第15話 ドロドロした者との闘い

鉄で出来たドロドロとしたモンスターは

じわじわとクロンズたちに迫ってくる。

どんどん範囲は広くなって、

冷めたところは固まって行く。

その中に入ったら、最後、体は塊になり、

動けなくなるだろう。


「おい、息吹。

 お前が動かないと意味がないぞ。

 目を覚ませよ。」


 緊迫した空気の中、

 クロンズの背中の上で

 気を失っていた

 息吹が目を覚ました。

 この世のものとは思えない低い声が

 地面の振動とともに聞こえてくる。


「な?! なんだあれ!?」


 バサバサとクロンズの翼が繰り返す。

 隣では鉄が固まって滑り台のように

 斜めになったところをヌアンテと

 ハリネズミの微宙が遊んでいた。

 相変わらず、恐怖感を感じていない。

 クロンズたちは呆れていた。

 それでも迫ってくるものに

 立ち向かわなければならない。


「なんで、

 優雅に遊んでられるんですかね。」

 

 コウモリの光宙は、クロンズの隣で

 ボソッと言う。


「とりあえずだな、鉄に効果があるものは

 なんだっけなぁ。」


 クロンズは長い爪を空中に出して

 透明なウィンドウを出した。

 悪魔界の教科書が映し出された。

 

属性魔法の強弱関係が記されてあった。


・水属性は炎属性に強い。

・炎属性は樹属性に強い。

・樹属性は水属性に強い。

・鉄属性は氷と岩属性に強い。

・氷属性は樹と岩属性に強い。


「ん?ちょっと待ってよ。

 鉄は氷と岩に強いのは分かったけど、

 弱点ってなんだろう…。」


「ねぇねぇ、逃げなくていいの?

 津波みたいに来てるけど?」


息吹はクロンズの背中から空中に

豪快に襲ってくる『アイロン』という

モンスターがギロリと鋭い目つきで

睨んでくる。

クロンズは、後ろに方向転換して、

逃げ回った。海のごとくバシャーンと

地面に叩きつけられる。

マグマが固まったように

たくさんの鉄の塊があちこちに

できあがってきた。


「というか、なんで鉄製のモンスター

 なんだろう。」


「学校の校庭にたくさんあるだろう。」


「あーー、砂鉄ってこと?

 これって、その塊?」


「そういうことだろう。

 てか、まだ弱点調べている

 最中なんだけどな。」

 

 アイロンというモンスターは、

 校庭にたくさんある砂鉄が集合し、

 固まってできたモンスターだ。

 息吹のネガティブを吸い込んで

 実体化している。

 クロンズは襲ってくるアイロンの

 黒い細長い手をくねくねと

 蛇行に避けて飛びながら、 

 空中にウィンドウを開いて

 スワイプしながら属性辞典を調べた。


「あーー…あった。

 なんだ、普通に炎属性でいいんだった。

 刀とか作る時熱くして溶かすんだった

 よな。忘れていたわ。」


「うん。そうだね。

 刀鍛冶屋さんが熱いのかけて

 トントンやっているのテレビで

 見たことあるよ、僕。」


「わかってるんじゃねーか。

 よし、やるぞ。」


クロンズはアイロンに立ち向かい

背中に息吹を立たせた。


指パッチンをして、唱える。


「「ファイアブレス!!!!」」


2人で力を合わせて、唱えた。

息を思いっきり吸って吐くと、

2人の口から大量の炎が湧き出てきた。


みるみるうちにずんずんと迫ってきていた

アイロンは広範囲の炎に包まれて、

どろどろ赤いものに溶けていった。

溶けたアイロンはするんと

端にあった排水口に次々と流されていく。


「あーあ。滑り台楽しかったのに…。

 ねぇ、微宙?」


「え、いや、全然楽しくなかったですよ…。」


クロンズに怒られることが分かっていた

微宙はビクビクしていた。


「うそ、さっきすごい楽しんでた

 じゃない。」


「え、いや、そのだって…。」


ずんずんとクロンズが2人の目の前に

迫ってくる。鬼のような形相でヌアンテと微宙を睨む悪魔のクロンズがそこにはいた。


ドロドロしたものから

砂鉄に戻ったアイロンを

ただじっと見つめる光宙が端っこにいた。

それを見つめる息吹もいる。


「あのさ、お前本当にやる気あるの?

 何しに来てるわけ。

 なんで、俺がお前の尻拭いしてるの。

 毎回毎回。本当は俺が

 そこのポジションなわけ。

 しっかりしろよ!!」


「……いいもん。いいもん。

 私はどーせ出来損ないの天使ですよーだ。

 悪魔にも天使にもなれないヌアンテなんか

 必要ないですよねーだ。」


 涙を流しながらペロッと舌を出して、

 空中に飛び立とうとした。


 端っこでアイロンの砂鉄をじっと見ていた

 息吹と光宙は反対方向にいる何かに

 気づいた。


「ねぇ、クロンズ!!

 あれ…。」


「……え。」


 その姿にクロンズと息吹、光宙、

 そしてヌアンテと微宙は

 その場をジリジリと後退りした。


 モンスターは倒したはずだと思っていた。

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