episode 01
e01a.ファスター・ザン・ライト
▼▼▼
「どうなってんだよ……」
大小のランディングパッドがずらりと並ぶ、全幅一〇〇〇メートルの巨艦が余裕をもってすれ違えるシリンダー型スターポートの端っこで、ヴェローチェは途方に暮れていた。
「ここは
エアロバスケフィールドぐらいの小型艦用ランディングパッド同士の間、メンテナンス通路のベンチに脚を組んで座っていた。
あーあーあー、と意味も無く漏らして、背もたれに上半身を預ける。
真上には大型輸送艦が、ごんごんごんごんエンジン音を垂れ流してスターポートの奥へ。さらにその向こうには、白んだ空気層を隔てて反対側のランディングパッド群が見える。
あんなでけぇ艦の整備はできるってのに、オレの単車はできねぇってどういうことだよ!
飲みきったコーヒーカップを潰して、近くにいた環境整備ドローンに投げつけた。そいつは恨めしそうにセンサーで睨んできたが、カップが床に落ちる前にキャッチ、ビービー文句っぽい電子音を残して去っていった。
環境整備ドローンが見ていたのは、やってきたツアー客を楽しませる見事な観葉植物ではない。
ベンチの隣にはヴェローチェのモトステラ、BZ9イードラを停めてある。
宇宙船としては小さすぎるなんて言われてパッドを割り当てられず、そこら辺に停めろと管制官サマのありがたいご指示。
洗浄もリペイントもいつからしていないか覚えていないぐらい、外装はボロボロ。ロケーティングライトは割れているし、四基あるリバーススラスターの内一基は死んでる。
煤まみれの物体が自分の担当地区に置かれているものだから、あのドローンは気になってしょうがなかったんだろう。
「ハァー」
どでかい溜め息。
動くには動く。飛べるし、宇宙にも行ける。
でもワープができない。
FTL機関は壊れかけ。
実際、ワープ中にストール起こしてハイパースペースから放り出された。
近くの有人惑星まで数十光年とかいうなんにも無い宇宙空間で、応急処置を施してどうにかこうにか一回分のワープ。
機関を直せるドックか技士を探して、高い金を払いながら貨物船で漂泊。高規格惑星なら直せるだろうとここ、
結果は――。
「どうすりゃいいんだよ……」
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「いらっしゃ――ああ、お客さん」
ナルドグレーの鎧とタバコブラウンの腰布という女の姿は、酒場の注目を集めた。
ひと睨みしてやれば、
「昨日も言いましたが、モトテスラ、でしたっけ? そのような宇宙船を取り扱う業者はありませんよ。知人にも聞いてみましたが、誰も知りません」
「宇宙船じゃねぇ」
ヴェローチェはカウンター席にどしりと着いた。
鋭い眼光にバーテンダーは息を呑む。
「なんだよ。酒を飲みに来たんだぜ」
「え、ええ、どうぞ」
「グラッパはあんのか」
「コーシューのが」
好みじゃなかったが、コーシュー農業ステーションの生産品は少量しか出回らずレア。こんな銀河辺境の都市惑星にある酒場の店主が、わざわざそいつを揃えているぐらいだから、良いものには違いない。
「それでいい。ストレートでくれよ」
「承りました」
昨日は情報収集のためだけに来て、ビア一杯しか飲まなかった。今日は歩き回った上に気落ちしている。
それなりに飲ませてもらうぜ。
「どうぞ」
出てきたグラスは、細長いステムに鳥の糞も入らないボウル。
「しかしですねお客さん、三〇センチ程度の超小型FTL機関なんて存在するんですか? 軍の最新の宇宙戦闘機でも、一メートルはあるといいますよ。その三分の一だなんて……そんなものがあったら技術革新だと、知人の言ですが」
「うるせぇ。どいつもこいつも時代遅れなんだよ」
「はぁ」
「そっちのグラスを寄越せ」
「え?」
「グラッパも置いときな」
「ですが――」
トントン、バギッ。
苛立ち露わに指で叩くと、下敷きにしたガラス製のコースターが粉砕した。
バーテンダーはぶつくさ言いながらトールグラスを用意。ヴェローチェはグラッパをなみなみと注いでからボトルを返す。
「お代は先にいただきますからね」
頭に響く請求の通知音すら煩わしくて、さっさとグラスに口をつけた。
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