第13話からくり細工師と幾何学模様のからくり箱

「それはこっち、あれはあっち。」

麻布ティシャツの老人が自分の机に向かって、後ろの者に指示をする。それはラビィだった。ラビィはあっちへ行っては機械の部品を置き、こっちへ行っては工具を持ってきてからくり細工師の後ろ手に渡したり大忙しだった。

なぜかからくり細工師の部屋に入ったとたん指示がとんできて、それがあんまりにも鋭いものだったから、ラビィはおもわず手伝ってしまったのだった。

それからはまあまあよくこなしてはいたものの、今までは手錠でままならないほぼ一本の手と両足に工具や部品をはさんでなんとかやっていたので、いっぺんに4つもの指示がきたとき、ついにどんがらがらがっしゃん。ラビィは手と足がもつれて大転びしてしまった。からくり細工師がびっくりして後ろを振り返る。

「君という優秀な助手がへまを?ん、んんんー?あれ君は?」からくり細工師はルーペをちょいと上に上げる。

ラビィをさっき下に降りていった白衣の少年が戻っていたものと勘違いしていたようだった。

ちょうどラビィだって白い。

「わっはっは、助手と勘違いしていた。きみ、転んでこんぐらがってるじゃないか、どれ、どんなからくりパズルも分解、構築、このからくりじいさんがほどいてやろう。」

からくり細工師はラビィをすすするりと簡単にほどく。そして手のからまりをほどこうとするときに、うん?とうなる。

「これは?」

「手錠です。銃刀法違反の法律の国でかけられてしまいました。銃は旅の護身用で、ぼくは外す方法を探しているのですが、ハンマーや包丁や剪定ばさみでも外せませんでした。ベテランのからくり細工師さんならなんとかしてくれるんじゃないかって聞いて、砂漠をこえて訪ねてきたんです。」

ラビィがからくり細工師に手錠をぐいと見せる。

「それはまた、大変なことだ。どれ、どんなからくりパズルも分解、構築、このからくりじいさんに見せてみろ。」

そういってからくり細工師はざっと全体をながめた。そのあと真剣な表情になって、手錠の鍵穴調べ。鎖の継ぎ目調べ。とにかく構造の全部も全部、調べ尽くそうとした。

手錠にルーペで目をこらし、工具でいじくりまわして数時間。

「なんなんだいこりゃあ、まるで出口なしの不思議の迷路だ!」とからくり細工師が叫んだ。

どうやらあったと思ったところにネジがなくなったり、なかったと思ったところに金具が現れたりするので、解読のしようがないというのだった。

「こんなことは初めてだ。」からくり細工師は面目まるつぶれというかっこうで、がったり自信をなくしてイスにもたれかかってしまった。

ラビィは手錠の外れないことで落ちこもうもからくり細工師をはげまそうもどうしようか迷ってしまった。迷って部屋を見まわすうちに幾何学模様の並んだ美しい木箱が目に入った。

「これはなに?きれいだ。」ラビィは迷いをほうっといて気紛らわしに聞いた。

からくり細工師がゆっくり腰をあげて木箱にラビィに近づく。

「ああ、それは私の作ったからくり箱だよ美しい木に美しい模様、正確なからくり、傑作の工芸品だよ。正確は美しい。からくりは美しい。私はそれにみいられているのだよ。それでこの数十年正確なからくりと向き合い続けてきた。その不協和音のようなしろもの、すまないがそんな私にはとけないよ。」からくり細工師が憂いげにからくり箱をなでながら言う。

「あの、でも、見てくださってありがとうございました。」

「いいや・・・」

ふと、からくり細工師のからくり箱をなでる動きが止まる。

「そうだ、この木箱の良質の材木、いつも届けてくれる森のきこりがいるんだが、すっぱりキレイにキレる重量級の斧をもっている。」

「それなら切れるかもっていうんだね!」「ああ。」

からくり細工師はからくり箱をラビィがきれいだと言ったことに少しすくわれていた。「街を出てまっすぐ行った森のパステルカラーのレンガの家にきこりはいるよ。」「ありがとう!」

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