第2話 密会の前日譚
《琴音》
「えっ……。」
「あっ……。」
私は、学校の屋上で天使に出会えた。
出会え……た……。
「市ノ瀬さん……?。」
(えっと……、あぁ……やってしまった〜……。)
とりあえず勢いだけで追いかけたから、この後何すか考えてなかった私は手札を事故ったカードゲームのように固まってしまった。
「あの……、一緒にお昼食べます?……。」
「はい……。」
屋上にポツンと置いてある長椅子に腰掛けた七瀬さんが手をポンポンと叩いて私を誘導してくれた。
(恥ずかしい……。)
私は大人しく座ることにした……。
《琴音》→《仄華》
ガチャっと屋上が開いた先にいたのは、クラスの天使だった。
だったのだが……。
「落ち着いた?。」
「はい……。」
天使こと市ノ瀬さんは顔を紅く染め上げて俯いている。
(それにしても手ぶらで来るなんて、よっぽど急いでただな……。)
とこの時の私は呑気にそんなことを考えていた。
「食べます……?。」
「ありがとうございます……。」
私は事前に買っていたコンビニのパンの片割れを市ノ瀬さんに手渡した。
「美味しいですね……。」
「そうだね〜……。」
時間がゆっくり流れて行く……。
ヒューーーーーーーーーーー……。
飛行機が青いキャンパスに白い線を描く時間が心地よい。
私がここにいるのが好きなところのひとつだ。
「あの……、パンありがとうございました。」
「もう帰るの?。」
「はい……。ではこれで。」
市ノ瀬さんは頭を下げて、ガチャンと箱にはから出ていった。
ブォォォン。
「あっ……。」
さっき描かれた飛行機雲にもうひとつの飛行機雲が交わっていた。
《仄華》→《琴音》
私はしばらく放心状態のまま、教室に帰って行った。
(会えた。天使に会えた。)
高揚感が冷めきらない中、私は席に戻った。
「どうだった?。天使様に会えたかな?。」
「うん。会えた。」
「そりゃよかった。」
と、私に話しかける青髪の二本の長いお下げに翠色の瞳の少女が私の席とくっつけた小さなテーブルにお弁当を広げて待っていた。
「なんかパン貰えた。」
「あぁ……、そう。」
少し呆れた様子で青髪の少女こと【
「それよりも、いつまでそんなふわふわしてるの……、そろそろ帰ってこい。」
「はっ!?、ありがとう。玲。」
「お、おう……。」
私は切り替えて、『いつもの』私に戻った。
それから昼休みの終わりのチャイムが鳴った頃に、いつもの席に『気がついたら』天使こと七瀬さんは帰っていた。
《〇》
放課後、私はいつものように手伝いをしていた。
「おつかれさん。」
「ありがとう……七瀬s……。」
「ん?。」
「っ!?。」
ハーフサイズのペットボトルのジュースを持ってきた七瀬さんが唐突に現れて、少し驚いてしまった。
(全くこの人は……。)
とはいえ、私は普段通りにジュースを受け取った。
このやり取りももう慣れてしまった。
「そういえば……。」
「えっ!?、な、なに!?。」
「今日はどうして、あんな屋上に来たの?。」
「えっと……、それは……。」
なんの脈絡もなく投げかけられた質問は私を少々混乱させた。
「それは……、人を探してたからでして……。」
「人?。あの屋上に?。」
少し困惑した様子で私をしていた見る七瀬さん。
(天使を探してるなんて言えるわけない。)
「市ノ瀬さん?。」
「七瀬さん!。」
「は、はい。」
ここからのことはよく分かってない。
ただただ口が、身体が、想いがそうさせた。
「一目惚れしました。なので、良かったらこれからも私と一緒にあの屋上でお弁当一緒に食べませんか!。」
想いしかない勢いとなった私の言葉が七瀬さんを襲った。
「あの……、その……、お気持ちは嬉しいです。」
「はぅ!?。」
頬を紅く染め上げた七瀬さんの顔が可愛い。
「私も……、その……、入学式の時から一目惚れだったんだ。市ノ瀬さん。」
「えっ!?。」
突然の告白に私の体温がオーバーヒート寸前だった。
「だからその、今後も良かったら一緒にあの屋上でお弁当食べよう……。」
「はい。」
それから私はオーバーヒートしていた思考のまま家に帰った。
(あっ……、私ってなんて大体なことを……。)
それはもうベッドで転げ回るくらいに嬉しかった。
《琴音》→《仄華》
あれから翌日の昼休み。
いつもの屋上で……。
「七瀬さん……、よろしくお願いします。」
「うん、よろしく。」
私の新しい日常が、始まろうとしていた。
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