼び出して、千加子は緊急戦略会議を開いた。
「どうしたんだよう、ジュニアに何か起こったの?」
昼食後の昼寝をしていたのか、愚弟優一は眠気まなこだった。
「ジュニアは体の改善は明後日までかかり、ハイアッププログラムはいつまでかかるか全く不明なんだって」
「じゃ、なんで呼び出されたの?」
いつものように、優一の隣に腰を下ろしたのぞみが優一の言葉を引き継ぐ。
「うん、ボンドから連絡があったんだけど、ズカニーが大量のトリカブトλを北ノボ城へまき散らす計画を立てているんだって。皇帝ジョンがWILLⅡで、ケンタウルス座の恒星アルファの第六惑星オルフィーへ赴き、トリカブトλの貯蔵タンクを破壊する計画を立てたんだけど、ドクターウェインが難色を示しているらしいの。ここしばらく、だいぶ無理をしているらしいんで、死を招く腫瘍が形成される可能性があるって。といって、ボンドもアミロンの攻撃に備え、ギャラクシーをオーフュース近辺から離すことは困難らしいの」
「行きましょうよ、千加子さん。以前作成した戦略ゲームで、オバケタンク貯蔵ガマを破壊して、ヤーポンのゼネコン族と生き残り霞が関族連合をコテンパンにやっつけたのがあったじゃない。あれの応用で行きましょうよ」
向かいの席から、のり子が身を乗り出した。のり子の言うゲームはヤーポンの古墳王朝時代を舞台にしたもので、邪馬台国の女王卑弥呼が眠っている桜井市の箸墓古墳へ向かう戦士たちと、それを邪魔する妖怪たちとのラストスリーのバトルゲームだった。
「そういえば、本件にぴったりの戦略ゲームだったな……」
のり子の隣から、竜児も相槌を打ってゲーム内容を思い出している。ズカニーがトリカブトλを保管する巨大タンクの存在場所も、ゲームの立地に限りなく近しいのだ。
「そうだった。言われてみれば何から何までピタッとはまるゲームで、ズカニー撃退のためにあらかじめ作ったようなシミュレーションゲームみたいだな」
ズカニーの急造手抜き居城をネットで検索して、優一も感心を通り越し、呆れかえっている。
ゲーム内での、卑弥呼の戦士の行進を妨げる砦は官僚県チクリ村族残党がリーダーで、国家予算流用などヘッチャラの金満関所だった。巨額の財政投融資を行い、明日香・卑弥呼ロードにドッカーン! と、【超巨大・通せんぼ砦】を造ってしまったのだ。そう、大手ゼネコン族の協力で、一夜の内に手抜き・中抜き・丸儲けの、抜き打ち急造要塞砦をつくったのが、悪徳ゼネコン族で、ズカニーに匹敵するワルだった。しかも砦の地下大金庫廟に眠っているのは、公金横領漬け液ガブ飲みの、バブル卑弥呼であった。
「いずれにしても現役引退の、年寄り兵ガードの山城要塞砦で、しかも耐震強度偽装で鉄筋抜きの軟弱要塞。これを聞いて、攻略容易と思うでないぞ。すべて城内はコンピューター管理で、兵は本来不要というシロモノなのじゃ。しかも鉄筋抜きでも、公金横領菌がコンクリをゴテどろに固めてしまい、建築基準法の基準をはるかに凌ぐ〈耐震強度合格砦〉にオオバケしてしまっておるのじゃ」
ゲーム内での千加子の解説で、金に糸目をつけずに談合村出身のゼネコン族に造らしただけあり、三重の巨大要塞壁に守られ、容易に近づけないハリウッド映画【荒鷲の要塞】のごとき、難攻不落砦であったのだ。この点、ズカニーの居城【トリがぶ城】もよく似た形状であった。
「唯一の弱点は、内部からの破壊に弱いということなのじゃ。内部は急ごしらえの手抜き工事わんさかで、公金横領菌の繁殖もまだヒヨッ子レベル。そこでのぅ、ここを内側から攻め落とせば、砦もろとも崩壊するのじゃ」
この点もズカニーの居城トリがぶ城も限りなく≒で、ゲームでの千加子の秘策を使えるのだ。すなわち、砦の背後にそびえる五輪山頂上の〈巨大貯水ガマ・お化けタンク〉。これに匹敵するのがズカニーの居城上空の【浮きデカλタンク】で、ツェッペリン型巨大ガス気球船にぶら下げられた、まさに〈巨大ガマ・お化けタンク〉であった。ゲームでは千加子がこの山上に建つ〈巨大貯水ガマ・お化けタンク〉を破壊し、内部注入土石流で砦もろとも流し去る計画を立てた。が、ズカニーへの応用ということになると、のぞみ大尉の気球へのダーツ攻撃が第一段階。お次はのり子中尉の出番で、巨大グライダーブーメで、溢れほとばしるトリカブトλを誘導し、トリがぶ城をズカニーもろとも流し去る。これが第二というか最終の計画段階だった。
「それ! のぞみ大尉。動かぬクジラまがい気球にダーツ矢をぶち込むのだ!」
ボウー! ぼうー! ボウー! ぼしゃ! ツェッペリン型巨大ガス気球船が燃え上がり、浮きデカλタンクが二十メートルの高さから落下して、南京ドーム一杯の有毒トリカブトλが、ザ、ザ、ザーッ! 来るわ、来るわ。大量の土石流を伴い、居城内のありとあらゆるものを巻き込んで、下流へ迸(ほとばし)る。
「それ、のり子中尉。超巨大グライダーブーメで土石流を誘導し、ズカニーの居城など、跡形もなく流し去るのじゃ!」
千加子の戦略に寸分たがわず、ケンタウルス座の恒星アルファを巡る惑星オルフィー。そこにあったアルテメス王国の国王ズカニーの居城は、あっという間に地図から消えてしまった。還暦を祝うはずだったズカニーも、トリカブトλの毒液にまみれ敢え無い最期を遂げてしまったのか、活発な動きを見せるアミロンの影に隠れて、以後の消息は途絶えたままである。
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