第60話シーフのたわごと

ラビィの手持ち財産は使い果たした。幸い道ばたで立ち往生というわけではない。金緑の森は中央銀河のすぐ近く、ミントミルキーウェイ9分目なのだ。おかげで歩いて街までたどりつけた。街までくれば銀行がある。銀行で自分の口座からいくらか旅費を引きだそう。(大して貯めているわけではないけれど・・・。)

そう考えてラビィは、中央銀河の大銀行へと向かった。

途中、買うお金は無いと分かっていながらも、中央銀河街のきらびやかな街並みをながめてラビィは楽しんだ。

色とりどりの恒星のランプ、形も出身も様々な星人たちが楽しげに行き交う。自分のつぎはぎの格好もこの中ではさほど気にならないような気がした。

そうこう思いながら銀行の前まで来ると、ぽつんと、足組みして電灯に寄りかかる仮面のひとりが銀行の前で物憂げに立っていることにラビィは気がついた。

ラビィは気がつきながらも、その前を通り過ぎて銀行に入ろうとした。

すると、はあ。とため息をつく声がそのひとりから聞こえた。

ラビィは嫌な予感がしたので、その声を振り切って銀行の入り口に向かおうとした。

すると再び、はああ。とため息をつく声がそのひとりから聞こえて、

「やあそこの君、」と、ついに話しかけられた。

なにかやっかいごとに巻き込まれそうな気がしてラビィは「ええと、僕、先を急いでいるんですが・・・。」とせかせかした素振りで振り返った。

「急いでいるところすまないね、ただ、私を連れとして銀行の中に連れて行ってくれないかと思ってね。君の身なりのユニークさはなかなかそうだね、私がいることを周囲に忘れさせられるかもしれない。」

「どういうこと?」

ラビィはそんなに変な格好だろうかと気にしながら、仮面に聞いた。すると、電灯の後ろのほうで、クレープの屋台をやっていたお兄さんが身を乗り出して代わりに答えた。

「こいつ、どんな金庫も破れるって豪語するシーフなんだけどね、まず銀行に入っては警備員に放りだされての毎日なんだよね。ま、いつものことだから、まわりみんなは日常茶飯事の平和な光景と思っているよ。」

「金庫の前まで行けたら解錠の腕前は天下一品なんだぜ!」

シーフがクレープ屋をさえぎって、ラビィに身を乗り出して言う。

ラビィはそれを聞いて運命だ!と思った。「何でも解錠できる。なら、この手錠も?」ラビィがせききってシーフに聞く。

シーフは仮面の首を思わせぶりに傾げ、

「造作もないこと。」

そう、ふふんと自慢げに鼻笑いした。

ラビィは飛び上がって喜びそうになった。悪いことは続かない。運が向いてきている。ラビィはシーフの前に手錠を差し出した。

「これが外れたらオレを銀行につれていけよ・・・」

シーフは手錠外しに取りかかった。

カチャカチャ・・・

カチャカチャ・・・

カチャカチャ・・・

シーフの手錠外しにかかる音が響く。

それは続いた。

夜まで続いた。

そうしてしばらくたって・・・ガチャリ!

その音にラビィは今度こそ飛び上がった。

外れた!?

・・・いいや違った。

その音はシーフがくたびれにくたびれて解錠道具を地面に放った音だった。

「なんなんだこれはー!カギが外れたと思ったらその先にまたカギ、それまたカギ!・・・」

ラビィはがっかりした。

「やめた、やーめた!もうやめた!こんな迷宮みたいなカギ。銀行の中でこんなカギにでくわしたら即お縄じゃないか!ええい、もっと割の良い話しでも探そ!」

そう1人芝居し終えると、じゃあな、と言って、シーフはさっさと銀行の前から去って行ってしまった。

ぽつん、ひとりとりのこされたラビィ。

銀行にお金をおろしに行かなくちゃ。そう思いかえして銀行へ向かおうとする。その瞬間だった。

「やあ君おてがらだよ。」

クレープ屋台のお兄さんがラビィの肩に手を置く。

ラビィはなんだろうかとお兄さんを見る。「あの泥棒、うちの銀行に目をつけて離れなくて困っていたんですよ。それをあなたがおっぱらってくれた。いやあ、ありがたいことです。」

「・・・あなたは?」

「私は・・・おっと。」

銀行の入り口から警備員さんがなにやらクレープ屋台のお兄さんに目配せしながらやってくる。それを見て、お兄さんは口を開ける。「本当かい?なんと、おやじが君にお礼がしたいって、ああ、私かい?私はここの銀行主の息子。こうして社会勉強してる。」

そう言うクレープ屋台のお兄さんに、さあさあと有無を言う間にラビィは銀行の中に招き入れられ、ふっくらふくよかな銀行主の手を広げている前まで連れて行かれて、また有無言う間にぎゅっとだきしめられた。

「窓から君のお手柄を見ていましたよ。ありがとう、ありがとう。悩みの種がひとつ消えました。さあこれはほんのお礼です。」

有無言う間に貨幣袋を手に押しつけられるのを、今度はラビィは口を開いて言った。

「僕、何もしてない。受け取れません。」

銀行主がラビィの顔の前に人差し指を出して言う。

「その上謙虚ときてる。謙虚なのはいいことだ。金銀銅貨を集める。やはりこの通り。」

そう言って銀行主は貨幣袋を再度ラビィの手に押しつけた。

それこそ強盗に遭って、ほぼ一文無しのラビィはこの好意につい口をつぐんだ。

こうしてラビィは思わぬ収入を、得た。

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