第19話 黒雨

クロンズとヌアンテの体に憑依している

悪魔のルシファーはいまだにお互いの手を

掴み合い、手押し相撲のように争っている。


奏多と光宙は、その様子を眺めつつ、

どう喧嘩をとめようかと考えていた。


「おい!!

 話し合ってないで、早く助けろって。」


 クロンズは手に力が想像以上に入る。

 ぎぎぎと力をこめるが、ヌアンテの体は

 ルシファーの力になっているせいか、

 女子のはずなのに猛烈に強い。


 額に汗が光る。


 奏多の耳に突然、ノイズが入った。

 テレビの放送終了後に表示されるざーと

 波のような音だ。

 水のブルーノイズだった。

 両耳をおさえると、さらに耳に響く。

 止められない。

 

 奏多の様子を不審に思ったルシファーは

 腕を大きくふりあげて、ピアノ線のように

 細い気を飛ばした。

 何も物体はないはずだった。

 奏多の頬が線を引いたように切れて、

 血が出ていた。


「いたたたた。」


ルシファーは翼を広げて、高く飛び立った。

クロンズは、急いで、奏多の近くに

駆け寄った。


「我が名は、ルシファー。

 その者の命はないと思え。」


 ヌアンテの口を借りて、

 太く恐ろしい声で言っていた。


 天使であるヌアンテは恐ろしい悪魔へと

 変貌しつつある。


「うぅ…。」


ブルーノイズが響いて、

立っているのもやっとだった。


手を天にかざして『黒雨こくう』と

叫ぶ。


冷たく、黒い雨が降り注ぐ。

鼻の頭にぽつんと冷たい雨が降った。


しばらくすると小雨だったものが

土砂降りになる。


「奏多!!雨を避けろ!!」


 光宙も一緒に飛んでいる。


「え?!」


 クロンズは、奏多の頭に翼を広げて、

 雨に当たらないように防いだ。


「この雨に当たるとネガティブに

 引きずり込まれるぞ。」


 黒雨のさらに追加された力は

 雨に触れると、マイナスのネガティブな

 感情に吸い込まれてしまうのだ。


「え、ああ、うん。

 わかった。」


「ちょっと、待ってな。

 えーっと、ルシファ−のことは

 わからねぇけど、黒雨の対処方法は

 わかるはず。」

 

 悪魔であるにもかかわらず、

 詳しく知らないようだ。


 空中に透明なウィンドウを表示させた。

 属性についてのことが書かれていた。


 黒雨に対する対応のものは一切ない。


「えーーい!黒だから

 白でいいじゃないか?」


「そんな適当な…それでいいの?」


「んなの、知ったこちゃっねーよ!!」


 クロンズは指をパチンと鳴らした。

 

 目の前に、パッと真っ白な傘が現れた。


「ホワイトアンブレラだな。」


 ふわふわと空中に浮かんだ。

 とってのない傘が次々と現れた。


 真っ黒な雨が白い傘に吸い込まれていく。


 ルシファーは舌打ちをして、

 不機嫌な態度をとった。

 頬杖をついて、ため息を吐く。



 奏多とクロンズはハイタッチをして

 喜んだ。



 雨がやむと、傘の下には

 太陽がないはずの異空間に虹が

 キラキラと輝いていた。


 

 

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