第2話 プロローグ その2(SIDE 夏子)

「そういう事で、今度の金曜日の合コン、参加してよね。場所と時間はさっき言った通りで。じゃあ、よろしくね♡」

 電話の主は、そう言ってから一方的に電話を切った。何と言うか、言いたい事を言っただけというか、要するに実に失礼千万だ。

(ありがとうもお願いしますも、一言もないのね)

 南田夏子は、ちょっと、いやかなり呆れていた。電話の相手は高校の時の同級生。高校を卒業して2年以上経つが、いきなり電話してきて合コンへの参加を押し付けてきた。ちなみに仲良しだったというわけではなく、クラスメイトとして話をする程度の存在だった。

(どうせ人数が集まらないから、わたしに無理やり押し付けたんでしょ)


 ……………………


 夏子は高校時代の事を思い出していた。

 高校2年までは、ごく普通の高校生活だったと思う。成績は中の上ぐらいで落ちこぼれていたわけでもないし、普通に友達と遊びに行ったりしていた。特に大きく目立つような事はなかった。その頃は笑顔が眩しいというか、今よりもずっとイキイキとしていたなぁと思い出す。


 そんな中、高校2年の夏休み前に初めて彼氏が出来た。

 異性の中でも気軽に話していた相手で、よくふざけていたりしてたなぁ。ちょっと子供っぽい所があったけど、気取らない部分が逆に好印象だったと思う。

 そんなある日、前触れもなく突然告白された。

「好きです、付き合ってください」と。

 別に断る理由もなく、夏子はOKし付き合う事になった。お互い初めての彼氏彼女で、どう付き合ったらいいかわからなかったが、手を繋ぐようになって、キスをするまでは早かったと思う。そしてやる事はやった。お互い初めての経験だったから、右往左往していたが。その時は少々浮かれていたのかもしれない。

 それ以降、体ばかり求められ、嫌がる夏子によって破局となったのだった。


 暫く彼氏なんていらないと思っていた夏子だったが、意外にもそれからすぐに新しい彼氏が出来た。同級生の中でもモテる存在の男の子だった。何故に夏子を選んだのかは、未だによくわからない。自分のどこが気に入ったのだろうかと。そんなに目立つような存在じゃなかったのに。

 もっとも、夏子は容姿は重要視はしていなかった。一緒にいて楽しいと思えるならそれでいい。見かけなんて気にしない、それが夏子のポリシーだった。

 新しい彼氏は容姿は端麗、イケメンの部類に入るのだが、女の子に対する接し方が、とても紳士的だった。嫌がる事はしないし無理強いもしない。時には強引な部分もあるが、普段は相手の事を気にかけてくれる。成程、人気があるのが分かる気がした。交際には慣れているんだろうなと。


 付き合い始めてからどれくらい経ってからだろうか、そこから何かがおかしくなっていった。

 今まで普通に接していた友達が急に余所余所しくなっていった。夏子が話しかけても反応が鈍くなっている気がした。今まで普通に話していた友人に話しかけても、どこか避けられているような感じがする。


 そして気が付いたら、夏子は孤立していた。


 もちろん、今まで通りに接してくれる人もいたけど、そんな人はごく少数だ。彼氏とはいつの間にかギクシャクしていき、疎遠となり、そして自然消滅していた。多分、誰かが裏から手を回していたのだろう。元カノなのか、彼のファンだった子なのか、まぁ今となってはどうでもいい事だ。別に悪い事をしているわけではないのに、ただ人気のある男の子と付き合っていただけなのに、夏子は軽く失望していた。人間って、こんなに浅ましかったっけ?


 そして何の解決もなく、変わらぬ状況のままで夏子は高校を卒業した。

 思い返せばいい思い出も少ない、苦い高校生活を終えたのだった。



 結局、大学進学も就職もしないまま、自宅で何もなく過ごしている。一時はバイトとかもしていたが、長続きはしなかった。表情はどことなく暗さが残っている気がする。夏子自身、これでいいのかと自問自答していた。いやそんなわけはない。嫌な思い出は忘れ、再スタートをするべきだ。

 そういう気持ちは、心の奥底にはあった。でも実行されないでいた。何か踏ん切りがつくきっかけが欲しかったのかもしれない。


(ちょっと癪だけど、合コン行ってみようかな。万が一の事、あるかもしれないしね)


 今のどうしようもないような状況を変える事が出来るかはわからない。でも何か行動をしなければ変わる事などない。折角の機会なのだ、行動してみようじゃないか。夏子はそんなことを考えていた。


 夏子は久しぶりに着飾ってみた。お洒落して出かけるのはいつ以来だろうか。

「お母さん、今から出かけるから晩御飯いらないよ。もしかしたら夜、帰らないかも。なんてね」

「あまり迷惑かけるんじゃないわよ」

「お母さん、もう少し娘を心配してくれてもいいんじゃない?」

「あら?久しぶりに遊んでくるんだから、いい人を見つける事ぐらいしてみなさい。それともお見合いの話を進めた方がいい?」

「お見合いは勘弁して。やっぱ柄じゃないし」


 多分、今の状況、お母さんも心配しているはずだ。娘を気遣っているのか、必要以上に言わないでいてくれる。でもいつまでも甘えるわけにはいかない。今回の合コンは、ちょうどいいきっかけ。過度な期待はしていないけれど、運が良ければ自分を変えてくれる人と出会えるかもしれない。だから久しぶりに着飾って出かけるのだ。


 ………………………


(まぁ、こんなものよね。やっぱり期待しすぎたかな。これならさっさと帰ってもいいかも)

 現実というものはそんなに甘いものではない。やってきた合コンの会場、夏子は少し白けた感情を持っていた。夏子に声をかける男も何人もいたが、何か欲望丸出しな感じがしてつまらなさを感じていた。合コンに来るような人は、こんな人ばかりだろうか?だったら収穫などなさそうだ。会費と時間の無駄だったかな。

(会費分だけ食べたら、帰ろうかな?)

 そう考えている夏子の前に、話にも加わらず、一心不乱に食べているような男性が視界に入った。

(もしかして、わたしと同じで無理やり参加かな?)

 普段だったら気にも留めないだろうけど、この日は違った。


 何だかわからないけど、と来るものがあった。夏子には時々、こういう事を感じることがあった。一種の予感のようなものだろうけど、不思議と幸運に関わる事もあったりする。


 夏子はこの予感というか霊感インスピレーションを信じる事にした。

(自分が変わる事が出来るきっかけになればいいな……)



 夏子は思い切って、食事を食べ続けている男性に声をかけてみた。


 これが全ての始まりであった……。

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