もしも『浦島太郎』が気の強いギャルだったら

ハチニク

もしも『浦島太郎』が気の強いギャルだったら

むかしむかし、ある村に、心やさしい浦島太郎という若者がいました。浦島太郎が海辺を歩いていると、子どもたちが大きなカメをいじめていました。


しかし、浦島太郎はカメが好きではなかったため、罪悪感がありながらも、子どもたちをほっておきました。


すると、「えー、鬼カワなんだけどー!てかまじここら辺にカメって超レアじゃねッ!!」と金髪のかわいらしい女がカメに近づいていきました。


女の名前は浦島ノア、昔では珍しかったです。見た目は可愛らしく、ギャルっぽいですが、服装は本来の浦島太郎の着ていた昔の漁師の格好をしていました。ただ、草履ぞうりだけはピンクのラメでキラキラにデコられていました。


「記念にカメの浮世絵うきよえ描いちゃお、マジアガるんですけど!」


昔のギャルは写真を撮る代わりに浮世絵を描いていたらしいです。急に浮世絵を描き始めていた浦島に、子どもとカメは少し引いてしまいました。


「あ、すみません、カメです。私が言うのもなんですけど今いじめられている状況なので助けていただけませんでしょうか?」


「ま?」


「マジです。」


浦島は筆を置き、子どもたちのところに近寄ってきました。


「ノア、いじめとかマジ嫌いなんだけど。過去1テンション下がった、マジつらたにえん。」


「オラたちが捕まえたカメだから、何しようとオラたちの勝手だぞ。」


「カメ吉はノアのズッ友だからやめてくんね?」


と浦島は3人の子どもたちの頭を殴りました。


「痛って〜!!」


そう言って子どもたちは泣きながら、カメの元を離れました。暴力的な姿を間近で見ていたカメは浦島ノアに恐怖感を覚えました。


なので、ギャルの浦島ノアの代わりに、カメは、少し遠くで場が収まるのを見ていた臆病者の浦島太郎を竜宮城に誘いました。


それを見ていたギャルの浦島はカメを見るなりこう言いました。


「それは普通になくね。ノア、フッ軽だから今からでも竜宮城いけちゃうよ。」


仕方なく、少し優しく、でも乱暴で、気の強いギャルの浦島ノアは亀に連れられ、竜宮城に向かうのでした。


「さあ、背中に乗ってください。」


カメはギャルの浦島を背中に乗せて、海の中を潜ろうとしました。すると、気の強い浦島はその誘いを断固拒否し、「デコられたアルファードで行きたい。」とカメには意味のわからない提案をしてきました。


アルファードというものはこの時代にはなかったため、仕方なくギャルの浦島ノアはカメ吉の背中に乗って竜宮城に向かいました。


「ねぇ、カメ吉。竜宮城ってネーミングセンス皆無だから、ノアちんが改名したげる。」


「い、いや、やめてくださいよ、竜宮城は長年の歴史があるんですよ。いくら命の恩人だと言っても、あなたみたいなギャルが改名なんて到底受け入れられないです。」


「えーカメ吉、きびぃ。んー、ドラゴンキャッスルとかー、パレスオブ竜宮とか?いややっぱノアの名前入れちゃお。ノアちんハウスがいいかも!」


「え、竜宮城の跡形もないじゃないですか、ノアちんハウスって。」


「ノアちんハウスしか勝たん!」


ため息をつきながらもカメ吉はギャルの浦島を背中に乗せながら、コンブがユラユラ揺れる海の中を突き進み、やっと海底にあるとされているノアちんハウス竜宮城へと二人はやってきた。


立派なご殿を目の前にし、光に満ちた竜宮城は浦島ノアのテンションをぶち上げさせ、彼女の目は輝いていました。


「こちらへ着いてきてください。」


とカメ吉がその周辺をウロウロしていたギャルの浦島を竜宮城の内部へと呼び、案内しました。浦島はキラキラな装飾品に気を取られながらも、カメ吉の案内で竜宮城の主人である美しい乙姫さまがいた広間にお出迎えされました。色とりどりの魚たちが周りを泳いでいる姿を見た浦島は「エモい。」と一言言いました。


「カメを助けていただき、ありがとうございます。お礼に竜宮城を案内して、もてなして差し上げます。」


そう乙姫さまが言うと、ギャルの浦島は宴会場のような場所に案内され、用意された席に座りました。すると、魚たちが次から次へとご馳走を運び、音楽が流れる中で、ヒラメやタイの見事な踊りを見せられます。


「ヒラメっちも、ちゃんタイもめっちゃ可愛い!まじ目の保養だし、踊りもチョベリグでサイコー!じゃあ次は、ノアちんのしたいことやっていい?」


「ええ、もちろんですよ。カメの命の恩人なのですから。」


「えーじゃあ、乙姫ちゃんイメチェンさせてあげる!」


「え?」


「今も十分レベチでかわいいんだけどー、もっとパリピになっちゃっていんじゃない??」


「わ、わかりました。じゃあお好きにしてください!」


と乙姫さまはギャルの浦島にイメチェンをさせられてしまいました。茶髪になり、髪飾りも全てラメ入りになった乙姫さまは、『ちゃんヒメ』に改名するべきなほどにギャル系のイメチェンをしました。


「わ、私、ギャルっぽくなれたでしょうか、?」


「うんうん、見た目は100ギャルで超絶尊いんだけど、やっぱ話し方がまだ乙姫ちゃんって感じ。」


「ギャルになるにはどうすればいいのでしょうか!」


「ちょー簡単。『それな』って何回も言えばもうそれはギャルバイブス丸出し。」


「それな…」


『それな』とメモを取る乙姫さまの周りで、魚たちも密かにギャルになる術を勉強しようとしていました。


「今日めっちゃ楽しくて爆上げ〜!!」


「…それな?今日は楽しんでいただけて、嬉しい限りです。…ぜひもう一日、いてください!」


そう乙姫さまに言われるまま、何日も竜宮城で過ごしていくうちに、なんと3ヶ月の月日が立ってしまいました。


「めっちゃ映えるからノアちんハウス竜宮城の全部を浮世絵にしたいんだけど、筆とかも地上に置きっぱのままだし、そろそろ帰らないと、ママめっちゃ激おこぷんぷん丸になるから。」


とギャルの浦島が言うと、悲しい表情を浮かべながら、「それな!また来てね、ノアちん。」とギャル語をマスターした乙姫さまはデコられた玉手箱を浦島に渡しました。


「えーかわちぃ!全然いいのに!まあでも、仲良くなった記念としてもらっとくね!あざまる水産!」


そうして、ちゃんヒメ乙姫さまと別れたギャルの浦島は、カメ吉に送られて地上に戻りました。地上に戻った浦島は、周りを見渡すとまあびっくり。随分と様子が変わったを見てみると建物も全て新しくなっているではありませんか。


近くにいた女性に「ノアちんの家を知りませんか?」と尋ねると、


「ノア…浦島ノアなら確か300年前ほどに海に出たきり、帰ってきてないっぽいよ。」と言いました。それを聞いたギャルの浦島はびっくりし、竜宮城での3ヶ月は、この世の300年にあたるのかと思いました。


「てか、めっちゃバイブス良くない?」とその女性がギャルの浦島に言いました。話し方から察せるかもしれませんが、浦島が話しかけた女性もギャルだったのです。


その女性の周りをよく見ると、いかにもギャルっぽい女性がいっぱいいるではありませんか。なんとギャルの浦島が竜宮城に行っていた3ヶ月の間に、地上の世界では300年もの月日が経っていただけではなく、ギャルが多い現代日本になっていたのです。


一度は驚いたものの、ギャルの浦島にはちょうど良い世界だったため、玉手箱を開けることなく、現代をギャルとして楽しく過ごしましたとさ。



おしまい


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