ロボマスターは異世界で夢想?する。

@etoruta

第1話工場勤務と光

今日も定時で帰れなかった。


それというのも、毎度他班の連中が定時前に仕事を持ち込んでくるからだ。

以前は僕の班は定時で終われる事が多く、他は残業祭りもいいところだった。

それが、ある時から定時直前になって仕事を振ってくる事が多くなった。


全員が早く帰るために僕達でも手伝える仕事を振ってくるのはいい、別に残業して苦しめなんて思っていない。


問題はわざわざ定時前に話をもってきて残業ありきにするところだ。


これではいくらこちらが努力したところで、スタートがそこからなのだからこなすほかない。


そういった事が常態化してきて、僕は上司に掛け合った。


「もう少し事前に言ってもらえれば、こちらとしても調整がしやすく、残業を減らす事も可能だと思います。」


話し合いの場でも設けてくれれば、もしくは仕事の振り方を考えてもらえればなんとかなるかもしれない。


しかし上司から帰ってきた言葉は「苦楽をともにしろ!仲間だろ!」だった。


わけがわからない、ここは仕事場じゃなくてスポコン系の学園ドラマの世界だったのだろうか。


他のだれかに訴える事も出来たのかもしれないが、振られてくる仕事は日ごとに増えていった。


班員の皆には常識の範囲で残業してもらい、多くは自分が引き受けることでなんとかしていた。


「はあ、今日も終電か・・・」


なんとか業務を終わらせて、工場を出たのが23時過ぎ。

疲れ切ったからだを引きずりながら、着替えを済ませ家路につく。


「明日は4時起きか・・・」


翌日は朝一から工場での作業が入っている。

6時には工場に入って、準備を終わらせておきたい。


しかし、こんな生活をもうどのくらい続けているのだろうか、幸い独り身だし、迷惑をかける相手は自分しかいない。


転職でもしようかな、そう考えていた時に繁華街を通りかかった。

居酒屋から目的が曖昧な店までぎらぎらした看板を出していて目に痛い。

あちこちから聞こえる音も耳に痛く、頭に響く。


その中で一際大きな叫び声が聞こえた。


「だーかーらー全部あいつにやらせておけばいいんですよ!」


誰かが叫んでいたが、どこか聞き覚えがある。

どうやら、居酒屋の前で酔ってるやつとそれを支えて話を聞いているやつがいるみたいだ。

気が付くと、なんとなくその声がした方に耳を集中させていた。


自分自身は近くのビルとビルの間の隙間に身を隠して。


「いや、もう飲み過ぎですって!」


酔っ払いの肩を持っている人が諫めているが、笑っている。


「なにが業務の効率化だよ!一緒に苦しんで同じ釜の飯食って人間成長していくだんだよ!」


他班の佐々木さんだ。


彼は日頃からやたらと僕に突っかかってきていた。

別に班長というわけでもないので、相手にしていなかった。


「あいつの所で仕事してたら、息が詰まって仕方ねぇ!そうだろ!芦田!」


芦田さんもいるのか、そういえば今日は定時で帰ってたっけ。

彼は僕の班の一人だ。


「まあでも、そうっすねーなんかしんどいですよね~」


しんどい?どういうことだろうか。


「なんか、こうした方が負担が少ないとか、早く終わるとか、言われなくてもわかってますよって感じですよ」


「そう、そうだよなあ!あいつが変に引っ張ってる感じ出してるけど、それは班員あってのことだよな!あいつはいらねえんだよ!」


佐々木が熱くなってるところに、芦田も続く。


「あーあ、僕も佐々木さんの班がよかったなあ、なんであの人の下になんか・・・」


そこまで聞いて、僕は彼らとは反対方向に逃げ出した。


遠回りになるが、それでいい。

今は歩いて、歩いて、忘れよう。


そうは思ってもこみ上げてくる何かと、抜け落ちていく何かが僕の心をかき乱す。


出来る限りの事をやっていたつもりだったか、無駄だったのだろうか。

もしくは彼がそう言えるくらいの時間を僕は作れていたからこそなのか、しかし余計な事だったんだろうな。


頭の中でいろんな事が高速で浮かんでは消えていく。

ただただ、歩き続けていくと気が付けばアパートの前まで来ていた。


「ああ、歩いて帰って来ちゃったか・・」


一体何時なんだろう、明日は早いのにな。

そう考えながら、アパートの階段を上がる。

カン、カン、と乾いた音が鳴り響く。


玄関の前まで来て、気持ちを切り替えようと考えた。


「よしっ、ここを開けたら、今日の事は終わりだ!明日は明日で頑張るぞ!」


気合は入れた、きっと見ていてくれる人はいるし、僕にも問題はあったはずだ。

そう考えながら玄関の扉を開けると、目も眩むような光が飛び込んできた。

突然の事に思考が吹き飛び、叫ぶことしかできない。


「ハッ、はあ?見えん見えん!何これ!」


叫んでいる最中にも光は溢れてくる。

光に飲み込まれながら、僕は意識を失った。

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