「「私」」は学校の屋上で『天使』と密会する。
アイズカノン
第1話 2人の天使
早すぎる春の終わりと夏の暑い侵攻し始めた入学式から約一ヶ月後。
クラスもある程度のグループがまとまってきたこの時期。
私、【
「市ノ瀬さん、ありがとうございます。」
「いえ、お役に立ててなりよりです。」
私の席の近くではクラスメイトの少女達が授業の簡単な確認をしていた。
そしてその中心にいる天使のような少女が【
漆を塗ったような綺麗な茶色いロングヘアと琥珀ような綺麗な瞳は入学当時から人々を惹き付けた。
その容姿は、白いブラウスと紺のジャンパースカートの学校の制服との親和性が高く、和風美少女と言っても過言ではない気がする。
私の普通の黒髪と違って……。
《+》
そんなこんなで昼休み。
教室は有象無象に群がるいくつもの集団によって机や椅子たちが占領、陣取りされていった。
「あの……。」
「ん?。」
「この机使ってもいいですか?。」
「……、良いよ……。」
「ありがとうございます!。」
全く呑気である。
私は自分の席を貸し出して、教室を出た。
(許可取りに来ただけマシと思った方がいいかな……?。)
そう思いつつ、階段を登って屋上へ向かった。
フェンスの檻とネットに包まれたこの学校の屋上は適度な閉鎖感と程よい開放感にあって私は好きだが、他の人達は公園のような屋上がある別館へ行ってるためここは基本的私専用になっている。
「今日『も』誰もいないな……。」
それもそう。
ここにはただただ金属とプラスチックの長椅子と殺風景なコンクリートの床があるだけのよくイメージされる屋上で、視界の大半はフェンスとネットである。
(なんとか屋上でできるようにしたい教員たちの努力を感じる。)
フェンスとネットごしに見える賑やかで華やかな対岸の屋上公園を見ながら、私はここの古い温もりに思いを馳せた。
>ガチャ
いつものようにお弁当を出して食べようとした思ったところで扉の開く音に釣られて振り返ると……。
「えっ……。」
「あっ……。」
さっきまで教室に居たであろう琥珀色の瞳を持つ天使が私の箱庭にやってきた。
《仄華》→《琴音》
私は誰もいないはずの学校の屋上で、黒髪の天使と出会えた。
私、【
「市ノ瀬さん、これお願いできるかな?。」
「はい。」
「市ノ瀬さん、ここの問題がよく分からなかったのだけど……。」
「ここはですね―。」
「市ノ瀬さん。」「市ノ瀬さん。」「市ノ瀬さん。」「市ノ瀬さん。」「市ノ瀬さん。」「市ノ瀬さん。」
と……まあ……、こんな感じで入学当初からみんなに頼られているのですが……。
(はぁ……、やだなぁ……。)
「市ノ瀬さん、これは運んでおいてくれるかな?。」
「はい!。」
と、心の思いとは裏腹に身体が勝手に動いているのが私の悪い癖。
今日『も』いつものように教材を運んで廊下を歩いていると……。
「えっ……。」
急に荷物が軽くなった。
「あっ……、突然ごめんね。」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
青みかかった黒髪のショートヘアにスス汚れたような銀色の瞳の少女が私の荷物を半分持ってくれた。
(同じリボンの色?。同級生かな?。)
制服のリボンの色は私と同じ蒼い色をしていた。
《〇》
それから数日が経過した。
あの日の少女は度々、私を助けてくれた。
「はい、おつかれ。」
「あ、ありがとうございます。いつもいつも。」
「ん。まあ、私が好きでやってるだけだから気にしないで。」
「で……、でも……。行っちゃった……。」
毎回毎回、少女は気がつくとどこかにいなくなっていた。
(いつもいつも、勝手に助けて、勝手にどこかに行くなんて……。)
別に悪い気は感じないし、ありがたいのだが……。時々飲み物も奢ってくれるし。
私のお節介に巻き込んでる気がして申し訳なかった……。
「……まるで天使みたい……。はっ!?。」
ポツリと呟いたその認識をこの時の私はまだよく理解してなかった。
《〇》
あれからまた時間が経過して、入学式から約一ヶ月後。
私はようやく天使の正体を掴めた。
天使の名前は【
休み時間にいつも窓際で外を見ながら黄昏ている黒髪の少女だった。
周りに聞き込みをしていくうちに七瀬さんの行動がだいたい分かってきた。
いつもは寝ているようにぐったりしているのに、気がつくと人助けをしていたり、備品やポスターを程よい位置に戻したり、昼休みにふらっとどっかに行っているらしかった……。
(と、ここまで聞き込みしてきたけど……、正直七瀬さんの行動がよく分からない。)
結論として分からないことがわかったことくらいで、風来坊のような彼女の行動はより私の中で天使像を勝手に増幅させていった。
それから昼休みの時間。
みんなが教室から散って集まって別れ始めた頃、ちょうど教室から出ていく七瀬さんを目撃できた。
「市ノ瀬さん、今日は私たちと一緒に昼食を……。」
「ごめん、ちょっと行ってくる。」
呼び止めるクラスメイトをよそに、私は七瀬さんを追った。
廊下を走らない程度にかけ、階段を登った。
そして着いた先が、
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