I'm on Fire
在本 在文
I'm on Fire
I'm on Fire 在本在文
I'm on Fire
「──え? 天国の欠片。ふふ、教えない」
涙の匂い──君が居た。
かなしいまち。
放課後。初めて話をしたこと。
教科書。忘れてなんかなかったこと。
夕暮れ。すれ違う酔いどれの歌の続きを口ずさむ君の、とぼけた顔が可笑しかったこと。
ふてくされたこと。
運動部を冷やかしに行ったこと。
理髪店の匂いが好きだと言ったこと。
お酒を万引きしたこと。
おいしくないと言って僕に押し付けて来たこと。
一緒に怒られたこと。
君だけが残されたこと。
夜、嘘を吐いて出掛けたこと。
「私、目が悪いから夜が綺麗なんだ」
それは、僕だけが聞いたんだよ──。
恐る恐る触れた君の、柔らかな身体が刃物のように緊張して僕は──輪郭を失った。
爽やかな憂鬱と、背中の秘密を抱きしめた。
酔いどれの歌は途切れ──ふたり、うたた寝──。
──いつまでも、こうしていたい。
君は、何故か悲しそうに笑った。
それがどうしてなのか解らなくて。
僕は──。
みんなが、おかしかった。
君も、何か、おかしかった。
──どうしたの? どうして。誰が話したの? 大丈夫って、なんで。だって、そんなのおかしいよ。
君は何も悪くないじゃないか。ただ、懸命に生きようとしてるだけじゃないか。
許せない。
もどかしさに震える罪悪感は──こんなものは──あってはならなかった。
僕は──。
帰り道の桜は、町並みに沿うように枝を切られて静かに散っていた。
君は、ずっと黙ってた。
──たぶん、もう大丈夫だよ。
──もう、これからは何も心配しなくていいよ。
返事がなくて、だから僕も黙って──空を見た。
あれは──虹──?
「ねぇ──」
え?
「私、君のことが好きだよ」
僕は──。
──そのコンパス、なに?
きらきらと流れる風に透き通る君は生きていることが不思議に思えるほど美しかった。
だから、僕は──。
──今、あの子に何を言おうとした──。
君を悲しみから遠ざけたくて。
僕は──。
──おい、殺すぞ。
僕は、君の暴力になりたかった。
あの日、止まった時計の屋上で、大人になることを拒否するように微笑んだ君の、あたたかい諦めに濡れた悲しそうな眼差しがどこまでも可憐で。
戸惑ってしまった私はそれを誤魔化しているうちに君の髪が空色に映って──。
それが、少しだけ寂しい最後だった。
そのことを──ずっと叱ってほしかったんだよぉ!
あの日、君は泣いてたんだ!
全然幸せなんかじゃなかったんじゃないか!
欠片だけ残して、君は居ないじゃないか!
返すから! なんだってするから!
どうにかしてくれッ!
死ぬには早いと──気づいた朝に──キスした君に──いつしか私──。
──あぁ、やっと逢えた。
幻覚に怯える頬に触れた君のささくれた手の優しい感触がまやかしでも──。
もう、それでもいいと思った。
捨てようとした本から栞が落ちて──。
──天国の欠片だ──。
息出来ぬほど、生きていること。
意味で死ぬ者。
君でいる理由を──。
誰も、間違ってなんかいないんだ。
生きることが好きになれなかったお前を、俺は思い切り抱きしめるぞ!
そして愛してると言うんだ! 言い張るんだ!
「──虹? それほど綺麗じゃない。知ってるでしょ?」
命を交換しようって言ったこと──君は覚えてる?
I'm on Fire 在本 在文 @Arimoto_Arihumi
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