本当にあったかもしれない奇妙な話
村田典明
夢、買い取ります ①怪しいチラシ
広がる大地、駆ける馬、賭ける大人。
「いけっ!いけっ!…だーっ!!くそっ!!」
紙屑になった馬券を投げ捨てる若い男。彼の名前は
何年前に買ったかわからないシャツとジーパンを履き、穴の開いたブランドの財布はいつまで経っても買いかえられない。
「はぁーあ。金持ちになりてぇなぁ。金持ちになってブランドで固めて、美味い飯食って、いい女と結婚して…。金金金!金さえあれば最高の暮らしが手に入るのに!!」
まだレースはあるが彼は競馬場を後にする。金がなくなったのもあるが、今日は友人との約束があるのだ。
目的地の居酒屋へいく途中、街頭募金を呼びかける男を見かける。
「
募金の男は立派な文句を垂れ流す。歩夢には信じられないことにサラリーマン風の男や子連れの主婦が募金している。男は感謝の気持ちを全身で表すように深い深いお辞儀を繰り返す。
(俺にも募金してくれ…。今日呑んだら、あとは…)
歩夢は財布の中身を確認する。入っているのは5219円。正真正銘の全財産だ。歩夢はため息をついて居酒屋へ向かう。
「なんだ歩夢。今日もボロ負けか?」
乾杯をした直後に言われた言葉がそれだった。床にはギターケース。茶髪にピアス。最近は髭を伸ばし始めているこの男の名前は
「負けてねぇよ。金を預けてるんだ。何倍にもなって帰ってくる。」
「はっはっは!その言い訳何年続けるんだよ!ま、そんな調子だと思ってよ。いい話を持ってきたんだ。」
そう口火を切られて、こいつもか…と歩夢は思った。今年で26歳。怪しい投資話や勧誘を受けることは何度もあった。
現太郎はその疑いを感じ取ったのか、手を横に振り、カバンから一枚のA4サイズのチラシを出した。
「違ぇよ!詐欺話じゃねぇよ!怪しい…か怪しくないかはちょっとわかんないんだけど、確かに金がもらえるんだ!これ、読んでみろ!」
歩夢は現太郎から差し出されたチラシを読む。その見出しはこうだ。
『夢、買い取ります!!即日現金払いOK!!』
内容を読み進める。どうやら、俺たちが睡眠時にみる夢を高値で買い取ってくれるという話らしい。
「ばっかばかしぃ。夢なんてどうやって買い取るんだよ。」
「それがな…ジャジャーン!」
現太郎が呆れる歩夢に見せたものは札束だった。ざっと数えて20枚はある。
「なっ!それどうしたんだよ、まさか…」
「そのまさか。今日実際に売ってきました。これをスタジオ代とかイベント代に充てるんだ。目指せ!メジャーデビュー!」
希望に満ち溢れた顔をする現太郎。
「売りたいならすぐに行った方がいいぜ。もし、今日の夜に夢を見ちゃったら売れる夢が一個減るわけだからな。売る気があるなら明日にでもいってこい。このチラシはほら、やるよ。」
現太郎から押し付けられたチラシ。家に帰ってから実に30分。ずっとにらめっこしている。不安から何度もスマホで夢買取屋について調べるが、
『即日現金払いで最高』
『
『不要な夢を高額買取してくれた!』
『詐欺集団』
『政府の陰謀が絡んでる』
どれもこれも信用に値しない情報ばかり。しかし、それも共通しているのは『金は払ってくれる』ということ。
(これが本当なら、夢なんていくらでも売ってやる。売った金を競馬で…いやいや!違う、違う。こんな生活から脱却するんだ。このボロアパートから出て、いい服買って、いい時計つけて、働かないで生きるんだ。そうだ、明日店に行こう。行くだけならタダなんだから。)
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