婚約者殺しの天才令嬢は野茨の道を征く
野生くん
episode.1 王族殺しの天才令嬢
かつて、この世界に良くも悪くも多大な影響を及ぼした2人の天才がいた。
魔法も剣術も世界で10本指に入れる実力と世界中の人々の生活を豊かにする魔道具を開発できる頭脳を持ち合わせた完璧超人。
魔法も剣術も人並みだが、ずば抜けた観察力と推理力で天才を支えた天才。
バカと天才は紙一重という言葉がある。
これはとある2人の天才がバカになる、そんなお話。
◇◇◇◇◇
「みなさん、本日はご卒業おめでとうございます」
ターンパイク王立貴族学院の卒業式の壇上で校長が式辞を述べる。卒業証書を膝に置き、涙を流しそうになっている卒業生も何人かいる。
数分だけなのに長く感じる式辞を聞き終えた後は着々と式は進み、卒業生が退場する。
卒業生たちは自分の教室に戻り、担任の話を聞いた後は最後の談笑を楽しむ。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼しますね。今日は騎士団の方々と訓練する約束がありますので」
貴族の令嬢とは思えない発言をした少女は笑顔で手を振り、教室を離れる。
「リア様!!よかった、まだいてくれた」
教室を出た瞬間にその少女は前から来た少女に呼び止められる。
「ローズちゃん!」
ローズと呼ばれた少女は綺麗な青髪を揺らしながら走って寄ってくる。
「どうしたの?そんなに走って」
「リア様に言いたいことがあって、急いで来たんです!」
ローズは息を少し切らしながら言葉を続ける。
「私、リア様と一緒に魔道具の研究をするのが夢なんです!!だから、待っててくださいね。必ず貴女のもとに行きますから」
「嬉しいことを言ってくれるじゃない。ローズちゃんと話すのは楽しかったから1年間、楽しみに待ってるから来てね?約束よ?」
「はい!約束です!!」
2人は手の小指を伸ばす。そして、笑顔で小指を絡める。
「...またね、ローズちゃん」
ウィスタリアは腕を広げ、ローズを抱きしめる。別れの言葉を告げ、ローズから離れる。
後ろ髪を引かれながらも貴族学院を後にして、家に帰る。
「ただいま帰りました」
「ウィスタリア、お帰り。それから卒業おめでとう」
「おめでとう」
ウィスタリアを出迎えた父シラー・クローズと母スキラ・クローズがウィスタリアの卒業を祝う。
「ありがとうございます、お父様お母様。こんな日ですけど、私はこれから騎士団の方々と一緒に訓練をしてまいります。夜には卒業パーティーがあるので、日が落ちるまでには帰ります」
ウィスタリアは両親に伝えると、駆け足で自室に入り、ささっと着替え、自前の剣を背負って部屋から出てくる。そして、足早に玄関に向かう。
「気を付けるんだぞ」
シラーがウィスタリアを気遣いながら送り出す。
「今日くらいはゆっくりすればいいのにねえ」
スキラが帰宅して早々に騎士団の訓練場に向かったウィスタリアを送り出し、右手を頬に当て、困った顔をする。
「仕方ないだろう。それがウィスタリアだから」
「そうねえ。10になる頃には魔道具を開発し始めて、魔法も剣術も同年代の子と比べるのが可哀想なくらい秀でていて、私は少し怖かったの。だけど、あの子はただ優秀なだけでまだまだ未熟な子どもってことに気付いたのよね。だから今は胸を張って言えるわ。あの子は...ウィスタリアは何があっても私たちの誇りよ」
「そうだな。俺もそう思っているし、これからもそれは変わらない。ただ、未熟な部分が貴族として未熟ってだけで、自分の大切な存在を貶されたり、無下に扱われたりしたときに出る強い感情を全面に出して暴走してしまう、というのは人としては正しいとは思うよ。まあ、暴走は直さないといけないけれどね」
シラーとスキラが微笑み合う。
この夜、ウィスタリアがその暴走を引き起こし、重大な事件を起こすなど、知る由もない。
「騎士団の皆さん、ご機嫌よう」
騎士団の訓練場に着いたウォスタリアはいつものように挨拶する。
「ウィスタリア様、卒業式だったんだろ?今日くらい家でゆっくりしたらいいのに」
「私は家にいても魔道具のことばっかり考えてしまいますからね。騎士団のみなさんとの訓練は息抜きですよ」
「息抜きで騎士団と訓練する公爵令嬢とはこれいかに...」
「それでは私は準備運動してきますね」
騎士団員と言葉を交わしたウィスタリアはアップ専用の区画まで歩く。まだアップ途中の騎士団員と言葉を交わしながら一緒にストレッチをして、軽くランニングをする。
ランニングを終え、水分補給をしているところに騎士団長が近付いてくる。
「ウィスタリア様、本日はどうされますか?」
「どう、と言われましても...いつも通り騎士団員の方々と同じことをいたします。もちろん、アルファインディ騎士団長との模擬戦はさせていただきますけどね」
「わかりました。では、そのように取り計らいます。それにしてもウィスタリア様は勤勉ですな」
「卒業式が終わった後なのにここに来たことに関しての言葉なら勤勉という言葉は相応しくないわ。息抜きよ。頭ばかり使っていては剣の腕が鈍りますし。そんなことより左腕の調子はいかがですか?」
ウィスタリアがアルファインディの金属となった左腕に視線を移す。
「はい。かなり思い通りに動かすことができるようになりました。指先の細かい動きはまだおぼつかないところもございますが、困っていることは特にございません」
「そう。それなら安心よ。なにか問題が起きたらすぐに言ってちょうだい。早急に対処するわ」
「ありがとうございます。そのときが来たら報告いたします」
「あなたの仕事にも影響するし、できるだけそのときが来なければいいのだけどね」
「そうですね。しかし、そもそも私はウィスタリア様がいなければすでに引退している身ですから、たとえこの左腕が故障して、仕事に復帰できなくなったとしても文句などありませんよ」
「左腕が故障して引退したら私の気持ち的に落ち着かないから絶対に修理するわ。引退するなら左腕の欠損以外を理由にしてちょうだい」
「これは手厳しい。それなら次は足を魔物の餌にするかな」
アルファインディが笑いながら話す。
「.....笑えないわよ、それ」
ウィスタリアが呆れたような視線を送る。
「私はもうアップが終わったから一緒に戻りましょう」
ウィスタリアは一緒にアップした騎士団員とアルファインディとともに訓練をしている区画に戻る。
そこでは模擬戦をしており、木刀と木刀がぶつかり合う鈍い音が響く。
「今日は真剣いらなかったみたいですね」
「いえ、さっきまでは木人形に打ち込み稽古をしていたので真剣を使っていましたよ」
「あ、そうだったのね」
「ええ、ウィスタリア様もやられますか?打ち込み稽古」
アルファインディが使い終わって、壁際にひとまとめに置かれている木人形を指差す。
「いいえ、模擬戦をやらせてもらうわ」
「わかりました。では、やりますか?」
「ええ、お相手願えますか?アルファインディ騎士団長」
「わかりました。喜んでお相手させていただきます」
2人は少し距離を置き、10メートルほど離れると木刀を構える。
「参ります!!」
ウィスタリアが低い体勢で一気に距離を詰め、左からアルファインディの右脇めがけて振り上げる。
アルファインディはそれを半身になって躱し、ウィスタリアの頭上に木刀を振り下ろすが、ウィスタリアは手首を返し、左に動きながら木刀を傾け、振り下ろされた勢いはそのままで受け流す。
振り下ろされた木刀がウィスタリアの木刀に沿って、空を切る。
そして、ウィスタリアは再度手首を返し、アルファインディの腹の高さで右腕を横に振る。
アルファインディは振り下ろした木刀の勢いを止め、素早く右に振り上げる。それによって、ウィスタリアが右腕だけで持っていた木刀は弾かれ、宙を舞った。
アルファインディがゆっくりとウィスタリアの顔の前に木刀を突きつける。
「.....参りました」
ウィスタリアが両手を上げて、降伏宣言をする。
「いやあ、木刀の勢いをほとんど殺さずに躱されたときには焦りました。あとは筋力さえあれば、すでに私など、敵ではないでしょうな。最後のも両手で木刀を持たれていたら、私の振り上げた木刀とかち合って、どうなっていたかはわかりません。強くなられましたな、ウィスタリア様」
アルファインディが木刀を下ろして、ウィスタリアとの模擬戦を振り返り、褒める。
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。課題はやはり筋力ですか。ここ2年ほどは毎日筋トレしてはいるのですが、なかなか筋肉は付いてくれなくて.....そういう体質だからと割り切れてしまえばいいのですけどね」
「ウィスタリア様は技術が高いですから筋力などなくてもほとんどの人には勝てますよ。現に貴女に勝てたのは私と副団長、それと特選隊2人の4人だけですし、最近ではその3人もあなたに勝てていないのですからもっと自信を持っていいんですよ」
「騎士団長には勝てたことありませんけどね」
「腐っても騎士団長ですからまだ負けるわけにはいきませんよ。あなたに負けたときが引退を考え始める時期かもしれませんね」
アルファインディとの模擬戦を終えたウィスタリアは水分補給と少しの休憩をして、副団長や特攻隊の団員と模擬戦をした。それらは全てウィスタリアが勝利を収め、負けた騎士団員は悔しがっていた。
◇◇◇◇◇
煌びやかな装飾がなされた宴会場で、華美なドレスやウエストコートなどの貴族の正装で着飾った少年少女が集って、会話や食事を楽しんでいる。
ターンパイク王立貴族学院の宴会場で毎年恒例卒業生立食パーティーの真っ最中だ。
「私に話しかけるな!お前の顔など見たくもない!!」
そして突然、賑やかな宴会場には似合わない怒声が響く。
その声の主はこの国の最高権力者ルドベキア・リン・ターンパイク王の息子、アザミ・リン・ターンパイク王子殿下である。
その隣では伯爵令嬢が厭らしい笑みを顔に貼り付けて、正面に立つ公爵令嬢を見ている。
「なんの騒ぎだ?」
「殿下の前にいるのって.....」
「殿下の婚約者のクローズ公爵令嬢....ウィスタリア様」
「魔法師団長と張り合う魔法技術に並の騎士相手なら難なく勝利する剣術。そして剣術は騎士団長にも一目置かれる実力者で、さらには画期的な魔道具を発明するほど優れた頭脳も持ち合わせている完璧超人。クラスが違ったから目にするのは初めてだ」
王子の急な発言とその発言を向けられた相手に戸惑う声が上がる。
「なぜ殿下は婚約者である私にそのようなことを仰るのでしょうか?」
「お前のような女は私の婚約者に相応しくない。自らの発明品を国を豊かにするためでなく個人的な嫌がらせに利用するなど言語道断である!」
「なっ...!私が私の開発した魔道具で嫌がらせなどするわけがないでしょう!!私は魔道具の研究を愛しています!この世の何よりも魔道具を愛しているのです!人を救うために使うことはあっても人を苦しめるために使うなんてありえません!!」
「とぼけるのもいい加減にしろ!俺の隣にいるアイボリーがどれほど苦しい思いをしたのか分からないのか!!」
アザミが隣のアイボリーの肩に腕を回し、語気を強める。アイボリーは手で涙を拭うふりをし、口を隠す。
ウィスタリアはそれを見て苛立ちつつ、殿下に対して真摯に応える。
「.....わかりません。身に覚えがないですし、殿下が何に対して気を立てていらっしゃるのかもわかっていません。私がスケミン伯爵令嬢に何かいたしましたか?」
「なんだと!?この期に及んでしらを切るつもりか。わかった。今まで我慢してきたが、もう我慢の限界だ。私はお前との婚約を破棄することをここに宣言する!!」
「そ、そんな.....どうして」
ウィスタリアは頭が真っ白になる。
「アイボリーに対する数々の嫌がらせ、下級生をパシリのように扱い、すべての人を見下しているかのような態度。まだまだあるぞ。この場で盛大に発表してやろうか!!」
「.....そんなの知りません。スケミン伯爵令嬢に嫌がらせはもちろんのこと、下級生をパシリとして扱った覚えもありませんし、見下してなどおりません!!」
「ウィスタリア、どこまで堕ちれば気が済むのだ.....私はお前を信じていた。いつか自らの愚かさに気付き、改善するだろうと。だが、その時は来なかった......もう認めたらどうだ」
「そんな.....私は...なにもやってないのに」
ウィスタリアは涙を流しながら膝から崩れ落ち、手を床につく。
私は何を、どこで間違えたの?魔道具を開発し始めたのがいけなかったの?。それとも私に魔法の才も剣術の才もなければよかったの?そもそもこの世に生まれなければ良かったのかもしれないわね。私という存在がいなければ......
その考えが頭に浮かんだとき、ウィスタリアの頭の中にたくさんの顔が流れてきた。魔道具のおかげで生活が便利になったと喜んでくれた人の顔、魔法の技術や剣術を褒めてくれた人の顔、そして、厳しかったけれどいつも笑顔でたくさんの愛情を込めて育ててくれた両親の顔。
それらのおかげでウィスタリアは考えを改める。
いや、それはダメだ。それは私を産み、ここまで育ててくれたお父様ととお母様に対する冒涜になってしまう。そんなことはしたくない。いいえ、してはならない。だから私は、今までと同じように私にしかできないことで国のために、人のためになろう。これからも生活を便利にするための魔道具をたくさん開発して、世のために尽くそう。
───それが私の唯一の価値となったのだから
ウィスタリアが涙を拭き、立ち上がる。
それを待っていたアザミはウィスタリアを諭すように話し始める。
「お前はやりすぎたんだ、ウィスタリア。己が優れているからという理由で他者を見下し、物のように扱い、気に入らなければ嫌がらせをする。どうやら父上はお前に才能があるからという理由で自由にさせすぎたようだ。だが、私が王になったらお前には魔道具の研究を一切させずに王城の離宮で過ごしてもらうのが良いだろう」
「ッ...で、でんか、今、なんと......?」
ウィスタリアは今にも消えそうなか細い声を紡ぐ。
「魔道具に関する研究の一切を禁じ、何もしないよう王城で監視すると言ったのだが、何か不満でもあるのか?自ら開発した魔道具を悪用するような奴にこれから先も魔道具の研究をさせる訳にはいかないだろう」
魔道具の研究が、できない...?それじゃあ、私の価値はどうなるの?...生きる意味は?
私にとって魔道具は命そのもの。それを奪われたらそれはもう死んでいるも同じ......そうか。殿下こいつは私を殺そうとしているんだ。
このとき、ウィスタリアの中でプツンと何かが切れた。
「......そうですか、わかりました」
───殺される前に殺してしまえばいいんだ
ウィスタリアの思考は決して超えてはならない一線を軽々と超えた。
魔道具というウィスタリアにとっての大切な存在を貶し、ウィスタリアから奪うことはまだまだ未熟な彼女が暴走するのに充分すぎる燃料だった。
「おう!わかってくれたか!!堕ちるところまでは堕ちていなかったのだな。安心したぞ、ウィスタリア」
「殿下ついでにスケミン伯爵令嬢にこれをお渡しします。真偽はどうであれ、お2人を困らせてしまったようですので私からの謝罪とでも思って受け取ってください」
ウィスタリアが笑顔を浮かべ、細やかな金属の装飾がなされた小さな木箱をアザミとアイボリーに1つずつ渡す。
「では、私はこれで失礼いたします」
ウィスタリアが頭を下げ、後ろを振り向き、出口へと歩き始める。
「待て!!....っがあ!?」
アザミが木箱を足元に落とし、それが床に落ちた瞬間に爆発し、ウィスタリアを捕まえようと足を踏み出したアザミの足を爆散する。
「...殿下!!」
それを見たアイボリーが木箱を放し、アザミに駆け寄った。もちろんその木箱も床に落ちた瞬間、爆発する。それは2人の真横で爆発したため、2人は爆風で吹き飛ばされる。
「そういえば、その木箱の中身は僅かな衝撃でも爆発する危険物ですのでお気をつけください。あら?もう遅かったようですね。失礼しました」
爆発の影響が2人以外に及ばないよう、2人を閉じ込めるように魔法で障壁を張っていたウィスタリアが振り返って言い、再び出口に歩き始める。
「何が起こったの?」
「今の爆発なに?!」
「あそこに横たわってるのって....」
「殿下とアイボリー嬢...なのか?」
「死んで....」
しばしの静寂の後、状況を把握した会場は阿鼻叫喚の嵐となった。
皿やグラスを持っていた人はそれを落とし、食べ物や飲み物が飛び散り、床や机がひどく汚れている。
ある者は叫び、ある者は放心し、ある者は焼け焦げになった2人に駆け寄る。
「なんの騒ぎだ!!」
宴会場の外から1人を除く騎士団員が一斉に駆け込んでくる。それと入れ違いでウィスタリアが宴会場を出るが、そこで騎士団長と相対する。
「さっきぶりですね、ウィスタリア様。もうお帰りになられるのですか?」
「ええ。殿下に婚約破棄を言い渡されてしまいましたので同じ空間にいるのが辛いため、一足先に帰らせていただくことにしました」
「そうですか。お帰りになられる前に少し尋ねたいのですが、中で何があったかご存知ないですか?」
「詳しいことはわかりませんが、殿下が不注意で何かを爆発させたみたいです」
「そうでしたか。私はてっきり何かしらの爆発物を持ち込んでいたあなたが殿下を殺したと思っていたのですけれど、どうですか?ターンパイク王国が誇る天才令嬢様」
「途中までは合っていますね。ただ、爆発させたのは殿下の不注意ですので、私は悪くありません。そこを通していただけませんか?いくらアルファインディ騎士団長といえど魔法も併用した私に勝つことはできないと思いますけれど」
「それはそうでしょう。それに加えてそっちの魔道具も使われたら私に勝ち目はない」
アルファインディはウィスタリアが左の太ももに手を伸ばし、護身用の魔道具を使おうとしているのを見逃さなかった。
「ではなおさらです。そこを通していただけませんか?私はただ婚約破棄されたショックで国外逃亡するだけの不幸な少女です」
「本来ならそういう訳にはいかないのですが、私は貴女に大きな借りがある。そういうことにしておきましょう」
アルファインディは今はもう金属となった左腕を触りながら道を開ける。
「まずは、アウトストラーダ帝国を目指すとよろしいかと。あそこはこの国と同じくらいの大国ですので、いい隠れ蓑になるでしょう」
「ありがとうございます。このご恩はいずれ必ず」
「達者でな」
ウィスタリアはドレスを広げ、お辞儀をして足早に去る。
「ウィスタリア様、私はもうあなたから目が離せない。それほど貴女は面白い。ゼラニウムにもこのことを伝えてやろう。あいつはウィスタリア様に昔から会いたがっていた【キュグニーの鷲】のメンバーだからな。知らせなかったら俺が怒られそうだ」
アルファインディは背後に魔法障壁を展開させたまま歩くウィスタリアを見ながら胸の前で拳を握り、狂気じみた笑顔になる。
「心臓を誰かに叩かれてるみたいに高鳴っている。これから世界は大きく揺らぐ!こりゃ騎士団長なんてやってる場合じゃねえ。そもそも、もうこの国に俺の興味を唆るもんはない。俺は俺の信念を貫いて自由に
アルファインディはもうウィスタリアがいない廊下を期待に満ちた表情で眺めていた。
*****
ターンパイク王国王都から出たウィスタリアは月の光が照らす中、広い草原を歩いている。
どうしてこうなったんだろう。何がいけなかったのだろう。
なぜか最初から殿下に嫌われていたし、学院に入ってからはそれが顕著になった。
いつか婚約破棄されるかもしれないとは思っていたからそれは別にいい。でも謂われのない罪を理由に婚約破棄してきたのは少し腹が立った......でもそれはまだ我慢できた
けど、それよりも魔道具を嫌がらせの道具扱いしてきたこと、魔道具の研究を禁じてきたことはどうしても許容できなかった。
これでクローズ家は良くてお家取り潰し、最悪一族みんな処刑。本当にどうしようもない親不孝者だ、私は。
「本当に...なにしてるんだろ。私」
涙が溢れないように上を向くと、ぼやける視界に数多の光が飛び込んでくる。
「どうして、今日の星空はこんなに綺麗なの?」
溢れ出た涙が月の光で輝きながら頬を伝って地面に落ちる。
───ああ、いつもなら喜ぶこの星空も今はただただ恨めしい。
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