同題異話SR総決算シリーズ
長月瓦礫
午前三時の小さな冒険
もう少しで陽がのぼる。月は傾き空が明るくなっていく。
ああ、夜なんて眠れやしない。
こんな時間に起きてる奴なんていない。
西之谷皐月はなんとなく、スマホでSNSを流し見していた。
特に目ぼしい話もない。
世界が眠りにつく時間があるとするなら、まさしく今なのだろう。
陽はあと少しで昇る。車は通らず人はいない。
世界は眠っている。あと少しで太陽に叩き起こされる。
公園のブランコに座ってビルの谷間をじっと眺めている。
こんな最悪なこともあるまい。
「明日なんて来なきゃいいのにな……」
そうだ、今ここで終わってしまえばいいんだ。
世界が5秒後に消えたところで誰も気づきやしない。
だって、みんな眠っているんだから。
世界がばらばらと崩れていくのを想像しながら歩く。
足元はひび割れ、建物は音を立てて崩壊する。
太陽が昇る前に、すべてが終わる。
ビルの谷間から少しずつ光が差し始めた。もうすぐ夜明けだ。
SNSを眺めていると、ゲームを夜通しやっている馬鹿がいた。
八坂悠人はつい先ほどまでゲーム配信していたらしい。
電話をかけてみる。すぐに出て、眠そうにあくびをしていた。
「オメーまだ起きてたのかよ」
『起きてたっていうか……寝てないだけ。
そっちこそ、何してんだよ。こんな夜遅くに』
「別に。なんか眠れなかったんだ」
『へえ、そうなんだ。俺なんかゲームやってたらこんな時間だよ。
いやあ、ゲームやってると時間が溶けるね。おかげで実況がはかどるよ』
「マジで元気だな、学校で寝ても知らんぞ」
『そうか? そろそろ寝ようかなと思ってたところなんだけど。
いやあ、首肩腰がバッキバキだ』
世の中にはこんなに能天気な奴もいる。
同じ世界にいるとは思えないな。
「お前さ、もし、世界が5秒後に終わったらどうするよ」
『5秒? 短すぎない?』
「けど、世界が終わる時ってそんなもんかもしれないよ。
あっという間に、すべてが消えるんだ。
死んだことにも気づかずに、世界が終わる。それが5秒だ」
なんとなく、聞いてみた。
ロクに記録することもできない5秒間、コイツは何をするのだろう。
『5秒ってことはさ、こんなクッソくだらねえこと話してるうちに世界終わるってことでしょ? どうするもこうするもなくない?』
「そうだな、無駄な抵抗すらできないんだ」
皐月がぴしゃりと言い切る。あまりにも冷たい言葉だったから、自分でも驚いた。
沈黙が下りる。
『俺が黙っている間に、何度滅んだかなって感じだけど……こうやって、世界が終わる瞬間まで友達と話せる俺って幸せだなって思う』
「そうか」
『一人よりはいいと思うよ。それじゃ、また学校でな』
電話は切れた。皐月は立ち上がり、歩き出した。
太陽の光が部屋に差し込んだ。
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