幸福な死

砂糖 雪

1. 「車内にて」

 今日、僕は自殺する。

 定刻通りに進行する名鉄名古屋本線豊橋行の列車内で、僕はひとり心の内でそう呟いた。もう何度目かの繰り返しになるその決心は、未だにどこか非現実的で曖昧な雰囲気を帯びていた。


 僕はひとつ大きな欠伸をしながら伸びをして、ふと窓から外の景色を眺めた。車外にはいま、県を横断する木曽川が見えている。

 時折大きく揺れる車内では、車窓から入り込んだ暖かな春の陽射しが、穏やかで眠気を誘う心地よい空気を作り出していて、どこか間延びした春という陽気で幸福な季節を体現しているようだった。平日の昼間だということもあって、乗客はまばらだ。


 刻一刻と目的地へと近づいていくこの列車が、僕にとってはさながら地獄行きの急行列車なのだということを考えると、それが不思議とおかしくて笑えることのように思えた。

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