ーepisode zero_eleven

『三千八百十年 十二月二十五日 藍沢』

 

 雪の降る、クリスマスに染められた街の中を早足で歩く。

 そして人混みをぬけ雪の積もった真っ白な墓地へと足を運ぶ。

 そしてひとつの墓の前で足を止める。

 墓の上に積もった雪を払い手に持った花を置く。

 花に積もっていた雪がカサッと音を立て落ちた。

 「あら、こんにちは先生。毎年ありがとうございます……」

 突然後ろから声をかけられる。

 「……いえ別に……」

 「あの日と同じ……」

 そう言いかけ声の主はせっせと雪の中、墓掃除を始めた。

 俺は失礼しますとその背中に言い墓地を後にした。

 

 凪海花が死んでから十年が経つ。十年と一日前の日、最低な言葉を投げ捨てそのまま俺は病院には戻らなかった。きっと会うべきではなかった。

 だが次の日、凪海花の母から電話がかかった。凪海花が亡くなったと。

 あの日戻って居れば……。

 後悔が後を絶たなかった。

 いまも立ち直れていない。

 もう、終わりにしよう。

 彼女はもう居ない。

 廃病院の中に入る。

 八年前の火事で廃墟となった周りにも殆ど何も無い病院には誰一人もいない。

 あの時の病室に入る。

 中はすっかり荒れていた。

 俺は布団に腰かけナイフで喉元を突き刺した。

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